この世の存在がただの夢にすぎないのなら
どうして努力や苦労がいるのだろう
私は飲む,もう飲めなくなるまで
一日中このよき日に
もう歌えなくなったら
また眠りにつく
春は私には何の関係があるのだろう
私を酔わせたままにして欲しい
グスタフ・マーラーの交響曲「大地の歌」の中の「春に酔える者」の1節です。
CDの説明文によると李白の「春日醉起言志」がベースとなっているそうです。
また白居易は酔吟先生と呼ばれたほど酒を讃歌した詩が多く、3000首近い詩の中で900首が酒の詩だというのを何かで読んだことがあります。
白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり
人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ
上記の有名な歌の作者、日本でも酒仙の歌人と称され、酒をこよなく愛した漂泊の歌人若山牧水は1日1升以上飲む大酒豪のため肝硬変で若くして果てましたが、43年という生涯に残した7000首のうち酒を詠ったものが200首もあったそうです。
かくもこのように人間を虜にする「酒」は精神的な薬効にもなれば、依存すれば心身ともに滅びる元凶にもなることは周知の通りですね。
営業マンだった夫も接待の明け暮れの上、単身赴任の生活のツケが祟って健康を害して以来、現在は小さな小さな酒器で冷酒をほんの少しという理想的な毎日を過ごしています。
お酒飲みの家に生まれた私は幼い頃より母の作る酒の肴を見て育ち、結婚後も夫の酒の肴を作り続けたのでいまだにその習慣が抜けず、酒肴のない食卓には寂しさを感じてしまいます。
簡単な酒の肴はいくつでも頭に描けるのに、お酒抜きのご飯のおかずとなると戸惑ってしまうこともしばしばです。
さて、そんな酒飲み&ミステリー好きにとって垂涎の本をご紹介したいと思います。
北森鴻氏著『桜宵』
著者は大学卒業後、フリーランスのライターを経て
1995年『狂乱廿四孝』で鮎川哲也賞
1999年『花の下にて春しなむ』で第52回日本推理作家協会賞の短編および連作短編集賞を受賞していらっしゃいます。
受賞作『花の下にて春しなむ』はビアバー・香菜里屋シリーズの第一作として華々しくデビュー、本書『桜宵』はその第二弾、その後第三弾『蛍坂』へと続き、最後に『香菜里屋を知っていますか』でシリーズ終結となりました。
残念!!!
東急田園都市線沿線三軒茶屋の路地裏にある小さなビアバー『香菜里屋』のマスター工藤を主人公に、そこに集う客たちの持ち込んだ事件などの謎解きを絡めた人生模様を描いた連作短編集です。
このシリーズの最大の魅力は何といっても店主工藤の作る酒肴!
お客の雰囲気、会話などを通して一瞬にしてお客の求める酒肴を、それもさりげなく提供するというあうんの呼吸の離れ業には目を見張るばかり!
本来ならここで収録の短編5編の簡単な紹介をするところですが、今回はマスター工藤の作る絶品の酒肴をいくつかご紹介してレビューに代えたいと思います。
★ 度数の弱いビールで ―― エソのすり身を白菜の葉で巻き込み、ロールキャベツの要領で和風仕立てに煮込んであるらしい。 添え物が合鴨の切り身のつけ焼き。そこへとろみをつけただし汁をひたひたに掛けたもの
★ 白髪ネギとサラミの細切りをフレンチドレッシングであえたもの
★ 二番目に強い度数のビールで ―― かたく水切りをした豆腐を四ツ割にし、さらにそれぞれ二枚にスライスして、中に四種類の具…洋芥子と焼き海苔、明太子の生クリームあえ、生雲丹、生ハムとホースラディッシュを別々に挟んで揚げたもの
★ 春キャベツとアンチョビソースのパスタ・・麺を茹でるときに塩と一緒に醤油を少々
★ 度数の一番高いビールで ―― 蒸し蛤のむき身にガーリックオイルをかけたもの
★ 松茸、鱧の千切り、三つ葉のみじん切り、くずきりを混ぜ込んだ生湯葉巻き・・だし汁をゼラチンで固め、泡だて器で攪拌したヌーベを添えて
三軒茶屋の奥まった路地裏
ぽってりと等身大の白い提灯
十人ほどの客がやっと座れるL字形のカウンターと、二人用の小卓が二つ
ヨークシャーテリアの精緻な刺繍のあるワインレッドのエプロンをして、刺繍がそのまま人間になったように柔和に笑うマスター
「香菜里屋」に行って度数の一番弱いビールを飲みながらマスターの差し出す酒肴を食べながら、常連客とおしゃべりしてみたい、マスターの謎解きの腕を間近に見てみたい・・・帰ってきて「香菜里屋」!!
どうして努力や苦労がいるのだろう
私は飲む,もう飲めなくなるまで
一日中このよき日に
もう歌えなくなったら
また眠りにつく
春は私には何の関係があるのだろう
私を酔わせたままにして欲しい
グスタフ・マーラーの交響曲「大地の歌」の中の「春に酔える者」の1節です。
CDの説明文によると李白の「春日醉起言志」がベースとなっているそうです。
また白居易は酔吟先生と呼ばれたほど酒を讃歌した詩が多く、3000首近い詩の中で900首が酒の詩だというのを何かで読んだことがあります。
白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり
人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ
上記の有名な歌の作者、日本でも酒仙の歌人と称され、酒をこよなく愛した漂泊の歌人若山牧水は1日1升以上飲む大酒豪のため肝硬変で若くして果てましたが、43年という生涯に残した7000首のうち酒を詠ったものが200首もあったそうです。
かくもこのように人間を虜にする「酒」は精神的な薬効にもなれば、依存すれば心身ともに滅びる元凶にもなることは周知の通りですね。
営業マンだった夫も接待の明け暮れの上、単身赴任の生活のツケが祟って健康を害して以来、現在は小さな小さな酒器で冷酒をほんの少しという理想的な毎日を過ごしています。
お酒飲みの家に生まれた私は幼い頃より母の作る酒の肴を見て育ち、結婚後も夫の酒の肴を作り続けたのでいまだにその習慣が抜けず、酒肴のない食卓には寂しさを感じてしまいます。
簡単な酒の肴はいくつでも頭に描けるのに、お酒抜きのご飯のおかずとなると戸惑ってしまうこともしばしばです。
さて、そんな酒飲み&ミステリー好きにとって垂涎の本をご紹介したいと思います。

著者は大学卒業後、フリーランスのライターを経て
1995年『狂乱廿四孝』で鮎川哲也賞
1999年『花の下にて春しなむ』で第52回日本推理作家協会賞の短編および連作短編集賞を受賞していらっしゃいます。
受賞作『花の下にて春しなむ』はビアバー・香菜里屋シリーズの第一作として華々しくデビュー、本書『桜宵』はその第二弾、その後第三弾『蛍坂』へと続き、最後に『香菜里屋を知っていますか』でシリーズ終結となりました。
残念!!!
東急田園都市線沿線三軒茶屋の路地裏にある小さなビアバー『香菜里屋』のマスター工藤を主人公に、そこに集う客たちの持ち込んだ事件などの謎解きを絡めた人生模様を描いた連作短編集です。
このシリーズの最大の魅力は何といっても店主工藤の作る酒肴!
お客の雰囲気、会話などを通して一瞬にしてお客の求める酒肴を、それもさりげなく提供するというあうんの呼吸の離れ業には目を見張るばかり!
本来ならここで収録の短編5編の簡単な紹介をするところですが、今回はマスター工藤の作る絶品の酒肴をいくつかご紹介してレビューに代えたいと思います。
★ 度数の弱いビールで ―― エソのすり身を白菜の葉で巻き込み、ロールキャベツの要領で和風仕立てに煮込んであるらしい。 添え物が合鴨の切り身のつけ焼き。そこへとろみをつけただし汁をひたひたに掛けたもの
★ 白髪ネギとサラミの細切りをフレンチドレッシングであえたもの
★ 二番目に強い度数のビールで ―― かたく水切りをした豆腐を四ツ割にし、さらにそれぞれ二枚にスライスして、中に四種類の具…洋芥子と焼き海苔、明太子の生クリームあえ、生雲丹、生ハムとホースラディッシュを別々に挟んで揚げたもの
★ 春キャベツとアンチョビソースのパスタ・・麺を茹でるときに塩と一緒に醤油を少々
★ 度数の一番高いビールで ―― 蒸し蛤のむき身にガーリックオイルをかけたもの
★ 松茸、鱧の千切り、三つ葉のみじん切り、くずきりを混ぜ込んだ生湯葉巻き・・だし汁をゼラチンで固め、泡だて器で攪拌したヌーベを添えて
三軒茶屋の奥まった路地裏
ぽってりと等身大の白い提灯
十人ほどの客がやっと座れるL字形のカウンターと、二人用の小卓が二つ
ヨークシャーテリアの精緻な刺繍のあるワインレッドのエプロンをして、刺繍がそのまま人間になったように柔和に笑うマスター
「香菜里屋」に行って度数の一番弱いビールを飲みながらマスターの差し出す酒肴を食べながら、常連客とおしゃべりしてみたい、マスターの謎解きの腕を間近に見てみたい・・・帰ってきて「香菜里屋」!!