VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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2007年12月

朝日新聞に連載されている「患者を生きる」シリーズが500回を超えましたね。

4人に1人という時代から、3人に1人が何らかのがんに罹患したといわれる時代になりましたが、このところある小児白血病患者とその家族の苦難が何回かにわたり掲載されていました。

子どものがんで最も多く全体の3分の1を占め、発症は10万人に3~4人とされる白血病ですが、がん化した細胞の種類で「骨髄性」と「リンパ性」に分類されるそうです。

大人では2年前亡くなられた歌手の本田美奈子さんや、治癒されて現在も映画やTVで活躍中の渡辺謙さんも急性骨髄性白血病でしたね。

何種類かの抗がん剤を組み合わせての治療のほか、放射線、骨髄移植や臍帯血移植などが主な治療法です。

万単位のバリエーションがある白血球の型HLAの適合するドナーを見つけるのは非常に難しく、兄弟がいれば4分の1の確率で一致するそうですが、そうでない場合は骨髄バンクを仲立ちにHLAの領域が一部でも一致するドナーの非血縁者間移植や臍帯血移植に委ねられているそうです。

究極のボランティアといわれている骨髄移植のドナーは、移植が決定すれば短期間の入院が必要なことや、後遺症の確率もゼロではないということで、私を含め気軽にドナー登録するには躊躇がある人々が多く、ドナー登録数が伸びないというのが現状であろうと思われます。


前置きが長くなりましたが、本日ご紹介する物語はその骨髄移植を核に組み込んだミステリーです。


第47回江戸川乱歩賞受賞作『13階段』がメリハリのある作品でとてもおもしろかったので、著者高野和明氏のほかの作品に興味を持ったのがきっかけで手にしたのが本書『グレイヴ ディッガー』です。

ちなみに『13階段』は乱歩賞受賞作品の中で最も速く高い売り上げ記録を達成した作品だそうです。

1964年生まれの著者は映画監督・岡本喜八氏に師事し、映画やTVの撮影スタッフとして働いた後渡米し、ロサンゼルス・シティカレッジで映画演出・撮影・編集を学びました。

2001年『13階段』で第47回江戸川乱歩賞受賞

他の著書に『K・Nの悲劇』『幽霊人命救助隊』などがあります。


「第47回江戸川乱歩賞受賞作である『13階段』をしのぐ圧倒的迫力!
空前の疾走感で展開するノンストップ《サスペンス》大作」

本書帯のフレーズ通り、まるでジェットコースターに乗っているような目まぐるしい展開にこれでもかという逃走劇が繰り広げられ、あれよあれよという間に終局へ突入という感の物語でした。

人生の大半を詐欺などの微罪を繰り返していた主人公八神が贖罪のために白血病患者への骨髄提供という行為を決意したのがきっかけで闇の犯罪に巻き込まれ、まるで逃亡者のように逃げることで物語が進行していきますが、八神を追う者もグレイヴディッガー(墓堀人)を初めとする謎の集団や警察が入り乱れてどんどん糸が絡まっていきます。

中世魔女狩りを模した殺人者グレイヴディッガーを登場させた著者の意図はどういうものだったのか・・ヨーロッパの伝説に求めた材が魅力だという読者もいらっしゃるでしょうが、猟奇殺人事件的な読物が苦手な私にはその必然性が感じられず、読後感があまりいいものとはいえませんでした。

またいろいろな部署の警察官が登場、会話を通して部署間の軋轢などを描いていますが、このブログで前回取り上げた警察小説『震度0』があまりにおもしろかったせいか、猟奇的な題材に奇をてらいすぎたせいか、人間味溢れる主人公以外、魅力ある個々の人物への余韻が残らなかったのは残念でした。

判官びいきの我が家は伝統あるトラキチです。

義父や実父の代から続いているトラキチもしっかりその孫世代にバトンタッチされています。

東京に生まれ育って阪神のハの字も知らなかった長男のお嫁さんがいつのまにか私以上に詳しくなっていたのには驚きました。

弱いトラに泣き、強いトラに喜びの数十年、来年はどうなるのでしょうか。

今岡選手に代わって選手会長に指名された赤星外野手が「補強したから戦力が100から150になるもんでもない。あまりやりすぎると失敗することもある」と勇気ある巨人批判をしたことが話題になっていますね。

選手獲得に関する巨人の姿勢に常々歯噛みしていたアンチ巨人には力強い指摘でした!

それにしてもクルーン、グライシンガーに続き、打点王のラミレスまで獲得した巨人の財力のすごさ!

来年に新たな期待をかけます!



さて今回は何度目かの横山秀雄氏著『震度0』をご紹介したいと思います。

ノリにノッている旬の横山氏ですが、このブログでも過去に7作品をアップしていますので経歴とともに読んでくだされば嬉しいです。

     http://yaplog.jp/ashy_ashy/category_2/


これらの作品の中で私のイチオシは『クライマーズ・ハイ』、そして今回の『震度0』です。


寺尾聡主演で映画にもなった『半落ち』を最高作品に挙げる方がいらっしゃいますが、直木賞候補になりながら現実的に受け入れられない内容という理由から批判を浴びて落選したことから選考委員と横山氏の間に大きな溝が深まり、結果的に横山氏の「直木賞決別宣言」に発展したのは有名な話ですね。

私は選考委員の批判に組するものではありませんが、やはり『半落ち』読了後の違和感を拭い去ることができず、世評との大きなギャップに首を傾げたひとりでした。


というわけで、『クライマーズ・ハイ』に準ずるおもしろさで、★★★★というところでしょうか。


『クライマーズ・ハイ』は地方の新聞社を舞台、に520人もの死者を出した1985年の御巣鷹山日航ジャンボ機墜落事故を主幹にして組織と個人、家庭内での軋轢などを描いて秀作でしたが、本書『震度0』は地方の県警本部を舞台に、未曾有の阪神淡路大震災を併行させ、部内でのキャリア組と準キャリア組、ノンキャリア組の軋轢にひとりの警察官の失踪をからませながら警察という狭い社会の人間模様が見事に描かれています。


本部内のキャリア組、準キャリア組、ノンキャリア組などの序列もさることながら、本部長を筆頭に警務部、警備部、刑事部、生活安全部、交通部、総務部などの力関係や県警本部と暴力団や右翼とのアンダーグラウンドでの結びつき、各部長たちが退職後天下っていく場所を確保するための財界との癒着などがそれぞれの部長の思惑を描ききることで浮き彫りになっています。


「大震災の朝、被災地から遠く離れたN県警本部に別の激震が走った。
県警内部人事を司る幹部、不破刑務課長が失踪したのだ」


不破刑務課長の失踪を巡っての各部部長たちの当惑・・・そして思惑・・・保身&野心・・・打算へと目まぐるしく移り変わっていく心理をこれでもかと深く抉っています。


未曾有の大震災を意識のかなたに追いやっての県警本部内で男たちが繰り広げる震度0の醜悪な思惑争いの末の思惑を超えた結末は読んでのお楽しみに!


人間の虚虚実実の醜い保身を赤裸々に顕わにした物語ではありましたが、最後の最後で人間の心を軌道修正したのは横山氏のすばらしい筆力によるものだと思います。

ここのところマスコミを賑わしていた任期満了に伴う韓国大統領選の投票が本日行われました。

開票集計はもう少しかかりそうですが、経済政策の手腕が期待される保守系最大野党ハンナラ党の李明博候補が当選確実のようです。

株価操作疑惑関与のスキャンダルで刑事事件の調査対象となりながらの次期大統領となるのでしょうか。

他に与党系勢力である大統合民主新党の鄭東泳候補、保守系無所属の李会昌候補などがいましたが、それぞれの公約が日本と桁違いのスケールの大きさ・・言い換えれば実現しそうにない公約で、国民は選挙戦中だけでも「真夏の夜の夢」を味わって満足しているのでしょうか。

李明博候補★自宅以外の全財産を寄付(約43億円) ★新婚夫婦に約12万軒の住宅提供

鄭東泳候補★大統領府に住まない ★大学入学試験廃止

李会昌候補★10兆ウォン(日本円で約1兆2000億円) ★国家予算を2倍に      など。


日本でも年金問題解決に関しての公約を掲げながら、結果的に不可能の壁に当たった安倍さんなどのこともあり、笑えない話ですが、各候補陣営がそれぞれに独特の踊りを披露しながらの選挙戦は日本と違って陽性なものを感じさせますね。


さてこのところ文学賞に縁がある作品のレビューが重なっていますが、第132回直木賞受賞作品・角田光代氏著『対岸の彼女』をご紹介したいと思います。


角田氏の作品では『空中庭園』をこのブログで取り上げていますので、著者の経歴とともに読んでくだされば嬉しいです。

       http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/205


若い作家は心理的に敬遠しがちな私ですが、前回の『空中庭園』で角田氏の充実した構成力を目の当たりにして、別の作品を読んでみたくなりました。

ジュヴナイル小説を手がけていたことを感じさせる甘い香りが全体から漂ってくる中、骨子がしっかりしていて全体が切なさを含んだしっとりした作品に仕上がっていて、とてもいい作品でした。

この作品について角田氏は次のように語っていらっしゃいます。

「おとなになったら、友達をつくるのはとたんにむずかしくなる。
働いている女が、子どもを育てている女となかよくなったり、家事に追われている女が、未だ恋愛をしている女の悩みを聞いたりするのはむずかしい。
高校生のころはかんたんだった。
いっしょに学校を出て、甘いものを食べて、いつかわからない将来の話をしているだけで満たされた。
けれど私は思うのだ。
あのころのような、全身で信じられる女友達を必要なのは、大人になった今なのに、と」 


登場する2人の女性を「勝ち犬」と「負け犬」というフレーズを使って表した出版社の宣伝文句からは大きくはみ出した著者の意図が作品全体から伝わってきて、少女の心の危うさや切なさをかくも色鮮やかに表現できる角田氏に感服しました。


テレビではwowowで放映、2人の主人公に財前直見さんと夏川結衣さんを配役して好演、平成18年度芸術祭テレビ部門(ドラマの部)優秀賞、第32回放送文化基金賞番組部門テレビドラマ番組賞を受賞しています。


主人公は子連れの専業主婦で集団に馴染めず生活の閉塞感から抜け出したい小夜子と、小さな旅行会社を経営する葵という共に30代半ばの女性です。

偶然同じ大学出身である2人の仕事を通しての現在の交流を軸に、葵の高校時代に遡った過去が交差しながら物語が進行していきます。

高校時代の葵と親友のナナコの友情の果ての別離の哀しみを胸に秘めた葵の絶望が読者である私の胸を深く打ちます。

「あたし、大切じゃないものって本当にどうでもいいの。
本当に大切なものは一個か二個で、あとはどうでもよくって、こわくもないし、つらくもないの」

寄る辺ないナナコの言葉に励まされ、いっしょにいるだけで強くなれるような気がした葵。

ナナコとの関係が未消化のまま大人になった葵の前に現れた小夜子が高校生のナナコと重なって、いつか同じ丘の上で手を合わせて笑い合うような、そんな予感を抱いてしまう葵と小夜子の心のズレが繊細に綴られています。

そして1度は拒絶しながらも最後には川向こうの対岸に立ち尽くす葵の元に橋を渡って走っていく小夜子の心を描写して物語は終わっています。

「対岸」を渡って思いっきり相手の胸に飛び込む勇気を持った小夜子に安堵しました、葵とナナコのかわりに。

「障害を持った明朗な人と、五体満足ではあるけれども心の塞いだ人がいる。
どちらの人生が豊かなのかという問題がある・・・
人生が豊かかどうかを判断するのも自分の内面です。
内面の独立とはそれほど重要なことなんです」

上記の文章はこれからご紹介する本の中でセラピストである人物が顔にコンプレックスを持つ患者に言ったセリフです。

五体満足であらゆるものを持っている人間ほど弱いものはない、というのはある意味真実であると思います。

また深いコンプレックスを持った人が人生を強く生きるか、後ろ向きに生きるかはその人の心が左右することですね。


私も新聞や本、そして実際の周りの人々の中に多くの個々の生き方を見てきていますが、様々な困難に打ち勝ちながら精神を豊かに保つことの難しさを身をもって感じてもいます。

ということで上記の文章は私が簡単に受け止めるにはたいへん重い言葉です。



前置きはさておき、雫井脩介氏著『虚貌』をご紹介したいと思います。

著書『クローズド・ノート』『犯人に告ぐ』が次々映画化され、話題を呼びましたね。

『クローズド・ノート』の主役は沢尻エリカさん・・開幕の舞台挨拶での不機嫌なふるまいでマスコミに度々登場しました。

『犯人に告ぐ』の主役は豊川悦司さん・・神奈川県警を舞台に迫力ある演技が好評だったようですね。

雫井氏に関しては別の著書『火の粉』を取り上げていますので、よかったら読んでください。
           http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/206


さて本書上下帯のキャッチコピー、端的な表現で読者をその気にさせる言葉!

「文学界を震撼させたクライム・ノベルの傑作」「どんな仮面でも、殺意だけは隠せない」

幻冬舎が創立されて7年、本書は幻冬舎創立七周年記念特別作品として出版されました。



21年前、岐阜県美濃加茂地方で運送会社を経営する一家が襲われ、社長夫妻は惨殺され、長女は半身不随、長男は大火傷を負います。

一方的に解雇されたことに怨みを抱いていた従業員3人が逮捕され刑に服しますが、主犯格とされた荒が仮出所するところから復讐劇の幕が落とされます。

本書の冒頭に少女の自殺とそれを救いきれなかった幼い弟の瞬時の衝撃的なシーンを置いて、これから始まる物語の暗澹たる展開を暗示するテクニックで冒頭から読者をぐんぐん惹きつける筆力は見事です。

クライム・ノベル分野では天童荒太氏の作風と似たところがあると感じたのは私だけでしょうか。


タイトルである「虚貌」から想像できる「顔」に関する主題を一貫して最後まで引っ張り、精神性に言及する力量はすばらしいものですが、トリックを重要視すべきミステリーとして読むなら、読者にとって承服できない破綻がそこここに見られるのはとても残念でした。


前半部分がリアリティの面でかなり読ませる内容だっただけに後半の終わり方、特に犯人とおぼしき人物の最後のセリフには首を傾げる読者も多かったのではないでしょうか。

とはいえ癌に侵された余命いくばくもない老刑事が犯人の軌跡を追い求める執念のような過程と、彼を取り巻く周辺の人物・・・娘やコンビを組む年若い刑事などの人物描写がヴィヴィッドに立ち上がってきて、魅力的な作品に仕上がっています。

個々のトリックの辻褄合わせの破綻には目を瞑って読むだけの価値のある物語性溢れる作品であったことを記しておきます。

2007年の画期的なニュースとしてまず思い浮かぶのは京都大学再生医科学研究所の山中教授らが人の皮膚細胞などに複数の遺伝子を組み込み、各種の組織のもとになる万能細胞(人工多能性幹細胞=iPS細胞)をつくることに成功されたことでしょう。


いままでの万能細胞といわれる胚性幹細胞(ES細胞)は生命の萌芽である受精卵を壊してつくるので倫理的な観点からの批判が付随していましたが、今回の研究の成功によって人間の臓器や組織を補う再生医療に前途が開かれたことは希望あふれることですね。


また12月7日にはマサチューセッツ工科大学などの米国チームがそのiPS細胞と遺伝子組み換え技術を使ってマウスの貧血の症状を改善することに成功したことによって、実際に病気の治療に利用する道筋を示した成果として大きく報道されました。


生あるものに必ず終局があるのは自然の摂理ですが、できうるかぎりの健やかな長寿は人類の永遠のテーマでもありますね。


人類の夢を乗せた不老長寿の物語は古今東西ありますが、「不老も不死も怖い」と書いていらっしゃるのは本日ご紹介する『至福の境地』の著者曽野綾子氏です。


「自然の死に対して、死と抵抗しようという動きが一方にある。
生命科学の発達は、あらゆる場で、人間を病気と死から、健康と不老・不死の方向に向かわせる。軽薄にも人間は、ほんの一瞬、死を前にすると、不老・不死こそ、究極の幸福と思いそうになる」


曽野氏は寿命の物差しであるテロメアという細胞の核の中の染色体の両端の部分について書いていらっしゃいます。

細胞が分裂するたびにそのテロメアが短くなり、一定の短さになると細胞の寿命が尽きたことを示すのだそうですが、このテロメアをクローン技術の開発の途中でテロメラーゼという酵素を使って伸ばすことができる可能性が出てきたそうです。

人間の細胞を体内から取り出すと60~70回分裂して寿命を終えるそうですが、テロメラーゼを入れると200回を超えて分裂を続けたそうです。

「「『不死』はともかく、『不老』は夢でなくなるかもしれない」と記事は私に教えてくれる。
しかし不死も不老も私には怖い。
個人としての不死は、いかなる重大な刑罰よりもひどいだろうと思う。
死は一つの優しい解放であり、許しであり、休息なのに、それが永遠に与えられないということになったら、それは刑罰の最たるものだ。
もし人が死ななくなったら、地球上には地獄が出現するだろう・・・
食料は不足し、水は汚染され、人間の居住する面積は極端に少なくなり・・・人間はお互いを殺しあうことで数のバランスを取る他はなくなる・・・
人間は強欲になるとろくなことがない。
生命においても同じである」

「死は一つの優しい解放であり、許しであり、休息である」というのはクリスチャンである著者の確固たるバックボーンであろうと思いますが、無宗教の私も同意する気持ちを持っています。


このような文章で綴られた本書『至福の境地』は「産経新聞」「大阪新聞」等に連載された随筆「自分の顔、相手の顔」に加筆・訂正したものを文庫化したもので第4弾目になります。

★第1弾『自分の顔、相手の顔』
★第2弾『それぞれの山頂物語』
★第3弾『安逸と危険の魅力』
★第4弾『至福の境地』
★第5弾『なぜ人は恐ろしいことをするのか』と続きます。

第3弾『安逸と危険の魅力』は以前このブログで取り上げていますので、よかったら読んでください。

         http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/83

若い時氏の作品を通して感じていた不協和音がいまでは砂地に水がしみこむように心に入ってくるのは私の年齢の経過によるものかもしれませんが、過去に強度の不眠症や失明の危機などを乗り越えられて今年76歳になられる氏にますますの円熟が感じられる文章となっているのが感じられます。


本書の第5章で紹介されているイギリスの名優アレック・ギネス卿の言葉は私の「死」に対する概念を和らげてくれます。

「戦場にかける橋」や「スター・ウォーズ」の演技などでアカデミー賞のオスカーを受けられた名優ギネス卿はエリザベス女王からナイトの称号も受けられていましたが、生前は単純な生活を深く愛した内省的な人だったそうです。

インタビューで「天国はどんな所と思いますか?」と聞かれての彼の答えは私に希望を与えてくれます。

それは次のようなものです。

「夏の夕方、一人、二人の友人とテラスに座って、気持ちよく飲みながら、静寂を聞いているようなものでしょうね」

国際社会で長くくすぶっていたイランの核兵器開発疑惑について、最も強硬に制裁を主張してきたアメリカが「イランは2003年秋から開発を停止していた」という国家情報評価を発表したという記事が昨日の朝日新聞社説に掲載されていました。

事実であるとすればすばらしいニュースですが、4年前のイラク攻撃に関して情報を操作していたとされるアメリカの断定的な報告をどのように評価すればいいか戸惑いもあるようです。


また天声人語には同じアメリカ人で1916年に史上初の女性アメリカ下院議員になったジャネット・ランキンについての記事が載っていました。

生涯を通して平和主義者に徹し、アメリカ合衆国が第一次、第二次大戦に参戦することに対しただ1人両方に反対したことで有名ですね。

故ケネディ大統領をして「米史上最も恐れを知らぬ女性」と言わしめたその行為により全米から「売国奴」のレッテルを張られ故郷からも見放され再選もされませんでしたが、ランキンの蒔いた種は確実にアメリカに根付いていて平和運動の花が開いているそうです。


ランキン自身は著書を遺しませんでしたが、ランキンについての著書は何冊かあり、私は以前そのうちの1冊を読んで深く感動したことがあります。

★大蔵雄之助氏著『一票の反対--ジャネット・ランキンの生涯』
★H・ジョセフソン著『絶対平和の生涯--アメリカ最初の女性国会議員ジャネット・ランキンの生涯』
★メアリー・B・オブライエン著『非戦の人 ジャネット・ランキン--アメリカの良心とよばれた女性』
など、興味ある方は読んでみてください。



さて本日は三浦しをん氏著『まほろ駅前多田便利軒』をご紹介したいと思います。

大学在学中の1998年からウェブマガジンBoiled Eggs Onlineでエッセイ『しをんのしおり』を連載、のちに単行本になりました。

2000年就職活動の経験をもとにデビュー作『格闘する者に○』を上梓

2005年『私が語りはじめた彼は』『むかしのはなし』がそれぞれ山本周五郎賞と直木賞の候補作品にノミネート

2006年本書『まほろ駅前多田便利軒』が第135回上半期直木賞を受賞

他に『月魚』『極め道』『妄想炸裂』『夢のような幸福』『乙女なげやり』『人生激場』などがあります。


本書の舞台はまほろ市。

「まほろ市は東京の南西部に、神奈川へ突きだすような形で存在する。
東京の区部から遊びにきた友人は、まほろ市にと知事選のポスターが貼ってあるのを見て、『まほろって東京だったのか!』と驚く・・・
外部からの異物を受け入れながら、閉ざされつづける楽園。
文化と人間が流れ着く最果ての場所」


実際の町田市を連想させる記述で、以前町田の近くに住んでいた私は駅前の路地裏の事務所兼自宅の古ぼけたビルの「多田便利軒」を想像しながら一気に読んでしまいました。


まほろ駅前で便利屋を営む多田の元にひょんなことから高校時代の同級生行天が居候するところから物語がスタートします。

6つの連作の表紙のそれぞれを飾っている下村富美さんのクロッキー風の挿絵が2人の男の陰の雰囲気を微妙に醸し出していてなかなか効果的でした。

多田の元に舞い込んでくる様々な依頼をこなす延長上に破産蒸発母子や娼婦、麻薬密売人、孤独な小学生など多彩な人間を絡ませ、問題を浮かび上がらせる手法はなかなかのものです。

はからずも離婚経験者であり、サラリーマン脱落者である多田と行天のこころの傷が連作が進行する毎に明らかになる手法に読者は高い満足点をつけるのではないでしょうか。


「あの夜、あのバス停で俺と会ったことで、行天はなにか変わったのだろうか。そうは思えない。深い深い暗闇に潜ったことのある魂、潜らざるをえなかった魂が、再び救われる日が来るとは、多田には思えなかった」

「愛情というものは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうことを言うのだ」

紆余曲折のあと多田の元からいなくなった行天が舞い戻ったとき多田は思います。

「今度こそ多田は、はっきりと言うことができる。
幸福は再生する、と。
形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ」

そうなればいいな、もしかしたらそうなるかもしれない、と思わせてくれるペーソスあふれる物語でした。

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