VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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2011年03月

福島原発3号機でケーブル敷設作業中の作業員3名の方がついに被爆という最も恐れていた事故が起こりましたね。


記事によると3人は深さ約15cmの放射能を帯びた水につかりながら作業していて被爆されたということですが、そのうち2名の方は短靴を履かれていてその上部から水が入ったということ、あとの1名の方は長靴だったために局所のベータ線熱傷は免れたそうです。

3人とも吸い込んだ放射性物質による内部被爆もありましたが、治療は必要ないと見られているということだそうです。



一連の記事を読んで今東電に対して震えるほどの怒りを感じています。


東電が作業前に放射線量を確認しながらなぜ注意喚起しなかったのか。


短靴と長靴の違いが運命の大きな分かれ目だというのに、作業員の方たちに頭から足先まで細心の注意を払った服装を用意しなかったのか。


短靴を長靴にするというこんな簡単なことですら放りっぱなしにしたということは管理側の東電が下請けの作業員の命を軽視しているとしか思えません。


地震や津波は防ぎようのない天災ですが、原発事故は地震の影響とはいえ明らかな人災であると思います。



「原発にヒーローが現れた」と米紙USAトゥデーが福島第1原発で放射性物質の封じ込めなどに当たっている作業員や自衛隊員らを称えている記事が掲載されていましたが、美しい話だけでは済まない人間軽視が明らかになった事故ではないでしょうか。



日常生活全般でエネルギーの饗応を受けている私たちには原発の存在そのものに可否の意見を述べる資格がないことは承知していますが、いつの時代も天災も人災も上層階級の人には及びが少なく、社会を底辺から支える人々により大きく襲いかかるという図式があるような気がして切なくなります。



被爆された方々のダメージが最小限で、健康を快復されますように!





さて本日は東野圭吾氏著『交通警察の夜』をご紹介します。


「深夜の交差点で衝突事故が発生。
信号を無視したのはどちらの車か。
死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。
しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべき方法で兄の正当性を証明した。
日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー」


なお本書ハードカバーは文庫化にあたり『天使の耳』と改題していますが同じ内容です。


本書は第二版に当たり、あとがきで東野氏ご自身がこの作品への思い入れについて次のように述べていらっしゃいます。

「こうして振り返ってみると、当時は丁寧な仕事をしていたなあと思う。
小説技術は、たぶん今のほうが上だろう。
しかし一作にかける気持ちの熱さは、あの頃にはかなわない」


加えて次々書いたどんな作品も評価されなかった当時を回想していらっしゃいますが、現在の超がつくベストセラー作家、それも多作の作家の姿からは想像ができませんね。



さて本書に戻ります。


交通事故に関わる6つの物語が収録されていますが、それぞれに趣向を凝らしていてひと捻りが効いた作品になっています。


◆目撃者のいない交差点での交通事故で死亡した兄の正当性を証明するため目の不自由な妹が命がけで奮闘する「天使の耳」
ラストの展開に驚きが用意されています。

◆ハンドル操作を誤って事故死したトラック運転手の妻が事故の原因を突き止め、その原因を作った人間を身を捨てて告発する様子を描いた「分離帯」
前作同様ラストに衝撃がやってきます。

◆気軽な気持ちで行った路上駐車がとんでもない結果を招くことを知らしめた「通りゃんせ」
たかが路駐、されど路駐、因果応報の恐さを思い知らされた1作でした。



飲酒運転、路上駐車などに対する運転者の意識も警察の罰則などの強化により以前と比べて大分レベルアップしていますが、その割には交通事故件数は増える一方の現実があります。


さまざまな交通事故をテーマにして、もはや取り返しがつかない結果を招いた事故や猛反を強いられた内容など、一瞬の気の緩みやマナー違反によって引き起こされた残酷な結果が描かれているところ、ことの大小はありますが私たちにも身に覚えのあることばかり。


読物としても戒めの書としても秀作でした。

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九州在住のブログ友から桜の開花宣言が届けられました。


「東北の桜 それでも春を待ち」

朝日川柳に掲載されていた川柳です。


同じく先日の天声人語に玄侑宗久氏の桜に関する一文が紹介されていました。

「非日常の時間が、束の間の開花に伴って訪れる。
それは死にも似て、職業も地位も年齢もいっさい関係のない世界である。
日本人は、ときおりそうして非日常の祭りをすることで日常をほぐし、エネルギーを充填して日常に戻ってくる」


桜にはこのように不思議な力がありますが、これほど未曾有の災害や人災に見舞われた被災者にとってどれほどの慰めになるのでしょう。


いやおうなく大切な人との別離を一瞬で余儀なくされた人々にとってはより深い悲しみや絶望を誘うような気もします。


「君帰らず何処の花を見にいたか」 

桜の季節に早世した友に問うた夏目漱石のこの句のほうが気持ちに寄り添うのではないでしょうか。



日ごとに数を増す死者の方々のご冥福と遺された方々にどうか生きるエネルギーをお与えくださいと祈るばかりです。



写真の色紙は先日我が家に来てくださった知人の趣味が書道と知り、無理矢理揮毫していただいたものです。


期せずして震災で被災された方々にぴったりの内容で勇気づけられるのでアップしてみました。

何とも味がある筆と達磨ではありませんか。





さて本日は西村賢太氏著『小銭をかぞえる』をご紹介したいと思います。


今年芥川賞を受賞されたユニークな経歴の方として有名になられましたね。

2006年『どうで死ぬ身の一踊り』で第134回芥川賞&第19回三島由紀夫賞候補
2006年『一夜』で第32回川端康成文学賞候補
2007年『暗渠の宿』で第29回野間文芸新人賞受賞
2008年『小銭をかぞえる』で第138回芥川賞候補
2011年『苦役列車』で第144回芥川賞受賞


中卒、逮捕歴あり、風俗大好き、友だちゼロプラス個性的な風貌の著者ですが、こうして歴を見ると堂々たるもの。


23歳のとき大正時代の無名破滅型作家・藤澤清造氏の作品に出合い、「僕よりダメな人がいて、それで救われた」と私淑、以来破滅的な生を描く私小説にこだわり続けてきたと語っていらっしゃいます。


「自分よりダメなやつがいるんだなという気持ちになってもらえれば書いたかいがある。それで僕も辛うじて社会にいれる資格が首の皮一枚、細い線でつながっているのかなと思う」



藤澤清造氏に対する思い入れは半端ではなく没後弟子を自称し、「藤澤清造全集」を自ら編集刊行することをライフワークに決め、前述の文学賞の賞金はすべて清造全集の資金に充てるというほどの傾倒ぶりです。


その他、Wikiによると清造の墓標をもらい受けて自宅に保存している他、清造の菩提寺である石川県の西光寺に月命日の墓参を欠かさず、自ら西光寺に申し入れて「清造忌」を復活させた他、清造の墓の隣に自身の生前墓を建てているそうです。



本書『小銭をかぞえる』でもその常識外の傾倒ぶりが至る所で出てきます。


「金欠、妄想、愛憎、暴力。
救いようもない最底辺男の壮絶な魂の彷徨は、悲惨を通り越し爆笑を誘う。
新芥川賞作家の傑作私小説2篇」


◆醜い容姿、しつこい閨事、貧乏、中卒、多汗症に加え生来の短気、弱い者苛めを好むという「私」がようやく掴んだ恋人との同棲生活の波乱の日常の末の悲惨な結末を描いた「焼却炉行き赤ん坊」

◆「藤澤清造全集」の自費刊行の印刷代金の支払いを巡っての同棲相手の「女」との掛け合いの結果破滅へ突き進む過程を描いた「小銭をかぞえる」


2篇はどちらも生来の短気、自己中心などが災いしてやっと掴んだ「女」との関係が破綻する予感を感じさせる結末で幕を閉じていて、女側からみると破綻が当然という「私」の究極のダメ男ぶりがこれでもかと描かれていて共感どころではない内容ですが、そんなダメ男を証明するかのような羅列の文章には妙なしめっぽさや言い訳がましさがなく、短気の果ての暴力的行為もただ事象のみが並べられている点が唯一の救いといえばいえなくもないでしょう。


他作品も読んでみたいと思わせる作家さんではありませんが、文章力は只者ではないことをうかがわせる魅力があり、受賞に繋がったのが理解できます。


野間文芸新人賞を受賞した『暗渠の宿』が手元にあるので今一度読もうとは思っていますが。

大震災から約2週間がたちました。


その間の度重なる余震、そして原発事故への数々の脅威に耐えて避難所で過ごしていらっしゃる被災者の方々のことを思うと胸が苦しくなります。


度が過ぎた報道には怒りを覚えますが、見えないところで原発のそれぞれの号機の冷却に命を捧げて活動された関係者の方々や自衛隊、警察官、東京消防庁の消防士の方々の会見は涙なしでは見られませんでした。



全国各地からのボランティアも現地に入ることができ、物資もやっと被災地に届けられる体制も少しずつ整ってきている状態で、何より被災者の方々が力を合わせ、共に立ち向かっていらっしゃる姿に明るい兆しが感じられて嬉しく思います。


あまりの被害の大きさに混乱していた当初から比べると数え切れない人々の尽力のおかげで道路の整備が進んでいる様子をみると日本人の底力が感じられて力づけられます。


遠く離れて寄付以外のことができないことにもどかしさを感じる毎日ですが、日本中が心を1つに前向きな気持ちを失わず歩んでほしいと思っています。



そんな中、草の根活動家であり現在は内閣府参与である湯浅誠さんが震災ボランティア連携室室長に任命されたのはとてもタイムリーで勇気百倍です。


ホームレス支援に捧げていらっしゃったそのエネルギーを心身ともに路頭に迷っている被災地の人々に向けてくださるのは何と力強いことでしょう。


少しずつ見えてきた光明を見失うことなく日本全体で支えたいと思います。




さて本日は永瀬隼介氏著『退職刑事』のレビューです。


1960年鹿児島県生まれ
週刊誌記者を経てフリージャーナリストとして犯罪ノンフィクションを手掛ける
2000年『サイレント・ボーダー』
2002年『アッシュロード』
2004年『Dōjō―道場』
2005年『わたしが愛した愚か者 Dōjō―道場』
2007年『退職刑事』
2010年『狙撃―地下捜査官』ほか多数


「警察を追われた悪徳刑事の夢、不思議な神隠し事件の解明に執念を燃やす引退した老刑事。様々な事情を抱え、職を辞した刑事たちに訪れる“人生最後の事件”」


タイトルから一生を刑事という職業に捧げた男のその後というような人情話を想像していましたが、まったく違った雰囲気の5篇からなる作品でした。


◆現職時代ヤクザに絡めとられ問題を起こした退職刑事が息子の窮地を救うために立ち上がるが四面楚歌になる姿を描いた表題作「退職刑事」

◆離婚後妻に引き取られた息子を自殺で亡くした組織犯罪対策課所属の刑事が辞職覚悟で息子の自殺の原因となったイジメから目を逸らした担任の女教師を追い詰める様子を描いた「レディ・Pの憂鬱」

◆自ら悟った死期を前に辞職した刑事が迷宮入りした「幼女神隠し事件」の解明に命を賭けた末に知った哀しい真相を描いた「神隠しの夜に」

◆祖父も父親もりっぱな警察官という家系の重みに耐えかねて悪徳警官になった三代目の息子を穏便な退職に導くための説得を頼みに父親を訪ねた息子の上司との話し合いがきっかけで思わぬ展開になる過程を描いた「父子鷹」



警察小説は数多く読んでいますが、日常でヤクザや犯罪者と接する職業ゆえに自らも悪魔に取り込まれる機会も一般人の比ではない、というのがうなずける作品の数々でした。


そういった意味で人生の裏の部分で翻弄され流されていった男たちの悔悟や悲哀、自暴自棄などを巧みに描いた異色ともいえる警察小説。


初めての作家さんですが他作品も読んでみたいと思わせる力量を感じました。

東日本大震災に見舞われた方々に心からお見舞い申し上げます。


想像をはるかに超えた被害の大きさに表現する言葉もありません。


次々送られてくる映像を見ると居ても立ってもいられない気持ちです。


気持ちばかりが焦って安全圏にいることが罪悪に感じられる毎日。


食事をしていても入浴していても申し訳なさでいっぱいです。


マグニチュード7.0という驚異の破壊力だけでも想像を絶するのに、加えて津波、原発の脅威、そして次々起こる余震にどんなに恐ろしい思いをしていらっしゃることでしょう。


瓦礫の山に埋もれていたり流された人々のことを思うと胸が苦しくなります。


命からがら避難していらっしゃる方々に食料や水や毛布、その他必要な物をすぐにでも送りたいと思うばかり。



東京・神奈川在住の我が家の子どもたちや親戚・知人はすべて無事でしたが、首都圏では乾電池などの防災グッズやトイレットペーパー、お米にいたるまで買い走りが続いて品切れだそうです。


福島原発の1号機から4号機すべてが破壊し周辺20キロから30キロへと避難や自宅待機が拡大しましたね。


当初からの東京電力の歯切れの悪い状況説明や後手後手に回っているような防御策に怒り沸騰だったので案の定という感じや不信感でいっぱいです。



娘の茶道の先生のご実家が福島の南相馬にあり、ご高齢のご母堂とともに命がけで津波から逃げたすぐあと今度は放射能から遠ざかるために北に向かわれたということを聞き、何とかして救いの手を差し延べたい思いでいっぱいです。



長男がチェルノブイリの例から計算すると汚染は神奈川県あたりまで及ぶと言っていましたが、すでに東京では規定量の5倍の放射能が観測されたとか。


放射能汚染にはヨウ化カリウムが有効と報道されると全国の薬局ではすでに品切れ、当地でも念のためにと近所の薬局で聞いてみましたが、代替としてうがい薬のルゴール液を飲むことが有効であると教えられました。


ネットでもそれらの噂が広まっているようですが、絶対飲んではいけないとの放射線医学総合研究所の緊急発表もありました。
     

異常事態が発生するとさまざまな風聞が流れ、それによってパニックの連鎖が起こるというのは阪神大震災で経験しましたが、今回のような三つ巴の緊急事態で興味本位の風聞やチェーンメールなど絶対流さないようしてほしいです。


多少なりとも力になれることといえば義捐金でしょうが、これに関してもフィッシング詐欺サイトが出回っているといいます。



世界中の医師網により世界各地へ救済のため迅速に対応している当地の誇りでもある国際医療NGO「AMDA」は非常に信頼できる法人なので過去にも何度も募金をしています。


他にも信頼できる窓口はたくさんあると思いますが、選択肢の1つとして「AMDA」のご案内します。


特定非営利活動法人アムダ

   郵便振替 01250・2・40709
   口座名「特定非営利活動法人アムダ」
    ※通信欄に「東北地方太平洋沖地震」もしくは「131」と記入



―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――


このブログは読書ブログではありますが本の紹介をと思うことすら不謹慎に思っています。


なので本日はただご紹介だけお許し願えればと思います。


田辺聖子氏著『うすうす知ってた』


ポプラ文庫の田辺聖子セレクション第5弾、5つの短篇が収録されています。


著者の大切にしている市井の男女の織り成す「ただごとの小説」。


5篇の中の「クワタサンとマリ」、以前も別の短編集で読みましたが何度読んでもマリのかわいさと切なさが胸に響く作品でした。

昨年NHK教育テレビで2ヶ月にわたって放映された「ハーバード白熱教室」で一躍有名になったハーバード大学の政治学部教授・マイケル・サンデル氏。


以前帰省した次男が置いていってくれた『これからの「正義」の話をしよう』を読んでいると画一的な決めつけの恐さを感じずにはいられません。


広島原爆投下でさえ、サンデル教授の問いかけは「広島にとっては大変な事態。しかし、それによって本土決戦を免れたということも言われている。私には明確な答えがない」となります。



道徳的に正しいことを定義する「共通善」をバックボーンにした「正義」ですが、いろいろな側面からとらえるとまったく見方感じ方が変わってくるということの示唆でいっぱいです。



この社会は「最大多数の最大幸福」という考えのもと成り立っていて、多数派に属する考え方イコール正義のように考えれば安心する傾向にありますが、さまざまな立場に立って考える、ということの大切さを投げかけている点においてすばらしい教授といえると思います。



『これからの「正義」の話をしよう』のレビューはまた次の機会に措くとして、本日はその「視点を変えてみれば・・・」ということを念頭において読めばまったくちがった景色が見えてくるような、そんな作品をご紹介したいと思います。






今井彰氏著『ガラスの巨塔』


「1万人を超える社員を抱え、国内外に82の支局を構える全日本テレビ協会。
ここに、三流部署ディレクターから名実ともにNo.1プロデューサーにのし上がった男がいた。
湾岸戦争時に作った1本のドキュメンタリーをきっかけに、受賞歴多数の社会派ディレクターとして名を馳せ、プロデューサーとして手掛けた『チャレンジX』は視聴率20%超の国民的人気番組に。
天皇と呼ばれる会長の庇護の下、『選ばれし者』の特別職に誰よりも早く抜擢され、さらなる野望をたぎらすのだが...。
悪意と情熱が交差するとき、栄光は汚辱に塗り替えられていく。
元NHK看板プロデューサーが書き下ろす問題小説」



1956年大分県生まれ。 80年、NHK入局。
NHKスペシャル「タイス少佐の証言 湾岸戦争45日間の記録」で文化庁芸術作品賞
NHKスペシャル「埋もれたエイズ報告」で日本ジャーナリスト会議本賞・放送文化基金奨励賞
「シリーズ弁護士・中坊公平」でギャラクシー優秀賞
2000年に立ち上げた「プロジェクトX 挑戦者たち」で菊池寛賞、橋田賞受賞
エグゼクティブ・プロデューサーを経て08年退局



2000年~2005年まで放映され高視聴率を持続させた有名なNHKの看板番組「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」。


中島みゆきさんの「地上の星」がオープニング、「ヘッドライト・テールランプ」がエンディングテーマとして流れされていたことでも評判でしたね。



戦後のさまざまな開発プロジェクトなどが突き当たった難問をどのように克服し成功に至ったかを紹介するドキュメントとして日本中の感動を呼び起こした番組。


無名の日本人リーダーと、それを支えた人々による挑戦と努力、そしてその成果の紹介がテーマ、日本PTA全国協議会の「一番子供に見せたい番組アンケート」で4年連続1位だったこともある超優良番組でした。



この番組のチーフプロデューサーが本書の著者である今井彰氏。


本書はあくまでフィクションとしての形態を保っていますが、主人公・西悟に著者が色濃く投影されているのは周知の事実だといえます。



日の当たらない部署の無名社員だった主人公・西悟が湾岸戦争の犠牲者に光を当てたドキュメンタリーレポート「ダーデン夫妻の戦争~捕虜家族の記録~」によって一躍脚光を浴び、局内でも天皇と呼ばれたNHK会長の庇護のもと急速に地位と名誉を手に入れて、「プロジェクトX」のチーフプロデューサーとして持ち前の熱意と才能と努力によって番組を成功に導びいた行程が描かれている輝かしい前半部分の明るく前向きな筆致から一転して、後半部分では主人公の出世に比例して社内の執拗なまでの誹謗や中傷、やらせ疑惑など週刊誌の事実無根の報道が次々と彼に襲いかかり徐々に精神のバランスを崩し、ついに自殺未遂を起こすまでに追い詰められ、あげくは万引き事件を起こすという事態に発展した過程をこれ以上ないほど暗く疑心に満ちた筆致で描いています。



前半の成功物語から一転して、後半はNHKと思しき全日本放送協会の腐敗した内実とそれに巻き込まれた哀れな存在としての自分を描くことに終始一貫していてなにやら私怨物語のような雰囲気。



純然たる小説として読めば熱血漢溢れる主人公が腐敗した企業を内側から告発している勇気ある実録小説としての体を保っていると解釈できないことはありませんが、あまりにも個人の感情的な怨念があふれた言い訳に終始した内容であるともいえて正直不快でした。



番組をより感動路線に持っていくためのやらせ疑惑にしろ万引き報道にしろ、真実は1つでしょうが、作品を読むかぎり、マスメディアの報道自体が間違っているという記述、自分も含めこれに単純にうなずくことができないと感じた読者も多かったのではないでしょうか。



以前産経新聞に映画監督である森達也氏の書評が出ていました。

興味深い内容だったので長文ですが以下ご紹介します。


「アフリカのサバンナで暮らす母ライオンと仔ライオンのドキュメンタリーを、あなたは観ているとする。
情愛溢(あふ)れる母親と可愛(かわい)い子供たちだ。
次に視点を換える。
ライオンに狩られるトムソンガゼルの親子のドキュメンタリーだ。
草を食む彼らのそばに凶暴そうな雌ライオンが忍び寄ってくるシーンを観ながら、あなたは何を思うだろうか。
認知する事実は視点によって変わる。
時には反転する。
特に現実に規定されるドキュメンタリーは、視点がすべてと言い換えることもできる。
だから優れたドキュメンタリストの多くは、公正中立や客観性などのドグマを信じない。善悪二元的な観点にも同意しない。
人が100人いれば100通りの事実がある。
だからこそ不思議だ。
この小説の著者である今井彰は、長くドキュメンタリーを撮り続けながら、なぜこれほどあからさまな二元論的世界観を提示できるのだろう」


西悟に嫉妬し今の栄光から引きずりおろそうと画策する同僚や上司、やらせ問題や西の個人的金銭流用を追及する週刊誌記者、万引きを仕組んだ(と主張)とするデパートの店員などはすべて人品卑しい人間として描かれていて、方や西を庇護する上司らは高潔な人格者として二元論的に臆面もなく描いていることを鋭く指摘。


あまりにも一貫して自己の正当化に終始している点において逆に多くの読者の信頼を失っていると思える作品でしたが、誇張を差し引いても浮かんでくる巨大企業・NHKの派閥を含む内部人事の暗部を垣間見ることができた点、そしてサンデル氏の示唆のように視点を変えて物事を見つめる目を養う教材としては貴重な作品でした。

2週間ほど前突然左膝に炎症が生じ曲げ伸ばしが困難になりました。


昨年末より不調が続いていた矢先のこと。


リウマチの既往症があり化学薬品などの試行錯誤の末現在は漢方1本で過ごしているので、早速かかりつけの漢方医に症状に応じた薬剤を処方してもらいましたが、なかなか炎症が治まりません。


不安や不快感を表わさないのを身上としていますが、今回はIgG抗体が体の中で暴走しているという感じでちょっと不安。



卓球やウォーキング、屈伸運動、階段の一気上がりなど定期的にしている運動も休んでいるので3度の食事の代謝のことを想像すると何だか恐ろしくなります。



予約が取りにくいほど患者さんがいっぱいで忙しい鍼灸師の先生に訴えて予約のスキマにねじ込んでもらったところ炎症が強く水が溜まっていることが判明。


腫れた膝ではなく股関節をひねるか何かのアクシデントがあったかどうか聞かれましたが、まったく覚えがありません。


緊急事態とのことで、いつになく熱心に治療してくださいましたが、いままで痛いと感じたことのなかった鍼が今回はとても痛いと感じられるほど奥深く入れられました。


施療後、足先まで何本もキネシオテープを貼って完了。


2,3回でよくなるでしょうとの見立てに少しほっとしているところです。



母の食事などの介助をするとき中腰になるのも苦痛なので早く回復しなければと思っています。



何でもないときは当たり前のように過ごしていますが何か不具合が起きた途端にその当たり前がとても貴重で感謝に値することだと思えるんですよね。


日ごろの不遜さを反省したり、喉もと過ぎたらすぐ忘れたりを繰り返すバカな私です。







さて本日は中島たい子氏著『結婚小説』をご紹介します。



以前読んだ著者の作品『漢方小説』が漢方のイロハだけ聞きかじっていた私にとって興味深い内容且つ独特の雰囲気の作品でおもしろかったので、今回図書館で見つけて借りてきました。



著者の簡単な経歴&『漢方小説』のレビューはこちら



主人公は売れない39歳の独身女性作家。


前回同様多分に著者・中島たい子氏が投影された主人公設定です。


編集者から結婚をテーマの作品を依頼された主人公・本田貴世が取材を兼ねて合コンに参加、そこで出会った男性と交際~結婚へと発展するはずが・・・


ネタバレになるので結末は省きますが、全体的に違和感の残った作品でした。



前半部分に散りばめられたこの著者独特の自虐的なユーモアの数々は前作同様微笑ましくも好もしいものでしたが、後半貴世を通して語られる結婚観というか結婚ごっこ観的なセリフが何とも上滑りでリアリティがなく浮遊した感じ。



『結婚小説』と銘打つかぎりは結婚したい症候群を内に秘めたアラフォーがそんなにすんなりと落ち着く構成では著者の筆力の沽券にかかわるというような作為が感じられて前作に比べて読後の充足感はありませんでした。

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