VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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2013年03月

昨夜久しぶりに幼い頃から家族ぐるみでお付き合いしている方と電話で話しました。fcad08a3.jpg



東京で独り住まいの92歳の彼女は当時中学生だった一粒種の息子さんを不慮の事故、というか自死ともとれる特殊な形で亡くし、その後の人生を深い悲しみの中にありながら前向きに過ごしていらっしゃる方。


お話の中で「明日は月2回の国文学の会で『雨月物語』を読むの。バスの乗り降りもだんだん不自由になったけどみなさんの手を借りてがんばっているのよ」とお元気そうでほっとしました。


高齢の独り暮らしでいちばん大変なのは料理だと思い、適当な間隔を考えて手作り食品やレンジで温めて食べられる野菜中心の惣菜を見繕っては送っていますが、それがいちばん嬉しいと涙声で喜んでくださるので送る側の私もとても嬉しくなります。


亡くなった母が大変お世話になったのでその何十分の一でも恩返しできれば、そして少しでも彼女の慰めになればと思っていますが、遠く離れていて手助けすることもできず、こんな形でしか役に立つことができません。


亡くなった息子さんのY君は幼い頃から私を姉のように慕ってくれていて一緒に旅行したりなどたくさんの思い出があります。


一昨年母が亡くなり家を整理していたらそのY君からの幼い字で書かれた私宛の手紙が何通も出てきて懐かしさに悲しみが込み上げてきました。

ちょうど私が高校生のとき。


命が突然消えてしまい、もう二度と会うことも話すこともできないという苛酷な事実に打ちのめされた最初の出来事だったような気がします。


「もうすぐYのところに行けると思うと、何だか死ぬことが楽しみなの」といわれる彼女のこれまでの長い日々を思ってみますが、今のところ健在な子どもたちの母親である私の想像をはるかにはるかに超えた喪失の苦しみを乗り越えてこられただろうと思うとただすごい人だなあと崇敬するばかりです。


前向きな姿勢、少しは見習わなくては!




さて今回は今野敏氏著『隠蔽捜査4 転迷』のレビューです。


「相次いで謎の死を遂げた二人の外務官僚。
捜査をめぐる他省庁とのトラブル。
娘の恋人を襲ったアクシデント。
大森署署長・竜崎伸也の周囲で次々に発生する異常事態。
盟友・伊丹俊太郎と共に捜査を進める中で、やがて驚愕の構図が浮かび上がる。
すべては竜崎の手腕に委ねられた! 
緊迫感みなぎる超人気シリーズ最強の第五弾」



著者の作品の中でも特にファンの多い「隠蔽捜査」シリーズの最新刊。


第4弾となっていますが、スピンオフの『初陣―隠蔽捜査3.5』があるので、実質的には第5弾になります。


時系列的に並べると『隠蔽捜査』→『果断―隠蔽捜査2』→『疑心―隠蔽捜査3』→『初陣―隠蔽捜査3.5』→『転迷―隠蔽捜査4』となっています。


「隠蔽捜査」シリーズの主人公は警察庁の異色のキャリア官僚・竜崎伸也。

‘異色’と銘打っているところにこのシリーズの人気の秘密があります。


「私はエリート警察官僚だ。
エリートは国家を守るため、全身全霊を捧げるのが義務だ。
私は当たり前のことを普通に行っているにすぎないのだ」


犯罪に立ち向かうため己の信じる正論のまま合理性を追求して上層部の思惑などもろともせずストレートに行動しいつなんどきも節を曲げず、家庭内の不祥事までも正直に上司に申告したが故にエリートコースから外れ大森署の署長の地位に左遷された竜崎、それでも動じることなく我が道を行く竜崎の魅力に人気が集約されているんですよね。


その大森署近辺で発生した2つの事件-殺人事件とひき逃げ事件-の捜査本部が大森署に置かれ、それぞれ幼馴染の刑事部長の伊丹と交通部長の柿本が責任者となりますが、この2つの事件は外務省と厚生労働省を巻き込んで2省と警察の間で次第に複雑な様相を見せてくる中、伊丹と柿本の思惑によりすべての事件を竜崎の下に集結させることになります。


泣く子も恐れる警察組織と他省庁との軋轢ももろともせず、国を守るという正義を貫く姿勢に揺るぎない竜崎のスタンスは本書でも変わらず、読んでいて胸がすきます。



見どころは竜崎の幼馴染でスピンオフで主人公として登場した伊丹刑事部長や公安部、外務省、厚労省の麻取りなど各方面のエリートを自認する歴々とのやりとり。


相手の地位の高さなどにはお構いなしで正論を述べる竜崎の言動と、その言動に最初のうちこそ反発するものの知らぬ間に納得してしまうという過程が読者にとって最高の読みどころとなっています。


本書は前々回不評だった恋心を抱く竜崎の姿もなく、というか無駄な女性はまったく登場せず、事件発生からの数日間を追ったものでその点は好ましいものですが、前回スピンオフで主人公として登場した伊丹が刑事部長となって竜崎とからむ場面が多く、前回の作品を読んで少なからず伊丹の人物設定に違和感を感じていた私は今回も刑事部長という高い地位の伊丹の言動その他の設定に首を傾げること多々ありました。


事件は竜崎指揮の下、ラストであれよあれよという間に解決するのも予定調和的であっけない気がしますが、なんといっても見どころは竜崎のブレない唐変木ぶりなのでよしとしましょう。

★4つかな。

先日友人たちと5人で尾道の「なかた美術館」に遠出してきました。


尾道の船会社の重役をされていたという故・中田貞雄氏が半世紀余りの歳月を費やして収集された200点余の絵画が会期毎に模様替えをして展示されています。


平成9年に誕生したそうですが、フランス現代具象画家ポール・アイズピリ、ピエール・クリスタン、エコール・ド・パリを中心としたフランス近代絵画、梅原龍三郎、中川一政、林武ら日本近代絵画、尾道を代表する小林和作などすばらしいコレクションの数々に圧倒されました。
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梅原龍三郎                   林武

特に生前の中田氏はアイズピリと親交が深かったそうでコレクションもたくさんあり、独特の明るい色調の絵画の数々が心を和ませてくれました。
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さて本日は津村節子氏著『夫婦の散歩道』をご紹介したいと思います。


「夫・吉村昭と歩んだ五十余年。
作家として妻として、喜びも悲しみも分かち合った夫婦の歳月、想い出の旅路……。
人生の哀歓をたおやかに描く感動の最新エッセイ。
吉村司『母のウィンク』収録」


本ブログがご縁でお知り合いになったbayouさんからのご紹介本です。

Bayouさんも私も吉村作品のファンという共通項がありコメントにご紹介いただいた本書を読みたくてamazonで購入しました。


先にブログでご紹介した『紅梅』とともに本書も吉村氏がご逝去されたあと、奥様である津村節子氏によって書かれたものですが、小説仕立てになっている『紅梅』に比べ、本書は津村氏ご自身のエッセイである点、より身近にご夫妻の日常の息づかいが感じられます。


本書に収録されている44のエッセイは夫君・吉村氏ご逝去後2年ほどのブランクを経て奥様である津村氏が求めに応じて様々な媒体に執筆されたということで必然的に生前の夫君に触れたものが多く、そういった意味で出版社がつけたというタイトル通りですが、他に津村氏ご自身の小説家としての歩みや知己に関するエッセイも少なからず含まれていて、吉村ファンのみならず津村氏のファンの方にとっても読み応えある小品が数多くあります。


そしてエッセイのラストを飾る作品はお2人のご子息・司氏によるもので、妻である津村氏が先に芥川賞を受賞された直後、吉村氏が生活を支えるために勤めていた会社に退職願を出された経緯が書かれており、あと1年間小説に専念してみて、もし家計を全額負担することが出来なければ筆を折る覚悟である、という修羅の如く凄まじい宣言、すなわち「自分の命そのもの」であるという小説を諦めても一家の柱としての責任を果たすという責任感の強さに一家を構える人間としての潔さを見せつけられた思いでした。


妻である津村氏が受賞された芥川賞をとることができなかった吉村氏のそのときの心情を想像すると胸が詰まりますが、当時渦巻いていたであろう焦りや嫉妬をその後見事に克服されて小説家として大成されたことはそのすばらしい作品群が証明しています。


本書にはそこかしこに生前の吉村氏が息づいていて、作品でしか面識のないただの1ファンである私ですら懐かしさに胸が熱くなります。


数多くの住み替えを経て井の頭公園に隣接した地に居を構えてからのご夫妻の生活範囲。


Bayouさんのコメントで度々ご紹介いただいたエッセイに出てくる「黄色いベンチ」はその井の頭公園にあります。


どちらかが外出先から駅に着かれたと電話をすると片方が散歩がてら公園の途中まで迎えにこられるというお二人。

背もたれのところに金属製プレートが取り付けられたいくつもの黄色いベンチは一般の市民による寄贈でプレートには寄贈者の名前と、「いつまでもここに住み、元気で過ごせますように」「ここは二人の出発点です」などの思い思いのメッセージが彫られているそうです。

井の頭公園で待ち合わせるお二人は寄贈者が幸せを刻んだと思われるベンチに座るのはなぜか遠慮して、樹木を保護するための柵に座って待っていたといいます。



「柵に腰をかけている夫は、林の樹木にとけ込んでしまっていて、今も林の中で見えることがある」

「秋が深まって公園の落葉が厚く散り敷かれるようになると、夕闇が濃くなる頃、家の近くの道の曲り角に夫の姿が現れる…
その正体は人体ぐらいの太さのコンクリートの灰色の電柱で、ちょうど夫の背の高さの位置に取り付けられている緑色のプレートに黄色いペンキで通学路と書かれた文字が、眼鏡をかけた夫の顔に見えるのだ…
私は、林の中を抜けて少しずつ足を運びながら夫が見える位置を探して立ち止まり、話をする」


作家という業を背負っていたがために妻として夫の介護を十分にできなかった悔いに苛まれ続けていらっしゃるという著者。


文壇つきあいをしなかった吉村氏が唯一おつきあいのあった城山三郎氏の亡くなった奥様との歳月に触れられた『そうか、もう君はいないのか』を読んだ娘さんが「お母さんがお父さんにしてあげた一番いいことは、先に死ななかったこと」と言われたそうです。


それはそれで伴侶としての最大の功績だと思いますが、結婚当初のスタート時からの生活の苦労の数々にずっと寄り添われてこられたこと自体が偉大です。


作家同士の家庭生活の厳しさはよく聞くところですが、お二人においてはこれほどにも温かいものだったのかと感動します。


まさに津村氏の心にしっかりと生き続けている吉村氏の生前の幸せを感じて温かいものが込み上げてきます。


「そのけはいが失せたのは、いつの頃からだったろう。
けはいと言っても、建て替えてしまった家の中ではなく、夕ぐれ時に公園の柵に腰をかけていたり、百貨店で私が買物をしている間待っていたエレベーターわきの椅子にかけていたり、かれが入院していた病院の歯科へ治療に行ったときに廊下ですれ違ったりしたので
ある…
私は夫の死後、4年4ヵ月間かれに関する仕事に明け暮れしてきた。
未発表の短篇やエッセイをまとめ、ゲラに手を入れ、序文やあとがきを書き、題名をつ
け、死んでから、これほど夫の作品を読むことになろうとは、思いもかけぬことだった。
読む度にゆるぎない自分の世界を構築している作品に圧倒され、夫は夫でなくなり、作家になってしまった。
夫のけはいがなくなったのは、かれの死後続いている事務処理と、これまで読まなかった作品を読み続けたためである」


「読むたびにゆるぎない自分の世界を構築している作品に圧倒され、夫は夫ではなくなり、作家になってしまった」


夫としての吉村氏への深い愛情とともに作家である氏への深い尊敬の念に溢れたエッセイ集です。


上京の折があれば本書に繰り返し登場するお二人の日常の散歩道―吉祥寺駅~井の頭公園、弁財天、ボート池、上水べりなどをゆっくり散歩しながら四季折々の花々を味わってみたというのが今の私の小さな夢です、できたら生前の吉村氏の気配を感じながら。

友人がスーパーでくぎ煮用イカナゴが出ていたと電話をくれたのでついでに買ってきてもらいました。


時期的にそろそろと思っていたのでラッキーとばかりに大なべを用意して、大量の生姜の千切り、醤油、砂糖、料理酒、みりんをそれぞれの分量で合わせて本体が届くのを待って・・・
作りました~。


神戸にしばらく住んでいたので毎年作っていた習慣で手順は頭に入っています、といっても単純な仕事、ただ調理中はなべの前から離れず手も出さず見守っていればいいだけ。0041c11c.jpg



なにしろ小さく弱々しく繊細なイカナゴ、決して箸などでかき混ぜては壊れます^_^;


市販のイカナゴのくぎ煮はざらめ砂糖を大量に使って照りを出すのが正式なのですが、我が家はざらめはもちろん白砂糖は置いていないのできび糖を、それも量を控えて使うのでできあがったものは今ひとつ照りに欠けています。


冷蔵庫で結構長く保存できるし、冷凍もOKなのでしばらくご飯のお供に楽しみ♪





さて今回は海堂尊氏著『極北ラプソディ』のご紹介です。

「崩壊寸前の地域医療はドクターヘリで救えるのか?
赤字病院の再生を図る世良院長は訪問看護の拡充をかかげ、外科医の今中を極北救命救急センターに派遣する。
北海道のドクタージェット構想は実を結ぶのか?
『極北クレイマー』に続く迫力満点の第2弾」


『極北クレイマー』のその後を描いた続編として2011年2月~11月にかけて「週刊朝日」に連載されたものを単行本化したのが本書。


財政再建団体に指定された極北市-財政再建団体となった夕張市がモデルーの極北市民病院に立て直しのために院長としてやってきた病院再建請負人・世良雅志。


赴任当初から人員削減、薬剤費抑制、救急患者の受け入れ拒否などを打ち出し、マスコミの批判をもろともせず強行に改革を遂行する世良院長の姿を、同病院に赴任した唯一の医師・今中の視点から描いた物語。


医師である著者らしく、行政と医療のかかわりなどを中心に様々な提言を作品中に投影させていて読み応えのある内容になっていますが、もう1つの楽しみは既存の作品に登場する主要人物たちが数年を経過した形で別の作品に登場するので、登場人物のその後を知ることができるというとうことにあります。


今回も登場する世良は「ブラックペアン1988」、「ブレイズメス1990」、速水晃一は「ジェネラル・ルージュの凱旋」で華々しく登場という具合。


一連の海堂作品を読んでいれば面白さも倍増すると思いますが、しばらく作品から離れていた私は薄らいだ記憶を呼び戻すのに時間がかかりました。


物語は東城医大出身の世良雅志、速水晃一、物語の終盤に登場する神威島の医師・久世敦夫を含めて展開する様子が今中を通して語られていますが、今回は医療と行政の対立を軸にドクターヘリを起用した救急医療現場の問題点を提起しています。


海堂作品に共通していえることですが、上述のような真摯な提言とは裏腹に医師である登場人物の行動や言葉が妙にマンガチックなためにあまり共感が持てないという点が今ひとつですが、
医療の在り方を考えるきっかけになるという意味においては意義深い作品です。

古今東西を問わず絵画を観るのが好きで今まで多くの美術館を訪れました。


私設美術館を入れれば地方のこんなところに、と思うような田舎に近代的な美術館が建っていたり、ある作家さんに特化された美術館も各地にあり、外国の有名な美術館から大掛かりに貸し出ししてもらう絵画展だけではない小さな楽しみが地方の各所にもあります。


好みが限られていて好きな画家の数は多くはありませんが、日本でいえば荻須高徳や佐伯祐三、香月泰男など。


スペイン風邪のため29歳という若さで亡くなったオーストリアの画家エゴン・シーレも好きな画家のひとりです。


シーレを知ったのは五木寛之氏の『哀しみの女』という作品の表紙を飾っていたことからその絵に強く惹かれたのがきっかけですが、マイナーな画家のせいかはたまた退廃的な画風のせいか日本で実物にお目にかかったことがありません。


一昨年夫が東欧3カ国に旅する機会がありチェコもその1つだったので、是非シーレ記念美術館に行って絵葉書買ってきてと頼んでいて幸い自由時間に美術館の横を通りかかる機会があったのに休館だったそうで、本当に残念がっていました。


アドルフ・ヒトラーが不合格となり続けたことで有名なウイーン美術アカデミーに入学するも授業に価値を見出せず退学して師と仰ぐクリムトに弟子入りしたというシーレ。


あまりにも猥褻であるという理由で裁判所に押収されたこともあるそうですが、そういった世間の悪評をもろともせず自分の路線を貫き、師であるクリムトによる第49回ウィーン分離派展に50点以上の新作を公開したのをきっかけに一挙に名声が高まった矢先当時流行っていたスペイン風邪のため妊娠中の妻に続いて短い一生を閉じたのでした。


以前誕生日に娘がくれたシーレの小さな画集を見ていて、「そうだ!切り取って写真立てに入れよう」と思い立って入れてみたのがこれら。
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なかなか気に入っています。




さて今日は今野敏氏著『ヘッドライン』をご紹介します。


「TBNテレビの人気報道番組『ニュースイレブン』の遊軍記者・布施。
警視庁捜査一課・継続捜査担当のベテラン刑事・黒田。
偶然にも二人が追い始めた未解決の女子学生猟奇殺人事件、背後には都会にうごめく巨大な闇が…」 

以前布施京一を主人公の短篇『スクープ』をここでご紹介したことがありますが、その続編ともいうべき長編です。


勤務態度は甚だよろしくないけれど、幅広い交友と独特の嗅覚を通して警察すら見逃す事件の解決に一役も二役も買いスクープをものにするというテレビ局TBNの報道局社会部の遊軍記者&同看板番組「ニュース・イレブン」の専属記者である主人公・布施京一がある事件を追い、完結する物語。


今回は六本木での若い女性の失踪と1年前に起こって未解決の女子学生猟奇殺人事件との関連を追って活躍する布施の姿が描かれています。


が、相変わらず著者による登場人物の描写が説明的に繰り返されているのに違和感があり、しかも魅力的とする肝心の人物自体の内部の掘り下げがなくまわりの評価止まりというパターンなので、主人公に共感を持てずじまいのまま。


物語自体も作話的であまり魅力が感じられなかった残念な作品。


人物造形に定評のある著者の作品ではやはり「隠匿シリーズ」の竜崎の魅力が抜きん出ているためこれを超える作品を生み出すのは並大抵ではないのは想像に難くありません。


多作を生み出される著者なので当たり外れもあるのはある程度仕方ないとは思いますが、筆がすべっているような印象を受けた作品で、自分としては★2つ^_^;

3・11がまた巡ってきました。38e3577f.jpg


新聞でもテレビでもにわかに報道が増えましたが、どんな報道を見ても復興までの道のりはこれからも長く続くという感を新たにするばかり。


奥様と長女、次女の3人を津波に飲み込まれた会社員の悲嘆の声が新聞に載っていました。

周囲のみんなが復興へと動いている中、家族を失ったという思いに止まって前に進めない様子を語っていらして胸が締めつけられました。


前向きに前向きにと言い聞かせても喪失の悲しみから逃れられない人たちのことを思うと切なさでいっぱいになります。


谷川俊太郎氏の「そのあと」という詩が胸に迫ってきます。

そのあとがある
大切なひとを失ったあと
すべて終わったと知ったあとにも
終わらないそのあとがある

そのあとは一筋に
霧の中へ消えている
そのあとは限りなく
青くひろがっている
そのあとがある
世界に
そして
ひとりひとりの心に


今は目に見えない霧の中でも、その人に合った時が経過して青く広がった世界を見る日が来ることを祈っています。




さて本日は田辺聖子氏著『お手紙下さい』のアップです。


「『口では本音言うたらあかんけど、することは本音のしたいこと、したらよろしねん』(「お手紙下さい」より)。
男女の心の機微をあまさず描いた、名作5篇を収録した傑作短篇集。
小説を読む喜び、至福の時間をあなたに」



ずっと昔読んだ記憶のある恋愛に関する短篇を集めたものですが、巻末に「あとがきにかえて」と題する著者の物語作りに関するスタンスがインタビューで述べられています。


それによると「『恋愛を書かないと小説家じゃない』という気が私はするの・・・
小説は『たとえば、こんな会話をしたら話が弾みませんか?』という一つの問題提起ですからね・・・
読んでいる人の気持ちを明るいほうへ動かすことができたら、それは立派な小説の効用」と記していらっしゃいます。



本書には年代に幅を持たせた5つの恋愛物語が、登場人物のだれかに関西弁をしゃべらせることでもたらすゆったりしたペーソス感のある内容に仕上がっていて、見事なお聖さんワールドになっています。



著者の恋愛小説は恋愛の暗部をえぐるような粘着質とは縁遠い、さっぱり系といいましょうか、女性の主人公がそもそも依存性の薄い男性的な女性が多く、修羅場もなんだか喜劇的に仕立てるあたり、同性側からみて好もしく共感が持てるんですよね。



会社の同期の恋愛を描いた「週末の鬱金香」での好もしく思っているのに天の邪鬼と気の強さが邪魔をして思いとは真反対の表現しかできない女性の精一杯の強がりの何といじらしくかわいいこと!



シクラメンを窓に飾っている主人公の元へ、突然訪れてくる初老の男性との味わいの深い慎ましい恋物語を描いた「篝火草の窓」もすてきでした。

山坂の人生を歩んできた大人の男女でしか味わうことのできない淡やかでありながら芳醇な関係を描いて、さすがお聖さん!

「人間がまともになるのは六十すぎてからや。
まとも とは人情の諸訳がわかること。
達人という言い方は嫌いやけど、六十になったら、どんなことも世の中にはあり得る、ということを悟る。
それが わかるのん 六十すぎてからや」

別れを迎えても「『今までようやったねぇ』と言い合える相手が『どこかで生きている』そう思うだけでありがたい」と思える2人になるには、それなりの人生の長さが必要なのでしょうね。


味わい深い大人の恋愛物語です。

時期的に春霞…といいたいところですが、ここしばらくの当地は話題の中国で発生したPM2.5や黄砂が大気に溶け込み有害な大気エアロゾルとなって飛散しているような暗雲立ち込めた空模様。


吸い込むと気管や肺胞へ吸収されて気管支炎やぜんそく、肺がんなどを引き起こす可能性があり市販の高機能マスクでも除去できないそうですが、無駄と知りながらマスクせずにはいられない、そんな感じです。


そんな天候が影響しているのかどうか、このところ不調が続いていて今日は一日家でゴロゴロしていました。


そのゴロゴロに格好のお供を先日図書館で借りてきていたので一日で読みきってしまいました。


いや~、まさにエンタメ小説の権化!!


夜寝る前しか読まない私には珍しい昼間からのノンストップの一気読み・・・体調不良をいいことに食事作り以外はず~とソファに寝転んで読了!



池井戸潤氏著『ロスジェネの逆襲』


待ちに待った『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』に続く半沢シリーズ第3弾!


「ときは2004年。
銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。
そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。
アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。
ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。
責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。
胸のすくエンタテイメント企業小説」


銀行上層部に反感を買おうがお構いなく、自分の将来がかかった人事もなんのその、与えられた仕事に全力を尽くす半沢直樹の姿はサラリーマンの希望の星といっても過言ではないでしょう。


タイトルのロスジェネとはロストジェネレーションの略で、バブル世代の後1994年から2004年の就職氷河期に社会人になった世代。



今回の舞台はバブル世代の異端児ともいえる主人公・半沢直樹が親会社・東京中央銀行から飛ばされた証券子会社・東京セントラル証券、ロスジェネ代表の子会社の部下・森山とともに親会社からの様々な嫌がらせや圧力に立ち向かって熱い戦いを繰り広げ、最後は勝利を勝ち取るという勧善懲悪の物語。


元三菱銀行マンの著者の描く銀行物語だけに今回登場する証券会社も実在の三菱証券と予測すればおもしろさも倍になって。。


ちなみに私事ですが、ウチの次男がロスジェネ世代、おまけに某証券会社にいるものでおもしろさが倍加されました~。


親会社の銀行と子会社の証券会社の格差といい、子会社で働く社員並びに親会社からの出向社員の格差にいいしれぬ悲哀が感じられるだけに、ラストの落とし方には胸がすきます。


本書で扱われているのは企業買収という案件ですが、敵対する企業の株を取得するための秘策や買収を通してのアドバイザー契約が巨額な利益につながる云々など、主婦にとっては不必要な知識ではありますが、興味深い経済のカラクリの情報がふんだんでした。


「やられたら倍返し」が信条の半沢に今回も成功に導く貴重な情報が簡単に集まることの意図的な不自然さはさておいて、熱き半沢にまいりました!



最後に半沢語録を挙げて終わりにします。

「正しいことを正しいといえること。
世の中の常識と組織の常識を一致させること・・・
ひたむきで誠実に働いたものがきちんと評価される、そんな当たり前のことさえ、いまの組織はできていない」

「仕事は客のためにするもんだ。
ひいては世の中のためにする。
その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。
自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく」

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