VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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2008年10月


ウオーキングをしていると道の両側の街路樹の色づきが目にとまる季節になりました。

ハナミズキの赤い葉を見て冬の到来を感じるこの頃です。

さて話題が変わりますが、私は20年以上英語学習参考書や問題集の原稿校正の内職をしています。

中高学参を通じて今までに読んだ受験用長文や会話文は膨大な数になりますが、ほとんどが教訓的、道徳的、はっきりいっておもしろくもなんともない内容が多い中、たまにユーモアや世界の興味深い記事に出合うと、仕事という意識を忘れて読み入ってしまいます。


今進行中の教材に日本の街路樹についての記事がありました。

1987年~2002年の間に日本で最もよく見られた街路樹の数の変遷をある研究グループが調査した結果がグラフで示されたもので、イチョウ、サクラ、ケヤキ、ハナミズキ、クスノキ、プラタナスというおなじみの街路樹が並んでいます。

それによると1987年から2002年までの第1位はずっとイチョウだそうですが、それを猛スピードで追いかけて増え続けているのがサクラ、前述のハナミズキは1987年当時はほとんど人気がありませんでしたが2002年にはその10倍に急増していました。

サクラの数が増えた理由は人々の心に余裕ができ、花も葉もつける木を好むようになったからだと述べられています。

ハナミズキについては花が愛らしく、秋には紅葉を楽しめ、小さな木なので日本の狭い通りにでも植えることができる、というのがその理由だそうです。


なるほど、最近ではいたるところでハナミズキが見られるようになりましたね。

1912年に東京からワシントンDCに贈ったサクラの返礼として1915年にアメリカから贈られたのが始まりといわれる北アメリカ産原種のハナミズキも100年近い年月とともにしっかり日本に根づいたのですね。


サクラのような派手さはないですが、地味で自己主張のないひっそり感が大好きなハナミズキ、紅葉を楽しみたいと思います。



さて今回は乃南アサ氏著『鎖』をご紹介します。

1988年デビュー作『幸福な朝食』で日本推理サスペンス大賞優秀作
1996年『凍える牙』で直木賞受賞

主にサスペンスを基調に巧みな人物描写や心理描写などに卓越した筆力を発揮した作品を次々発表して多くの読者を獲得している旬の作家です。

直木賞受賞作品『凍える牙』でスタートした女刑事を主人公の「音道貴子シリーズ」は特に人気が高く、私も音道ファンのひとりとしてシリーズはすべて読んでいます。

ちなみに「音道貴子シリーズ」を時系列に列挙すると

�@『凍える牙』(長編)
�A花散る頃の殺人』(短編)
�B『鎖』(長編)
�C『未練』(短編)
�D『嗤う闇』(短編集)
�E『風の墓碑銘(エピタフ)』(長編) となります。


これからご紹介する本書『鎖』は『凍える牙』に続く第二弾の長編。

重要事件が発生すると直後に初期操作活動に従事することを職務とする機動捜査隊所属の音道貴子30代半ば、バツイチ、長身で勝気な美人刑事。

武蔵村山市で占い師夫婦と信者夫婦が惨殺死体で発見された事件に指名されて専任となることから音道刑事の今回の不運がスタートします。

警察という男社会にあって女性であるゆえの男性たちのいわれのない偏見と侮蔑に耐えながら捜査を続ける貴子の本書での苦労が前作『凍える牙』での相棒滝沢警部補とのときの何倍にも加速されていて読み応えがあります。

本書では貴子を救う側に回る滝沢は『凍える牙』での相棒、40代後半離婚歴のあるメタボ、ベテラン叩き上げ立川中央署刑事課強行犯捜査係でしたが、今回の相棒は警視庁捜査一課から来た貴子より若いスマートボーイ警部補32歳の星野、これもバツイチ。

この星野の刑事にもあるまじき身勝手な行動により、前代未聞の音道刑事拉致という大事件に発展します。


前作『凍える牙』でバイクにまたがる行動的な貴子を描いているのに対比して今回はひたすら「耐える」貴子を描いています。


前半で相棒星野の軽薄非常識に耐え、後半の拉致後には仲間が救出してくれるまでの過酷な刻々にひたすら耐え続ける貴子。

その間の犯人たちとの駆け引き、恐怖、諦め、一部の犯人たちへの同情、星野や警察への恨みなどがないまぜになって鎖につながれ心身ともに限界に達した貴子に襲いかかる様子を著者は見事に描いていて、、、読ませます。

拉致されていた間の貴子の揺れ動く弱い心や犯人側の唯一の女性の描き方、乃南氏の繊細な機微を捉えた筆力には感服しました。

ぜひどうぞ!

1976年に少年ジャンプに初めて掲載されてから約1500回、「少年誌の最長連載記録」のギネス記録を更新し続けている秋本治氏のマンガ「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のファンは多いでしょう。

私も次男の小学校から中学校時代、ともに単行本になるのを待ちかねて読んだものでした。

主人公は会社組織でいえば万年平社員のような役職だったと思いますが巡査長の両さんこと両津勘吉、そのはちゃめちゃな行動にいつも悩まされていた上司大原大次郎は巡査部長、両さんが部下ではなかったら警視正まで昇格できていたという役職設定だったはず。


マンガから垣間見た大原巡査部長や両さんたちの職場である派出所はとても風通しがよくわかりやすい職場でしたが、横山秀夫氏その他の描く実録や小説で読む警察内部は癖のあるつわものどもが顔を並べている縦割り社会の典型的な下克上の世界、キャリア組とノンキャリア組との線引きも厳しい不透明な世界という印象。



本日ご紹介する物語では警察の中でも特に民間の目にはとらえにくい公安警察の活動の一部がデフォルメされて描かれていて、その観点から読んでも興味深い小説となっています。


戦前特高といわれ赤狩りなどで恐れられていた特別高等警察が解体後生まれたのが公安、国の治安を守るために国内外のテロに対する情報の収集と対策などが主の活動、国家に対する犯罪行為を取り締まるということで、市民犯罪を対象にしている警察より格が高い、というか別格扱いされている様子が本書でもうかがえます。


    沢木冬吾氏著『償いの椅子』

メンバーであるSNSの友人Uさんが日記に書かれていたレビューに興味を惹かれて読了。

「やくざでありながらその生い立ちからヤクを憎む侠客 秋葉
そしてその秋葉を肉親のように慕う 能見
五年前 刑事有働のおとり捜査に協力している時三人は何者かの銃撃に倒れてしまう。
一人生き延びた能見は半身不随の車イスすがたになって 復讐するために東京ヘ戻ってきた...

能見の唯一の家族 妹一家、 任侠時代の仲間 刑事のグループ
公安のグループと20人ほどの主要人物の近況が はじめの100ページくらい
次から次へと羅列されるので名前を覚え,役どころについて行くのが ものすごく大変でした。
でもその難関を突破し,事件の全容がみえたころからいっきに能見の魅力が炸裂するのです!」


まさに言いえて妙のレビュー、前半部分の読みにくさゆえに途中放棄した読者もいらっしゃるのではないでしょうか。

特に公安系の警察官たちと地下で協力するスリーパーである犯罪組織のメンバーとの区別が明確になるのがやっと中盤に入ったあたり、何度も前のページに戻って確認しながらの念入りな読書でしたが、後半で徐々に点と点が線になってつながり、一気に解明へとなだれ込むという醍醐味ある物語でした。


銃撃されて半身不随になって5年後、ある復讐のため古巣に戻ってきた主人公能見。


不幸な生い立ちを経て若い時はトルエン中毒のチンピラだったという過去を持つ能見、父とも慕う秋葉との出会いによって熟成されたのか、とにかくナイスガイ!かっこいいのです


「荒らぶることのない豪胆さ、冷たく澄んだ凶暴さ」という表現がぴったりの骨の髄までハードボイルドな能見を軸に、かつての犯罪組織の仲間たち、公安、警察、そして能見のたったひとりの肉親の妹一家が絡み合いながら複雑な人間関係が展開していきます。


主人公能見の一人称ではなく三人称語り、文体は不要な装飾はできるだけ排除した簡潔かつ乾いた文章、挟まれる会話体もほとんど主語が省略されているという点もハードボイルド、読者泣かせ


エモーショナルな記述を徹底的に避けた短い会話体を通して、時として能見の妹、甥や姪に寄せる深い愛情を読者に色濃く伝える筆力には敬服!


父親からの身体的性的虐待が日常化している妹一家の姪と甥に対する能見の愛情の切なさに感動し、また自分の子どもでさえ夫の虐待から守ることができなかった妹の善良の衣をかぶった鈍感さに行き場のない怒りを感じてしまいました、作話と知りながら。


内容的には土着的な雰囲気を多分に含んだ仁義や愛に命を懸ける任侠道の世界を描きながら、説明文的でない湿り気のない文章のコントラストが物語全体を引き立たせています。


著者の他の作品も是非読んでみたいものです。

「アウトソーシング」という言葉が新聞紙上などに登場するようになって久しいですね。


私は主婦なので企業のことはわかりませんが、企業がコストパフォーマンスなど諸事情を考慮して業務のある部分を外部の企業に委託するということだと理解しています。

英語では 'outsourcing' 、直訳すれば「外部の資源活用」となるのでしょうか。


現在では多くの会社がそれぞれの専門分野の人材派遣会社からの人材を派遣してもらい、業務の効率化を図っているようですね。




今回ご紹介する垣根涼介氏著『君たちに明日はない』はアウトソーシングのリストラ専門請負会社に勤める主人公の日常を描いた5編の連作、「小説新潮」に掲載された短編5作をまとめたものです。


著者はこの小説で2005年に第18回山本周五郎賞を受賞していらっしゃいます。


その前2000年には『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞&読者賞をダブル受賞

2004年『ワイルド・ソウル』で大藪春彦賞&吉川英治文学新人賞&日本推理作家協会賞と史上初の3冠に輝くという華々しい経歴です。



「リストラ請負人、村上真介は今日も行く。
彼を待ち受けるのは、部下に手をつけるセクハラ上司、管理能力ゼロのオタク主任、お上に楯突くキマジメ社員……」


顧客である会社から委託されたリストラ業務を専門に請け負う会社の首切り面接官である33歳の主人公村上真介。


昨日はメーカー、今日は銀行へと奔走する毎日、「なぜ私が?」と驚く相手の共通の疑問に間髪を与えず理詰めでこの会社での明日はないことを伝え、一気に希望退職に持ち込むという真介の日常を、かつてリストラの対象として知り合った年上の女性との恋愛を絡めながら描いています。


この世の中にリストラ請負会社なるものが実際存在するのかどうか知りませんが、日本の誇る終身雇用制度や年功序列制度が崩れ、景気も低迷している現在、何だかありそうな身につまされるタイムリーな物語でした。

アメリカのサブプライムに端を発した金融危機が世界中を駆け巡っていますね。

もうすぐ2万円台に突入かといわれていた日経平均もあっという間に1万円を割ってしまいました。

先週末G7が打ち出した金融危機対策への期待の高まりでニューヨーク市場が過去最大の上げ幅を記録したことを受けて、週明けの今日の東京株式市場で一気に過去最大の上げ幅を記録、11000円台になりましたが、依然先行きの不透明感はぬぐえないようです。

日本で金融危機以前から増え続けていたフリーターやネットカフェ難民など、これからますます失業者が増えて一夜の塒をネットカフェや、先日火事で明らかになった個室ビデオ店に求めるお客が増えるのでしょうか。


本日ご紹介する作品の著者は上述の難民に近い生活を3年間送りながら作品を書き続け、見事乱歩賞を受賞されたというユニークな経歴の持ち主です。

新野剛志氏『八月のマルクス』

大学卒業後旅行会社での6年間の勤務ののち仕事に嫌気がさし失踪、終夜営業のファミレスで執筆しながら始発電車やカプセルホテルを塒に3年半の放浪生活の末、本書で見事第45回江戸川乱歩賞を受賞、ホームレス生活に終止符を打ちました。

その後『もう君を探さない』『クラムジー・カンパニー』『Fly』『どしゃ降りでダンス』『愛ならどうだ!』など次々上梓
2008年には『あぽやん』で第139回直木賞候補にもなりました。


さて本書『八月のマルクス』に対する選考委員の方々の評です。

★「入り組んだ、よく考えられたプロット」 赤川次郎氏評

★「芸能界を『罠』によって去らざるをえなかった男の屈折が滲み、バー『ホメロス』の描写など、秀逸である」大沢在昌氏評

★「輻輳(ふくそう)した人間関係の中での物語の展開は、読ませる」北方謙三氏評

★「何よりも楽しめた」宮部みゆき氏評


第41回乱歩賞受賞作藤原伊織氏の『テロリストのパラソル』に影響を受けたといわれる著者が「カッコいい作品を書きたい」という動機の元に上梓したのが本書です。

そういうことを踏まえて作品を読むと、主人公のカッコいいニヒルな生き様が藤原伊織氏や原遼氏の生み出した主人公との共通点として浮かび上がってきます。


「現代の放浪作家が人生を賭けた渾身のサスペンス.レイプ・スキャンダル。
私はお笑い芸人を引退した。
5年後,余命わずかな相方の失踪が過去を甦らせる」


主人公は無実のレイプ・スキャンダルで引退したお笑い芸人笠原雄二。

彼のところに元相方の立川誠が5年ぶりに訪ねてくるところから物語が始まります。

直後に立川は失踪、5年前笠原のスキャンダルを書いたルポライターが殺されるというところから事件は5年前のある出来事に遡っていきます。


前半に比べ犯人探しを絡めながら進む物語の後半部分が急ピッチで予想外の展開を見せ、現実離れした作為を感じさせる点を除けばかなり読み応えのある構成でした。


私を含めタイトルになっている「八月のマルクス」に幻惑された読者も多かったのではないかと思いますが、経済学とは何の関係もありません。

読んでのお楽しみにここでは書かないでおきましょう。

政治の世界でも経済の世界でも不穏な暗雲が日本を覆っている今週、すばらしいニュースが飛び込んできました

ノーベル物理学賞とノーベル化学賞!

それぞれ3名の方々、1名の方、ほんとうに嬉しい驚きです!

それぞれの賞の対象となった各研究についてはどのように噛み砕いて説明されても理解の域を越えていますが、今の低迷している日本にとっては最高のプレゼントです。

読んでも聞いてもわからぬが めでたい

新聞の投稿ページに掲載されていたある読者の方の川柳ですが私の気持ちにぴったりです。



さて今回は角田光代氏『カップリング・ノーチューニング』をご紹介したいと思います。

ちなみに本書はハードカバー、のちに文庫となり『ぼくとネモ号と彼女たち』に改題されました。


著者角田氏の作品はこのブログでもいくつかアップしていますが、中でも『八日目の蝉』の読後感がとてもよかったので、本書も期待大で手に取ったのでした。

が、結果は期待はずれというか、あとに何も残らない充実度のない作品でした。


「とりあえず遠くへ行きたい。
行き先は、乗せた女しだい。
助手席にやってくる女の子たちとのちぐはぐな旅!?
注目の野間文芸新人賞作家が贈る青春ロード・ノベル」


ロード・ノベルという分野があるのも初めて知りましたが、車窓の外に目をやれば一瞬のうちに景色が過去のものとなり後に何も残らない、そんな印象の物語です。

目に入る景色を自分の心に取り込んで、じっくり味わうという作業をする間もなく、まるで早送りのコマのように主人公とともに目的のない怠惰な旅の連れとなった感じ。


高校卒業後アルバイトで貯めた金と親にせびった金を足してやっと買った中古車のシビック、自らモネ号と名づけた愛車で突発的な旅に出る場当たり的な男の子、ひょんなことから助手席に乗ることになった女の子たちとの刹那的な交流が軽いタッチの会話体で抑揚もなく最終地点へ流れていきます。

何が始まりか、何で終わるのか認識しにくい現代の若者の世相を現しているよう。



それにしてもあらゆる分野の小説の材料のネタが詰っている著者の頭には感服しました。

俳優の加勢大周さんが覚醒剤と大麻所持と使用で逮捕されましたね。

警察に連行される様子が写されていたのを見ると薬やつれしてはいましたが、スラッとした男前

廃人への道まっしぐらとわかっている覚醒剤などにどうして溺れるようになったのか。

運命の皮肉としかいいようのない醜男が麻薬系にも手を出さず、懸命にわが顔と対峙して頑張って生きている(当たり前?)というのに、薬でドロップしなければならないほど苦しい日常を送っていたのか、などと的外れな疑問と怒りが渦巻いています。

私は薬物やアルコールに対する依存が人間としての最も恐ろしい落とし穴の1つと思っています。


「覚醒剤やめますか それとも人間やめますか」は誰もが知っている有名なキャッチコピー。

これを作った人は今は亡き田原節子氏、ジャーナリスト田原総一朗氏の奥さんです。



本日ご紹介するのはその田原節子氏による『最期まで微笑を』です。


田原節子氏は日本テレビのアナウンサー時代に田原総一朗氏と知り合い、ダブル不倫の末、双方の配偶者との離婚や死別ののちに結婚したといういきさつはお2人の共著『私たちの愛』に詳しく書かれています。

「私たちは子どもたちに迷惑をかけてきたし、『配偶者を裏切ってきた』と責める人もいます。
でも、それしか方法がなかったのです。
ある意味で勝手な言い方だと自分でも感じますが、私たちは純愛を貫き通し、それは時には死をも覚悟した『殉愛』だったと思っています。
写真館でシャッターを切られる瞬間、27年間のそんなさまざまな思いがこみあげてきていて、私も総一朗の横で泣き出しそうな笑顔になっていました」


その共著を読むまでもなく、それらのことを世間の風聞で知っていた私は正直なところ「朝まで生テレビ」などに出演の総一朗氏に好感をもっていませんでした。

純愛などとなんと臆面もないと不快に思っていたのでした。


でも本書を読んでから総一朗氏に対する感じ方がガラリと変わりました。

「突然の乳がん告知。たび重なる放射線治療、抗がん剤投与に耐える日々を支えてくれたのは夫・総一朗と家族の愛だった。
そして5年を待たずしてのがん再発。
微笑みながら死への2000日を生き抜いた妻・節子の絶筆。こんなにも深く結ばれた夫婦愛!!」


「きみが人生のすべてだった」と言い切る総一朗氏の妻に対する生半可ではない献身ぶりに2人の半端ではない愛の深さと結びつきが伝わってきます。

節子氏が癌の手術の後遺症で手が挙がらず髪を洗うことができなくなると、総一朗氏は髪を洗ってあげたり、車椅子を押したりと文字通り献身的な介護を続けられました。


「秋の夜長に妻の胸をじっと覗き込み、大はしゃぎしている夫と、それを喜んで受け入れて自分でも見下ろしている妻。
もし誰かに見られたら、いい年をした夫婦のさぞ奇怪な光景だったろう。
病気になるのも悪いことばかりじゃない。
病気にならなければ知ることのなかった総一朗の意外な一面を発見して、新鮮な気持ちになった。
総一朗は、いま、歩けなくなった私に言う。
『にこにこして、そばにいてくれればいい。できるだけ、1日でも長くにこにこしていてよ』
その期待に応えるべく笑顔でいると、抗がん剤の副作用でぽっちゃりした丸顔になった私の顔が、よけいにしまらなくなった」

副作用で面変わりしてしまった節子氏に対してここまでの深い愛情で接する総一朗氏の男性としての純粋さに深く心を打たれました。

こうして総一朗氏の深い愛情に包まれて最期まで明るさを失わず節子氏はあの世に旅立たれたのでした。

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