昨夜久しぶりに幼い頃から家族ぐるみでお付き合いしている方と電話で話しました。
東京で独り住まいの92歳の彼女は当時中学生だった一粒種の息子さんを不慮の事故、というか自死ともとれる特殊な形で亡くし、その後の人生を深い悲しみの中にありながら前向きに過ごしていらっしゃる方。
お話の中で「明日は月2回の国文学の会で『雨月物語』を読むの。バスの乗り降りもだんだん不自由になったけどみなさんの手を借りてがんばっているのよ」とお元気そうでほっとしました。
高齢の独り暮らしでいちばん大変なのは料理だと思い、適当な間隔を考えて手作り食品やレンジで温めて食べられる野菜中心の惣菜を見繕っては送っていますが、それがいちばん嬉しいと涙声で喜んでくださるので送る側の私もとても嬉しくなります。
亡くなった母が大変お世話になったのでその何十分の一でも恩返しできれば、そして少しでも彼女の慰めになればと思っていますが、遠く離れていて手助けすることもできず、こんな形でしか役に立つことができません。
亡くなった息子さんのY君は幼い頃から私を姉のように慕ってくれていて一緒に旅行したりなどたくさんの思い出があります。
一昨年母が亡くなり家を整理していたらそのY君からの幼い字で書かれた私宛の手紙が何通も出てきて懐かしさに悲しみが込み上げてきました。
ちょうど私が高校生のとき。
命が突然消えてしまい、もう二度と会うことも話すこともできないという苛酷な事実に打ちのめされた最初の出来事だったような気がします。
「もうすぐYのところに行けると思うと、何だか死ぬことが楽しみなの」といわれる彼女のこれまでの長い日々を思ってみますが、今のところ健在な子どもたちの母親である私の想像をはるかにはるかに超えた喪失の苦しみを乗り越えてこられただろうと思うとただすごい人だなあと崇敬するばかりです。
前向きな姿勢、少しは見習わなくては!
さて今回は今野敏氏著『隠蔽捜査4 転迷』のレビューです。
「相次いで謎の死を遂げた二人の外務官僚。
捜査をめぐる他省庁とのトラブル。
娘の恋人を襲ったアクシデント。
大森署署長・竜崎伸也の周囲で次々に発生する異常事態。
盟友・伊丹俊太郎と共に捜査を進める中で、やがて驚愕の構図が浮かび上がる。
すべては竜崎の手腕に委ねられた!
緊迫感みなぎる超人気シリーズ最強の第五弾」
著者の作品の中でも特にファンの多い「隠蔽捜査」シリーズの最新刊。
第4弾となっていますが、スピンオフの『初陣―隠蔽捜査3.5』があるので、実質的には第5弾になります。
時系列的に並べると『隠蔽捜査』→『果断―隠蔽捜査2』→『疑心―隠蔽捜査3』→『初陣―隠蔽捜査3.5』→『転迷―隠蔽捜査4』となっています。
「隠蔽捜査」シリーズの主人公は警察庁の異色のキャリア官僚・竜崎伸也。
‘異色’と銘打っているところにこのシリーズの人気の秘密があります。
「私はエリート警察官僚だ。
エリートは国家を守るため、全身全霊を捧げるのが義務だ。
私は当たり前のことを普通に行っているにすぎないのだ」
犯罪に立ち向かうため己の信じる正論のまま合理性を追求して上層部の思惑などもろともせずストレートに行動しいつなんどきも節を曲げず、家庭内の不祥事までも正直に上司に申告したが故にエリートコースから外れ大森署の署長の地位に左遷された竜崎、それでも動じることなく我が道を行く竜崎の魅力に人気が集約されているんですよね。
その大森署近辺で発生した2つの事件-殺人事件とひき逃げ事件-の捜査本部が大森署に置かれ、それぞれ幼馴染の刑事部長の伊丹と交通部長の柿本が責任者となりますが、この2つの事件は外務省と厚生労働省を巻き込んで2省と警察の間で次第に複雑な様相を見せてくる中、伊丹と柿本の思惑によりすべての事件を竜崎の下に集結させることになります。
泣く子も恐れる警察組織と他省庁との軋轢ももろともせず、国を守るという正義を貫く姿勢に揺るぎない竜崎のスタンスは本書でも変わらず、読んでいて胸がすきます。
見どころは竜崎の幼馴染でスピンオフで主人公として登場した伊丹刑事部長や公安部、外務省、厚労省の麻取りなど各方面のエリートを自認する歴々とのやりとり。
相手の地位の高さなどにはお構いなしで正論を述べる竜崎の言動と、その言動に最初のうちこそ反発するものの知らぬ間に納得してしまうという過程が読者にとって最高の読みどころとなっています。
本書は前々回不評だった恋心を抱く竜崎の姿もなく、というか無駄な女性はまったく登場せず、事件発生からの数日間を追ったものでその点は好ましいものですが、前回スピンオフで主人公として登場した伊丹が刑事部長となって竜崎とからむ場面が多く、前回の作品を読んで少なからず伊丹の人物設定に違和感を感じていた私は今回も刑事部長という高い地位の伊丹の言動その他の設定に首を傾げること多々ありました。
事件は竜崎指揮の下、ラストであれよあれよという間に解決するのも予定調和的であっけない気がしますが、なんといっても見どころは竜崎のブレない唐変木ぶりなのでよしとしましょう。
★4つかな。

東京で独り住まいの92歳の彼女は当時中学生だった一粒種の息子さんを不慮の事故、というか自死ともとれる特殊な形で亡くし、その後の人生を深い悲しみの中にありながら前向きに過ごしていらっしゃる方。
お話の中で「明日は月2回の国文学の会で『雨月物語』を読むの。バスの乗り降りもだんだん不自由になったけどみなさんの手を借りてがんばっているのよ」とお元気そうでほっとしました。
高齢の独り暮らしでいちばん大変なのは料理だと思い、適当な間隔を考えて手作り食品やレンジで温めて食べられる野菜中心の惣菜を見繕っては送っていますが、それがいちばん嬉しいと涙声で喜んでくださるので送る側の私もとても嬉しくなります。
亡くなった母が大変お世話になったのでその何十分の一でも恩返しできれば、そして少しでも彼女の慰めになればと思っていますが、遠く離れていて手助けすることもできず、こんな形でしか役に立つことができません。
亡くなった息子さんのY君は幼い頃から私を姉のように慕ってくれていて一緒に旅行したりなどたくさんの思い出があります。
一昨年母が亡くなり家を整理していたらそのY君からの幼い字で書かれた私宛の手紙が何通も出てきて懐かしさに悲しみが込み上げてきました。
ちょうど私が高校生のとき。
命が突然消えてしまい、もう二度と会うことも話すこともできないという苛酷な事実に打ちのめされた最初の出来事だったような気がします。
「もうすぐYのところに行けると思うと、何だか死ぬことが楽しみなの」といわれる彼女のこれまでの長い日々を思ってみますが、今のところ健在な子どもたちの母親である私の想像をはるかにはるかに超えた喪失の苦しみを乗り越えてこられただろうと思うとただすごい人だなあと崇敬するばかりです。
前向きな姿勢、少しは見習わなくては!

「相次いで謎の死を遂げた二人の外務官僚。
捜査をめぐる他省庁とのトラブル。
娘の恋人を襲ったアクシデント。
大森署署長・竜崎伸也の周囲で次々に発生する異常事態。
盟友・伊丹俊太郎と共に捜査を進める中で、やがて驚愕の構図が浮かび上がる。
すべては竜崎の手腕に委ねられた!
緊迫感みなぎる超人気シリーズ最強の第五弾」
著者の作品の中でも特にファンの多い「隠蔽捜査」シリーズの最新刊。
第4弾となっていますが、スピンオフの『初陣―隠蔽捜査3.5』があるので、実質的には第5弾になります。
時系列的に並べると『隠蔽捜査』→『果断―隠蔽捜査2』→『疑心―隠蔽捜査3』→『初陣―隠蔽捜査3.5』→『転迷―隠蔽捜査4』となっています。
「隠蔽捜査」シリーズの主人公は警察庁の異色のキャリア官僚・竜崎伸也。
‘異色’と銘打っているところにこのシリーズの人気の秘密があります。
「私はエリート警察官僚だ。
エリートは国家を守るため、全身全霊を捧げるのが義務だ。
私は当たり前のことを普通に行っているにすぎないのだ」
犯罪に立ち向かうため己の信じる正論のまま合理性を追求して上層部の思惑などもろともせずストレートに行動しいつなんどきも節を曲げず、家庭内の不祥事までも正直に上司に申告したが故にエリートコースから外れ大森署の署長の地位に左遷された竜崎、それでも動じることなく我が道を行く竜崎の魅力に人気が集約されているんですよね。
その大森署近辺で発生した2つの事件-殺人事件とひき逃げ事件-の捜査本部が大森署に置かれ、それぞれ幼馴染の刑事部長の伊丹と交通部長の柿本が責任者となりますが、この2つの事件は外務省と厚生労働省を巻き込んで2省と警察の間で次第に複雑な様相を見せてくる中、伊丹と柿本の思惑によりすべての事件を竜崎の下に集結させることになります。
泣く子も恐れる警察組織と他省庁との軋轢ももろともせず、国を守るという正義を貫く姿勢に揺るぎない竜崎のスタンスは本書でも変わらず、読んでいて胸がすきます。
見どころは竜崎の幼馴染でスピンオフで主人公として登場した伊丹刑事部長や公安部、外務省、厚労省の麻取りなど各方面のエリートを自認する歴々とのやりとり。
相手の地位の高さなどにはお構いなしで正論を述べる竜崎の言動と、その言動に最初のうちこそ反発するものの知らぬ間に納得してしまうという過程が読者にとって最高の読みどころとなっています。
本書は前々回不評だった恋心を抱く竜崎の姿もなく、というか無駄な女性はまったく登場せず、事件発生からの数日間を追ったものでその点は好ましいものですが、前回スピンオフで主人公として登場した伊丹が刑事部長となって竜崎とからむ場面が多く、前回の作品を読んで少なからず伊丹の人物設定に違和感を感じていた私は今回も刑事部長という高い地位の伊丹の言動その他の設定に首を傾げること多々ありました。
事件は竜崎指揮の下、ラストであれよあれよという間に解決するのも予定調和的であっけない気がしますが、なんといっても見どころは竜崎のブレない唐変木ぶりなのでよしとしましょう。
★4つかな。