VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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2017年05月

ジュディ・オングさんの版画展に行ってきました。


私の好みの透明水彩でラフな線使いで素敵な風景画を描かれる先生が当地のカルチャーセンターで講師をされるというので、友人に引っ張られるようにして入会して1年半。


怠け者の生徒で、熱心に追求しようという意気込みがないまま半年毎の更新を3回。


その間さまざまな水彩画や油彩画展を観に行って、イメージだけは膨らんでいるものの、まだ色づけも思ったようにできない落ちこぼれ生徒です。


そんなこんなで、今日も友人たちに誘われて版画展に。


ジュディ・オング倩玉木版画の世界展

「涼庭忘夏」2008年第40回日展入選

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「紅桜以緑」2005年第37回日展特選


初期から最新作まで77点・・・日展では14回の入選、2005年には特選を受賞するなど、輝かしい実績を残されているという・・・。


とにかく圧倒されてしまいました。

絵を観てこんなに疲れたのは久しぶり。


水彩でも難しそうな、幾重にも射しこむ光の強弱、微妙な影の濃淡、茂った樹木の枝葉の間からの木洩れ日・・・大作の隅々まで手を抜かずに仕上げた力作の数々。


ラフなデッサンから水彩、そして彫り、刷る、というたくさんの工程を経て生まれた作品。


その精巧さに驚くばかりでした。

天は二物も三物もひとりの人に与えるのね、、、と僻みながら帰途につきました~。






さて本日は原田マハ氏著『総理の夫』をご紹介したいと思います。


「20XX年、相馬凛子は42歳にして第111代総理大臣に選出された。
夫である私・日和は鳥類研究家でありながらファースト・レディならぬファースト・ジェントルマンとして、妻を支えようと決意する。
凛子は美貌、誠実で正義感にあふれ、率直な物言いも共感を呼んで支持率ばつぐん。
だが税制、エネルギー、子育てなど、国民目線で女性にやさしい政策には、政財界の古くさいおじさん連中からやっかみの嵐。
凛子が党首を務める直進党は議席を少数しか有せず、他党と連立を組んでいたのだが、政界のライバルたちはその隙をつき、思わぬ裏切りを画策し、こともあろうに日和へもその触手を伸ばしてきた。
大荒れにして権謀術数うずまく国会で、凛子の理想は実現するのか?
山本周五郎賞作家が贈る政界エンターテインメント&夫婦愛の物語」



鳥類研究所勤務、東大卒、大金持ちの次男坊の・日和。

方や直進党党首・凜子は政策シンクタンク勤務を経て衆議院議員に当選後初の女性総理大臣、ついでに超美人。

今は亡き著名な小説家の父と大学教授国際政治学者だった母を持つ家柄。


この絵に描いたような夫と妻の物語が夫の日記という形式で語られています。



原田マハ氏といえば、キュレーターという経歴を存分に生かしたアートの世界を描いた作品を次々生み出し、どれも評価を受けている作家さん。

アートだけでなくさまざまな分野に作品の幅を広げていますが、やはり面白いのは美術の世界を描いたもの。


本書はそんな中でも異色の世界を描いた作品といえるでしょうが、読後感を先にいえば、とても楽しく読めました。

というのもマハ氏の軽妙なるユーモアがいたるところに散りばめられていて、ユーモア小説の誕生と見紛うほど。


初の女性総理・相馬凛子の夫・日和の日記の設定がまずそこはかとなく可笑しい。

男らしさを狙った文体のなんともわざとらしさに思わず笑ってしまいます。


この2人のほかに小沢一郎を彷彿とさせる政界の黒幕・原久郎の造形もかなり笑えます。


こうして書いてみると主人公の凛子のモデルは小池百合子?


政党内の思惑で手を握った原久郎と相馬凛子・・ただ消費税引き上げという一点のみの一致で。


このように構成の核になるテーマはとても興味深いものだったので、途中からの切り込みが浅く、日記の内容もどんどん日和見化してしまい、尻すぼみ的なラストになったところがやや残念でした。


社会派エンターテイメント作品として軽く読むにはお勧めです。

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以前歌会のメンバーの方が提出された歌にこんなのがありました。

抽斗に見つけし肩揉み券今もまだ使へるだらうか子の帰省待つ  
後神千代子


80歳のこの方の息子さんは想像するに40歳は超えられているのでは。


笑いを誘う微笑ましい短歌ですが、子育てをされた方ならどなたも経験があるのではないでしょうか。



母の日や誕生日に子どもたちからプレゼントされた「肩たたき券」や「お皿洗い券」などなど。


子どもたちが小さい頃のお金で買えないこんな手作りの券や野の花の花束は私の思い出の中の大切な宝物となっています。



今は中学生の父となった長男も幼い頃同様な券をプレゼントしてくれた記憶がありますが、特に思い出すのは、新聞の宝石が載ったチラシを探してはどれがほしいか選んでと私に迫り、それをハサミで切り取っては 「大きくなったら買ってあげるね・・・今はこれをあげる」と。


今すでに40歳半ば・・・・・いままで買ってくれるチャンスはたくさんあったと思うのだけど。。


まだ遅くないよ・・・ダイヤモンドにしようかな ルビーにしようかな・・・。


母は待っています。







さて今日は陽信孝氏著『八重子のハミング』をご紹介します。 


「思いもよらなかった夫婦の同時発病。
夫は胃がんが発見され摘出手術。
その直後、妻にアルツハイマー病の兆候が見え始めた―。
その後、夫は三度のがん手術から生還する一方で、妻の症状には改善の兆しが見られなかった。
自らも迫り来る死の影に怯むことなく闘病、そして献身的に妻の介護を重ねる日々…。“三十一文字のラブレター”短歌約八十首を詠み、綴った、四千日余に及んだ老老介護の軌跡。
『現代の智恵子抄』とも評された話題の単行本、待望の文庫化。
二〇〇二年末に他界した愛妻を偲んだ『終章』を補記」


現在全国で上映中ということでご存知の方も多いと思います。


『陽はまた 昇る』『半落ち』の佐々部清監督が著者の陽氏と同郷という縁で、原作に惚れこみ、ご自身で資金を集めて作られた「自主的映画」が評判を呼んで全国に広がったそうです。


いつしかに訪れきたる妻の日々われに厳しきアルツハイマー

幾度もわれの帰りをたたずみて待つ妻の背に雪は積もれり

ぬいぐるみ逆さに抱きて得意げに共に歌えと我にねだれり

紙おむつ 上げ下げをする 度ごとに 妻は怒りで われをたたけり

小尿を 流しし床を 拭くわれの 後ろで歌う 妻に涙す

幼な子に かえりし妻の まなざしは 想いで連れて 我にそそげり


ご自身の胃がん発覚とほぼ同時期に現れた妻の若年性アルツハイマーの兆候。

徐々に進行していった病と共に歩んだ11年間の介護の記録。

著者は萩の中学校の校長から教育長を歴任された方。

妻の介護のため道半ばで退職され、どこへ行くにも妻と共に、講演にも妻帯して出かけられていました。

本書ではその11年に及ぶ介護中の悲惨さと共に心温まるエピソードも記していらっしゃいます。

元音楽教師だった妻が最後まで忘れず楽しんだハミング・・・著者の講演中、状況がわからない妻がそばで歌を歌っているのに合わせて会場中が唱和し大合唱になった話。

温泉地で男湯と女湯に分かれている大浴場を諦めて部屋付きのバスに入れようと決心した著者に事情を察したおかみが大浴場に一時「清掃中」の札をかけてくれて二人で入浴できた話。


外聞を考えて密かに家のうちだけで介護していたら決して味わえない人情に触れることができて、明日への生きる糧とすることができたのです。


ただいままっしぐらの高齢化社会での誰にでも起こりうること・・・介護される側になるか、介護する側になるか、また2人を囲む家族となるか・・・。


本書に登場する介護する側の夫である著者の深い愛に裏打ちされた弛まない日々の努力にはただただ敬服するばかりですが、彼らを補助する娘さんたち一家の優しさにも深く胸を打たれました。 


他人事ではないと思われる方、一度手にとっていただければと思います。

さみどりの葉陰に生(あ)れしうすべにのもみぢの翼果いのち育む



この日曜日、UAEから横浜にお里帰りされていたブロ友のHさんが私に会いに当地に来てくださいました。

前回のときは私の体調不良でお会いできなかったので今回を首を長くして待っていました。


駅直結のホテルのロビーでドキドキしながら待ち合わせ。

お互い初めてお会いするのでわかるかな、と心配していたのは杞憂でした。

何だか感無量(^.^)


私よりちょうど10歳若いHさんは想像通りのすてきな方でした。


何年かのブログでの交流や私的なメッセージを通してお互いの人となりを少しわかったかな、という感じでしたが、お会いした瞬間から垣根はすぐ外れて、あとはとめどないおしゃべりで一日があっという間に過ぎて・・・気づいたらお別れの時間になっていました。


共通の趣味の本のこと、水彩画のこと、UAEでの暮らしのこと・・・。


おしゃべりの合間にランチをしたり、後楽園を散策したり、そして遅い夕食のあとお別れ。


そして私の大切な友人のひとりとなりました。


Hさん、来てくださってほんとうにありがとう!!





さて本日は篠田節子氏著『ミストレス』をご紹介したいと思います。 


「睡魔と闘いながら聴いたコンサートの最中、舞台上に現れた"いるはずのない女" 。
厳粛な悲しみをたたえて演奏する姿に男は魅了され ……(「ミストレス」)
女がもっとも嫌う女に、男はなぜ引きつけられる?(「やまね」)
異国の地で思いがけない再会は、現実なのか? それとも幻なのか?(「ライフガード」)
従軍記者気取りで紛争地に入った男が十二年ぶりに帰国。
面やつれした妻は以前と変わらぬ態度で出迎えてくれたが…(「宮木」)
アルコール依存症治療のために参加した農作業の会。
そこで彼が出会った"中年天使"の正体は(「紅い蕎麦の実」)
見慣れた世界が反転する、男女の性と心理の不可思議を生々しく、あるいは幻想的に描き出す問題作」


「5編のうち4編は『小説宝石』の官能特集に寄稿したもの」という著者の紹介文が記されていましたが、官能小説というよりホラー的要素が濃い作品でした。


5篇に登場する主人公の男性はその身勝手な行動や感情ゆえ、女性に翻弄されるという筋立て。

反対に身勝手な男たちに献身していると見せかけながら静かにしたたかに復讐する女たち。

いつの世も同じような構図が繰り広げられている気がします。


どの短篇も核になるのは男女の交わりですが、あくまでも現実と異界の境目が曖昧な世界を描いて・・・篠田氏ならではの作品となっています。


表題作の「ミストレス」とは「愛人」の意のほかに、ここではコンサートマスター(管弦楽団の第一バイオリンの首席奏者で時に指揮者の代理を務める)の女性版を指すそうです。


いずれも現実にはありえない幻の事象や人に翻弄され、知らず知らず異界に足を踏み入れてしまったような危うい感覚を描いて秀逸ですが、オカルティックな内容の苦手な私にはちょっと重い作品でした。


よかったらどうぞ。

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急に夏のような気温になりましたね。

歩いているとうっすら汗ばんできます。

写真は散歩中見つけた母子草の群生、近くのお家の低い塀の上に咲いていました。

ゴギョウと呼ばれる春の七草の中のひとつ。

現在の草餅はヨモギで作られますが、平安時代までは母子草が原料だったそうです。


また咳止めや利尿作用があるといわれて漢方の生薬としても用いられている薬草。


今は木々の若葉のさまざまな緑がとてもやわらかく美しく生まれたての赤ちゃんのようです。

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さて本日は真山仁氏著『売国』のレビューです。

「特捜部に赴任した気鋭の検察官・冨永真一。
宇宙開発の最前線に飛び込んだ若き女性研究者・八反田遥。
ある汚職事件と友の失踪がつなぐ二人の運命。
正義とは何か?
国益とは何か?
超弩級の謀略小説」

次男に紹介してもらった経済小説『ハゲタカ』がとてもおもしろかったので、その後著者の作品は何作か読んでいます。




『ハゲタカ』 
『プライド』 
『雨に泣いてる』 

経済小説を軸に『雨に泣いてる』では東日本大震災をテーマに、また別の著書では農薬と食の問題を取り上げたり、と社会派小説家として地位を確立されています。

本書は2014年に作家生活10周年記念として刊行した超弩級の謀略小説。

社会派小説の名に恥じず、本書もまた大きなテーマに取り組んだ問題作となっています。


一見接点が見えないような東京地検特捜部と宇宙開発という二つのテーマ。

宇宙開発計画をめぐり政治家、官僚がアメリカ合衆国の傀儡となり暗躍する中でロケット開発技術者まで巻き込まれるという壮大なストーリー。

主人公は新進気鋭の検察官・冨永真一と宇宙開発に挑む若き女性研究者・八反田遙。

本書はこの二人の視点から交互に描かれています。

この交わりようのない二つの物語がどんどん広がりを見せます。

正義とは何か?
国益とは何か?
希望とは何か?


精緻な描写と骨太のストーリーに私を含め読者はきっとページを繰る手を止められなかったはずですが・・・

こんなに風呂敷を広げたら収集が付かないだろうと危ぶまれるなか、突然オチを用意され何とも慌しくラストになった、という感じ。


著者は本書を通してもわかるように、失われつつあるわが国の正義というものに切り込みを入れて、反対勢力を炙り出す、ということに取り組んでおられる作家さんです。

本書も惜しむらくはラストの尻すぼみを避けるためにも思い切って二本立ての別作品に仕上げたら成功していたのでは。


次作を期待する作家さんです。

買い物がてら歩いているとこぼれ種が飛んできたのかあちこちにポピーが咲いています。

当地の南に位置する笠岡のベイファームの1000万本のポピーももうすぐ盛りを迎えるそうです。



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世界中で愛されている花。

フランス語からコクリコ(coquelicot)
スペイン語からアマポーラ(amapola)
英語からポピー(poppy)
中国語から虞美人草

古代中国の項羽と劉邦の最後の戦いのとき、項羽と彼の寵愛する虞妃が劉邦の大軍に包囲され、項羽は出撃して倒れ、残された虞妃も殉死という悲劇の結末を迎え、葬られた虞妃のお墓に赤い花が咲いたことから付いたといわれる虞美人草。

花言葉は恋の予感、いたわり、思いやり、忍耐、妄想、豊饒など。


日本ではひなげし。

若き日のアグネス・チャンさんが可愛く歌っていましたね。


ああ皐月(さつき)仏蘭西の野は火の色す君もコクリコわれもコクリコ   
与謝野晶子

昨日君がありしところにいまは赤く鏡にうつり虞美人草(ひげなし)のさく
   北原白秋           

ひなげしのあかき五月(さつき)にせめてわれ君刺し殺し死ぬるべかりき
                                         北原白秋



五月野に初夏の光の満ちみちて見渡すかぎりひなげしの花

アマポーラ、コクリコ、ポピー、グビジンソウ 今日のあなたは「ひなげし」が似合う





東直子氏著『とりつくしま』


「死んだあなたに、「とりつくしま係」が問いかける。
この世に未練はありませんか。
あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ、と。
そうして母は息子のロージンバッグに、娘は母の補聴器に、夫は妻の日記になった…。
すでに失われた人生が凝縮してフラッシュバックのように現れ、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る、珠玉の短篇小説集」


1963年広島県生まれの歌人・作家
歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』『東直子集』『十階』など
2006年『長崎くんの指』(文庫『水銀灯が消えるまで』)で小説デビューし、以後、『とりつくしま』『さようなら窓』『ゆずゆずり』『薬屋のタバ
サ』『らいほうさんの場所』『晴れ女の耳』ほか多数
1996年歌壇賞
2016年『いとの森の家』で坪田譲治文学賞受賞
2009年よりNHK短歌選者
2011年より歌壇賞選者
2014年より角川短歌賞選考委員
2015年早稲田大学文学学術院文化構想学部教授
2016年より東京新聞歌壇選者


歌壇では若い世代を牽引する歌人として穂村弘氏などとともに有名な方ですが、小説やエッセイの分野でもマルチな才能を発揮していらっしゃいます。


ちなみに東氏の短歌をひとつ

一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ね」と思った 非常階段
   東直子
                      


さて本書に移ります。

私にとってはとても個性的と思える歌を詠まれる歌人、本書でもそんなユニークな発想が生きた作品といえるでしょう。


2011年に刊行された本書ですが、最近じわじわと文庫ランキングの上位に入り始めているそうです。


理由はさだかではありませんが、生きていく上で避けられない「死」というものをテーマにしていながら、ほんわりとした内容になっているからかもしれません。

それに収められた11篇の短篇が一呼吸置くのにほどよい長さで読み継げるからというのもあるかも。


11篇はそれぞれ別の物語ですが、ただひとり共通して登場するのが、「とりつくしま係」という謎の存在。

神様とも天使ともちがうような・・・。

現世に思いを残して死んでしまった人が送られるという「とりつくしま係」。

そして現世への思いが残っている間、現世に存在するものにとりつかせてくれるという。

死んでしまったあと、モノになって大切な人に再び会うことができる。


ある母親は息子の中学最後の野球の試合を見届けたいと願って、ピッチャーの息子がマウンドで手にするロージンバックに。

幼くして亡くなった男の子はいつもママと行っていた公園のジャングルジムになって。

母の補聴器になった娘や、妻が綴る日記になった夫、孫のために購入したカメラになった祖母・・・。

永劫、生きている人とは交われない死をテーマに、去りゆく人と遺された人のさまざまな架け橋を描いた物語。


喪失の悲しみを通して小さな幸せを描こうとした著者の企みが多くの読者に受け入れられている作品。

でも、私は死後「とりつくしま係」に機会を与えられても、ぜったいとりつきたくない、一度だけでも辛い別れなのに・・・・これ以上はいいです。

連休に思いがけず娘と次男とコハルが帰省してきました。

娘の帰省は直前に連絡があったので駅まで迎えに行ったら、後ろから大きなバッグを提げた次男が・・・。

車に乗り込んでも夫はわからず・・・

「今日はコハルは置いてきたのかな? ペットホテル?」


あまりにおとなしいので顔を見るまでわからなかったようでした。


バッグから顔を出したコハルの可愛かったこと。

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久しぶりの我が家でこの前より活動範囲も広がってリラックスしていました。

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さて本日は萩原浩氏著『海の見える理髪店』をご紹介したいと思います。


「主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる『海の見える理髪店』
意識を押しつける画家の母から必死に逃れて十六年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く『いつか来た道』
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発、子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める『遠くから来た手紙』
親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す『空は今日もスカイ』
父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる『時のない時計』
数年前に中学生の娘が急逝、悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する『成人式』

伝えられなかった言葉。
忘れられない後悔。
もしも「あの時」に戻ることができたら…。
母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集」


2012〜2015年の『小説すばる』に掲載された短編6篇。


第155回直木賞受賞作。



「オーソドックスな短篇集と言っていい。しっかりと鮮やかな切り口を覗きこめば、人々の営みの底に、闇のようなものが見えてきたりする。肩肘の張った描写でないところが、この作者らしいとも感じた」(選考委員・北方謙三氏)

「熟練の手で紡がれる物語はどれも少しあざとく、予定調和的ではあるが、私たちのさりげない日常は、こうして切り取られることによって初めて「人生」になるのだと気づかされる。これぞ小説の一つの典型ではあるだろう」(選考委員・高村薫氏)

「すべての候補作を読んで、作品の世界、文章が一番安定していた。荻原さんのおだやかな語り口は才覚と言うより、途絶えることなく書き続けた作家だけが手にする鍛錬がなした技量だと思う。おだやかでいて鋭い。まさにプロの文体である。再投票で選考委員満票の受賞であった」(選考委員・伊集院静氏)

「どの作品にも、確実なディテールに支えられた安定感がある。その安定感は、読書の喜びへと通じるものだ」(選考委員・桐野夏生氏)

「さすがベテランらしく、文章力、構成力、すべてがいきとどいている。しかし私としては、いささかもの足りない思いがあった。荻原さんなら、このレベルのものはいくらでも書けるだろう」(選考委員・林真理子氏)


これが直木賞?

自分としては林真理子氏の選評がいちばんぴったりという読後感でした。


とはいえ、表題作の「海の見える理髪店」はしっとりと切ない余韻の残るいい作品でした。

もうすぐ結婚式を予定しているグラフィックデザイナーの「僕」が海辺の小さな町の理髪店を訪れるところから物語が始まります。

その理髪店には看板もなく店の横には古びたブランコが置いてあるだけ。

ドアにかかっている営業中の札がなければ入ることも躊躇するような店。

70過ぎの店主がひとりで切り盛りしている小さな小さな理髪店。

海の見える大きな鏡の前に座ると店主は問わず語りにここに店を構えるまでの半生を青年に向かって語ります。


東京の店を父親から引き継ぎ、結婚し、離婚し、再婚し、銀座に二店目を出すまでに繁盛させるが、ふとしたはずみに独立を画策した職人をヘアアイロンで殴って殺害してしまったこと。

傷害致死で実刑判決を受け、服役中に迷惑をかけられないからと、妻と別れたこと。

出所後は店を今の場所へと移して15年になること。

そんな話をしながら、鏡には海のみが映るようになっている理由を語ります。

「私の顔など、誰も覚えていないと思いつつ、いつか誰かに『お前は人殺しだろう』と指をさされるのが恐ろしくて」


そのあとからラストにかけてのあらすじは、きっとみなさんがご想像される通りとは思いますが、ここでは書きません。

興味ある方は本書をどうぞ!

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