
サラリーマンには転勤が付きものですが、我が家もこれまで日本各地に移動を繰り返してきました。
現在は私の故郷である岡山に住んでいますが、当地で事業を展開していた亡父の会社の1つに定年前後に求められて来たのが下地になっています。
それまでも独り暮らしの母を案じて神戸や東京から月一の割合で帰省する習慣でしたが、次男が大学進学を機に夫と合流して当地で生活し始めて9年ほど。
30数年離れていた故郷に舞い戻った計算になります。
処女のごと固き蕾の刻を経て悪女となりて薔薇は散りゆく
その間母を見送るという大きな責任を果たして3年、現在は夫がフルタイムではない役職に就いて時折出勤する以外自由気ままな夫婦の暮らしです。
9年の間には趣味で親しくなった友人たちも増え、昔からの気の置けない幼馴染もいて、同じく都会からUターンした友人たち共々第二の青春を謳歌しています。
今日ご紹介するのは先日父親の介護で熊本とカリフォルニアを行き来しながらの奮闘記『父の生きる』を上梓された伊藤比呂美氏の新聞紙上での人生相談をまとめた作品です。
ネッ友である紫苑さんに教えていただいてamazonで購入しました。
私が転勤先の神戸で電話の相談員のボランティアをしていたことは以前にも書きましたが、10数年の相談員としての経験が本書とリンクして懐かしく読みました。
といっても私が相談員として受けたコーラーの方々のほとんどの内容は生きることの根源に迫る重く苦しいテーマが多かったので、比呂美氏のように単純明快な回答をコーラーに繋ぐということはできませんでしたが、人生相談もこのような前向きで明るく、しかもエネルギーのある回答はとても微笑ましく共感が持てました。

「たくさんの恋、何回もの結婚そして離婚、何人もの子育て…。
現在カリフォルニア在住。修羅場をかいくぐった詩人、伊藤比呂美が答える笑って元気になれる人生相談!
『石橋は叩く前に走って渡れ』『悩むのは3日先まで』等の名言とともに、恋、子育て、仕事、人生選択等の悩みに全身で取り組みます(元は新聞連載)。
文庫版付録として、著者自身の悩みQ&Aを書き下ろした」
詩人の著者らしく自ら作詞された「万事OK節」というテーマソングも痛快です。
不倫に、離婚に、セックスレスに
いじめ、しゅうとめ、借金苦
最後は 介護で、苦労のしどおし
人の悩みは つきないけれど
それでも生きてる ワタシです
さ、ずぼらとがさつとぐーたらで
わが道をいきましょう
西日本新聞の人生相談コーナー「比呂美の万事OK」に掲載された42本のQ&Aを一冊にまとめたのが本書です。
第1章 恋―本当に好きなのに
第2章 結婚―咳をしても二人
第3章 人生―人生のプリマになる
第4章 仕事―ぢっと手をみる
第5章 子育て―親も人の子
第6章 性格―変人ノススメ
私の相談員としての経験からいくとどの回答も直截的でノウハウ的にはかなり破天荒!
でもこの比呂美流回答、好きです!
長年の相談員時代、研修に継ぐ研修で叩き込まれていた「コーラーに先んじて進むべき道を示してはならない」という鉄則がありますが、さまざまな相談では相手の言葉を待ち続けることの難しさに突き当たることがしばしばでした。
示唆も誘導もご法度の1対1の会話でよき道を示したいという欲求に駆られたことが数え切れないほどあります。
本書での比呂美氏はまず相談者のすべてを受け入れる・・・この受け入れ方も彼女流にダイナミック・・・まるで傷ついた小鳥を両手で抱きしめて暖める感じ。
そしてやおら比呂美氏の人生経験からほとばしる後悔や満足を踏まえて、時には辛らつに、時には共感を持って進むべき道を提示するというもの。
私はこういうシンプルで直截的かつ親切な受け答えが大好きです。
「母親ほどの責任はないけれど、友か姉か叔母の立場で対面している気持ち」
なるほど。
「冷静に納得行くまで話し合うこと」
「人ではなく私自身の人生を生きる」
本書の回答を流れる一貫性をシンプルに表現すれば、上述のようになると思います。
比呂美氏はとにかくどんな人間関係の摩擦の悩みにも「納得いくまで話し合うこと」というのを第一義にしています。
彼女自身そうやって2度の離婚と結婚、子育てを乗り切ってきたのだろうな。
どんな相談者の相談事にしっかりと向き合い(人生相談欄なので当たり前といえば当たり前なんですけど)、相談者に敬意を払って真剣に取り組んでいます(これは当たり前ではないと思うんですけど)
「うう、あたしはあなたの手をとって、いっしょに泣きたいくらい。これまでほんとによくがんばってきました」
「がんばれがんばれがんばれがんばれと、あなたに、100回言ってあげたい。大丈夫だよ大丈夫だよ大丈夫だよと、がんばれを上回る110回言ってあげたい」