VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

PVアクセスランキング にほんブログ村

2019年04月

ff99b82c.jpg

言葉で輪郭をなぞらないとそれが存在することすらわからないのだけれど、言葉にしてしまうと何かを逸してしまった気がする。
何かが零れ落ちたような、あるいは逆に何か余計なものを抱え込んだような。
いつも過少か過剰。
そんな不均衡というかちぐはぐが、言葉と感情のあいだにはある。 
(田村隆一氏『ぼくの人生案内』より)


言葉ってほんとうに難しい。

これでもかと言葉に多くを託しても感情との間にある距離はなかなか埋まらない・・・。

言葉を発した当人ですら言葉と感情の乖離を感じるのに、そこにその言葉を受け取る人の感情が存在することでよけいに言葉は変質してしまう気がします。


こうしてみると過不足なく伝える言葉を構築するということは神業と思えてしまいます。


自分ではかなり言葉には用心深いと思ってはいますが、傷つけてしまった人がいるかもしれないと思うとなんだか臆病になってしまいます。

自分自身はささやかなブログや短歌などで自分の気持ちの一部を発信していますが、そんなツールも持たず、社会の片隅で誠実に生の営みを続けている人たちのそれぞれの経験を通して発する一言に射抜かれることがときにあります。

余分なものを持たない飾りのない言葉にはやはり重みがあります。


歌を詠むことを習慣としている今の自分はなるべく飾りや美辞麗句、心地よく輝いている言葉をはずして素朴な歌をと心がけてはいるのですが、・・・過剰に光らせたいという邪心がときどき顔をのぞかせて・・・反省しきりの日々。


どんなに工夫したって過少か過剰になってしまう言葉。


〈沈黙は金なり〉はしみじみと名言だなぁと思います。







さて本日は深町秋生氏著『卑怯者の流儀』をご紹介します。 


「警視庁組対四課に所属する米沢英利に「女を捜して欲しい」とヤクザの若頭補佐が頼み込んできた。
米沢は受け取った札束をポケットに入れ、夜の街へと繰り出す。
“悪い”捜査官のもとに飛び込んでくる数々の“黒い”依頼。
解決のためには、組長を脅し、ソープ・キャバクラに足繁く通い、チンンピラをスタンガンで失神させ、時に仲間であるはずの警察官への暴力も厭わない。
罪と正義の狭間で、たったひとりの捜査が始まった」


本書の主人公は警視庁組対四課のベテラン刑事・米沢英利。


酒好き女好き博打好き金好きとこの世の欲望を総なめする絵に描いたような悪徳刑事が活躍する6篇の連作短篇集。


そんな問題行動満載の米沢刑事ですが、そのベールに包まれた過去が明らかになるにつれ、徐々に人情味が醸し出されて憎めなくなってしまうというキャラ。

著者の人物造形が巧みです。


その悪徳刑事を真ん中に配置しての脇役固めもなかなかのもの。


かつての後輩で現在の上司にあたる〈関取〉こと大関芳子警視とのかけあいがなんとも見事。

組織犯罪対策課第四課女性管理官という肩書きの大関芳子、女子プロレスラー顔負けの堂々たる体格ではみだし刑事米沢を文字通りのプロレス技で羽交い絞めにするのが見どころ。


加えて米沢の失墜を虎視眈々と狙っている人事一課のゴーストこと奈良本京香監察官などなど。


魑魅魍魎の警察内部の刑事同士の裏切りや腹の探りあい、陰湿な駆け引きなど、ずっこけコミカルハードボイルドというテイストで描かれた警察小説。


黒川博行氏の「疫病神」シリーズの主人公たちとはまた違った味を楽しめます。

続編を期待しています。

子どもたちによる自殺があとをたちませんね。

日本全体の自殺者数は減っているそうですが、小中高生ではあまり減っていないという統計。


いじめをきっかけに命を絶つというケースがほとんどということですが、これほどさまざまな媒体で問題提起されてもなくならない・・・加害者の側からすると冗談の延長のような感じで言葉を発したり、叩くなどの行為を繰り返すということを罪悪感なしでやっているのでしょうか。


いまは昔と違ってたくさんの開かれた相談窓口もあるし、スクールカウンセラーも在籍している学校もあります。


周りの大人もいじめに敏感です。


それに現場である学校からエスケープするという選択肢だってあるのに・・・。


周りの大人は逃げるという選択肢もあることをぜひ提示してほしいと切に思います。



我が家は転勤族だったので子どもたちは転校を繰り返していました。



転校先の新しい学校に最初に登校したときは、その学校の制服やかばんなどの持ち物も間に合わず、前の学校の制服のままのこともあり、そんな些細なことでもいじめの対象になった、とずっとあとになって娘から言われたことがあります。



のんきな親であった私はそんな苦境にも気づかず、すぐに馴染んでよかったと思ったほどに子どもたちの態度に変化はなく、私はただ根拠もなく転校慣れしているわが子の強さを信じていたのでした。



鮮明に覚えているのは中学3年で転校した初日に娘に起こったこと。


慣れない娘を案じたのか担任になった先生が同じクラスの女子を世話係につけてくれたそうです。


転校初日の放課後、突然数人の女子中学生に囲まれた娘。


ソックスの丈が短すぎるとか長すぎるとか、些細ないいがかりをつけられ・・・


睨み返して動じなかった娘の後ろで世話係の女の子があまりの怖さに失神、騒ぎを聞きつけて駆けつけた女の先生に救急車を呼ぶよう指示したのにうろたえてしまった先生に向かって「はやく、はやく!」と語気強く言ったという娘。


この顛末は娘からではなく担任の先生から聞いたのでした。


「たいした娘さんです」


一応誉め言葉と受け取りましたけど(ーー;)


たしかにいじめを跳ね返すほどには強かったということは認めます。


今ではサラリーマンとして仕事での心の折れそうなことも山ほど経験してやさしさが加味されたかな。


娘よ、あなたは強くてやさしい・・・ちょっとほめすぎ??



この特性を活かして仕事の傍ら、昨年産業カウンセラーの資格を取った娘、悩める人たちの役に立てたらいいなぁと陰ながらエールを送っています。



子どもはよほどのことがないかぎり、自分の辛さや弱さを親に見せない・・・随分たってから学んだことです・・・遅かりし。


自分の子ども時代を振り返ってもそうだったなぁと思います。





b022843b.jpg
萩原慎一郎氏著『滑走路』


「いじめ、非正規雇用・・・・・逆境に負けず・・・
それでも生きる希望を歌い続けた歌人がいた。
32 歳で命を絶った若き歌人の絶唱を収めた短歌集。

『ピュアな言葉に思う。短歌は彼の濾過装置。自在な表現に思う。短歌は彼の翼。真っすぐに心を射抜く短歌が、ここにある。 俵万智』

32歳、若き歌人が遺した至極の295首を収めた第1歌集」


一昨年32歳という若さで自死という道を選んだ著者。

生きるよすがにしていた第一歌集である本書の刊行を待たずに。

2017年6月8日死亡。

2017年12月26日歌集『滑走路』刊行。

5月には本のタイトルや表紙、構成、出版社まで自ら決めてKADOKAWA編集部に送り出していたといいます。


17歳の時、偶然近所の書店にサイン会で来ていた俵万智に触発され、短歌を作り、様々なコンクールに応募し始め死ぬ間際までおびただしい歌を詠み続けていた著者。


新聞歌壇や短歌賞を冠するNHKや角川、現代歌人協会などさまざまな媒体に応募、多くの賞を受賞されているので短歌をしている私たちの間では著名な若者でした。


私が萩原慎一郎氏を〈見た〉最初は彼が平成27年度第17回NHK全国短歌大会で特選(馬場あき子選)に選ばれて壇上のひな壇に座っていたとき。


短歌を始めて1年過ぎた私が手始めにNHK全国短歌大会に応募して三枝昂之選で佳作をもらったのを機に、一度行ってみようと観客の1人として観客席から観覧したとき。


そのときの歌・・・

一人ではないのだ そんな気がしたら大丈夫だよ弁当を食む

ああ、この青年が萩原慎一郎さん!と認識した瞬間でした。


その2年後、今度は私が岡井隆選で特選に選ばれた1首をもってNHKの舞台に上がっていた平成28年度第18回NHK全国短歌大会。


そのとき第4回近藤芳美賞選者賞(岡井隆選)「プラトンの書」を受賞された彼が客席の前列に座られていたのを舞台上から拝見・・・それが彼を見た2度目でした。


近藤芳美賞ではその3年前平成25年度第15回NHK全国短歌大会第1回近藤芳美賞でも選者賞 (岡井隆選)「滑走路」を受賞されています。



今回第一歌集のタイトルはこの 『滑走路』から採ったもの。

「今いるところから少しでも高く飛び立ちたい」

そんな思いが込められているといいます。


さて本書はNHKニュースウオッチ9で「“非正規”歌人が残したもの」として紹介されたり、NHK「クローズアップ現代+」で特集を組まれたり、朝日新聞、毎日新聞、日経で紹介されたりしたこともあってか、歌集としては異例の7刷!25000部というベストセラーになっているそうです。


先日通っている図書館の棚で見つけたのもそれを物語っているようでした。



厳しい受験を勝ち抜いて入学した武蔵中学。


だれでも知っている有名な中高一貫進学校です。


希望を持って入った野球部で監督から怒鳴られておどおどする萩原さんの様子を数人の部員に見られたことがきっかけで、差別的な言葉を投げられたり、持ち物にいたずらされたり、友達との仲を引き裂かれたり、執拗ないじめが始まったそうです。


地獄のような中高時代をすごし高校2年で出会った短歌を心の友にやっと卒業。


その後はいじめの後遺症によるうつ状態で入院や通院をしながら早稲田大学の通信制を卒業し、書店のアルバイトや研究機関の事務の契約社員など非正規雇用で働きながら短歌の創作を続けていました。


非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ

もう少し待ってみようか曇天が過ぎ去ってゆく時を信じて

抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ

夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから

頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく

シュレッダーのごみ捨てにゆく シュレッダーの ごみは誰かが捨てねばならず

コピー用紙補充しながらこのままで 終わるわけにはいかぬ人生

消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなってゆくのだ

今日も雑務で明日も雑務だろうけど 朝になったら出かけてゆくよ

非正規の友よ、負けるな僕はただ 書類の整理ばかりしている


打ち砕かれそうになりながら理不尽な現状を受け入れたり、未来に心を奮い立たせたり・・・。

 
実らなかった恋の歌もあります。

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

作業室にてふたりなり 仕事とは関係のない話がしたい

かっこよくなりたい きみに愛されるようになりたい だから歌詠む



もっともっとご紹介したい歌はたくさんありますが、興味ある方は手にとって読んでください。


最後に著者のお母さんの手記から少し転記を。

「『やはり辛い。
普通だったら結婚とか、子どもとか言う年齢だよ。
新卒の人たちが研修中で皆で昼食をとっていたり、赤ちゃんが生まれて連れてきた人を見て落ち込んじゃった』
私が『これから歌集も出るし、楽しみがいっぱいあるじゃない。
賞も取るんでしょ。
慎ちゃんは頑張っているよ。
これから良いことがいっぱいあるよ』
と話し合うと『そうだね、ありがとう』と落ち着く感じだった」


あらゆる悲劇咀嚼しながら生きてきた いつかしあわせになると信じて

今日はトイレのお話を少し。


日本ほどシャワートイレが普及している国は世界の文明国を見渡しても見当たらないといいます。


清潔好きの日本人の気質ゆえか、シャワートイレを使いだすと海外のトイレ事情に耐えられず、ハンディシャワートイレ持参で海外に行くという人もいるそうです。


我が家は夫が電機メーカーに勤務していたということもあって一般家庭より随分早くシャワートイレを使っていました。


シャワートイレというのはINAXの商標で正式には温水洗浄便座。


日本で初めて温水洗浄便座が売り出されたのは1980年、いまから40年ほど前、TOTOが売り出したウォッシュレットだといいます。


あれよあれよという間に広がり、いまではホテルや百貨店はもちろん、さまざまな公共施設にも設置されています。



その間機器自体もどんどん進化して、便蓋や便座を人感センサーで自動開閉する機能がついて便座の前に立つと自動的に蓋が開き、立ち去ると自動的に閉まったり、座ったとたん音が流れたり・・・クラシック音楽が流れるものまであるようですね。


そこまで必要?と思うこともしばしば。


そんな本体の進化にともなって水を流す装置にもさまざまなものが登場。


用をたして立ち上がった瞬間、なにもしないのに水が流れるという優れものもあります。



一方、どんなに探しても水を流すレバーが見つからなかったことってありませんか?

私は過去に1度。


具体的な場所は忘れましたが、狭い空間で探せど探せど見つからず・・・うろたえた末やっとタンクの側面についている小さなセンサーを見つけたときにはほっとして力が抜けた思い出があります。



さて先日、私と同じような経験を書いたエッセイを深夜に読んでいて抱腹絶倒、思わず布団を被って笑いまくり(^.^)


佐藤愛子氏著『九十歳。何がめでたい』 

「待望の単行本がついに発売。実にめでたい!
大正12年生まれ、今年93歳になる佐藤さんは2014年、長い作家生活の集大成として『晩鐘』を書き上げました。
その時のインタビューでこう語っています。
「書くべきことは書きつくして、もう空っぽになりました。
作家としての私は、これで幕が下りたんです」(「女性セブン」2015年2月5日号より)
その一度は下ろした幕を再び上げて始まった連載『九十歳。何がめでたい』は、「暴れ猪」佐藤節が全開。
92年間生きて来た佐藤さんだからからこそ書ける緩急織り交ぜた文章は、人生をたくましく生きるための箴言も詰まっていて、大笑いした後に深い余韻が残ります。
ぜひ日本最高峰の名エッセイをご堪能ください」


本書が爆発的に売れてからすでに3年・・・ちょっと流行遅れの感ありですが、許されたし。

愛子ちゃん、現在96歳。


作家生活の集大成としての『晩鐘』を最後に作家生活に終止符を打つという断筆宣言されていた著者でしたが、いざ隠居生活に入ると日常にすることも思い浮かばず、半ば蟄居の退屈の中で老いと向かい合っていた・・・そんなとき編集者の執筆依頼の熱意に負けて半ばヤケクソで快諾されたという経緯。


タイトルには著者のヤケクソ感が籠もっているという・・・


2015年~2016年までの1年間『女性セブン』に連載されたエッセイに加筆修正されたのが本書だそうです。


私が長い間慣れ親しんでいた愛子節いまも健在!


自分の身体に次々に起こる「故障」を嘆き、時代の「進歩」を怒り、新聞のお悩み相談を見ては、悩める人たちを著者流の目線で切り込みながら、回答者のやさしさに感心したり・・・


猪突猛進の性癖ゆえに次々身辺に起こる艱難辛苦にも、その乗り越え方にも常人の域を超えた行動ありで大いに笑えます・・・著者のその一生懸命さが妙に笑いを誘い、そしてじんわり。


愛子ちゃんのお人柄がまっすぐ伝わってきて読者の私の心まで温かくなる本。


前述の抱腹絶倒の箇所はといえば・・・

三越でのトイレでの失敗談・・・未読の方はぜひ読んでくださればと思います。

d468a7ab.jpg

ずっと以前、次男が2歳くらいのころ、自宅の2階で小さな私塾を開いていたことがあります。


どういういきさつでそうなったか、今となっては忘れてしまいましたが、頼まれて5人の中学生を一グループとしての英語塾をスタート。


転勤族の家族の倣いとして定まった勤めはできなかったので、家で某通信教育の英語の添削をすると同時に某出版社の英語学習参考書&問題集の作成や校正をしていて英語漬けの日々を送っていたころの延長。



塾の教材はほとんど手作り・・・その当時持っていた英文ワープロで独自の単語帳や問題を作り、私が作成して世に出していた問題集などを教材にして、かなり真面目に取り組んでいました。



月謝を払って託してくださる親御さんに対してや、生徒自身にはまず成績を上げることで前向きな自信をつける、という目標を自分に課してかなりスパルタな内容。


具体的に細かな毎日の宿題を出して、英文の暗記、暗誦を取り入れて・・・。


クリスマスには知り合いのアメリカ人の会話講師を招いてパーティをしたり、ハードだけではないソフト面も充実させようとがんばった成果が反映されてか、ほとんどの生徒が英語に関してはクラスで1,2番の成績を確保するようになりました。


その後転勤の辞令が出て転居するまでの5年間で徐々に生徒が増えに増えて、5人グループが5つ、ほぼ毎日という主婦にとってはタイトなスケジュールとなっていました。


夫の勤務地への同行を迷いに迷いましたが、末っ子のことを考えて塾をやめてついて行く決心をしました。


自分を信頼してくれて在籍してくれていた生徒たちを他の塾にお願いして・・・生徒たちと悲しい別れをしました。


時を経て、教え子たちは大学生になり、社会人になり、そして家族を持ち・・・折々の便りで知ると、当時の一生懸命の自分が思い出されて切なくなります。




さて本日はそんな塾の思い出に繋がる作品。


森絵都氏著『みかづき』 

「2017年本屋大賞第2位。
王様のブランチ ブックアワード2016大賞受賞。

『私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです』
昭和36年、人生を教えることに捧げた塾教師たちの物語が始まる。
胸を打つ確かな感動。
著者5年ぶり、渾身の大長編。

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。
女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。
ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。
驚嘆&絶賛の声、続々! 昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編」


「唸る。目を閉じる。そういえば、あの時代の日本人は、本当に一途だった」
(阿川佐和子氏)

「圧倒された。この小説にはすべてがある」
(北上次郎氏)

「月の光に浮かび上がる理想と現実。真の教育を巡る人間模様に魅せられた」
(中江有里氏)




うららかな春に誘われて昨日も周辺を散歩しながら、塾と名のつく所を数えてみました。


40分ほどの散歩の間に6つ。


多いのか少ないのかわかりませんが、少子化の時代、けっこう多いなと思いました。


本書に登場する千明と吾郎、そして一郎。


それぞれの塾というものを通しての教育への思い入れは三様であり、どれもそれぞれ正論と思えます。


一般的な塾は「教育」の中でも「知力」に重きを置いたものという認識がありますが、昨今の子どもたちのさまざまなありよう・・・いじめ問題、登校拒否、引きこもりなどを通して「知力」という点のみに重点を置いては補うことのできない子どもたちの心のケアを扱う塾も増えつつあるのが現状・・・私がやっていた塾の時代とはかなり様変わりした多様化の波に揺られているような気がします。


本書は昭和36年、小学校の用務員だった大島吾郎が児童の母親である赤坂千明から誘われて塾の共同経営者となり夫婦となって塾を営んでいく半世紀にわたる家族三代の物語。


この物語の主人公たちも目まぐるしく変化する社会の呼応して徐々に受動的な詰め込み教育からゆとり教育へと転換していく文部省の政策に翻弄されていく様子が描かれています。



夫婦とはいえ、塾に対するスタンスの違いから対立する千明と吾郎。


吾郎の塾の概念はあくまで学校の授業の補習的役割、千明は進学という着地点。


「知力」を養うということに関して強い信念を持つ千明の言葉・・・

「十分な知識さえ与えておけば、いつかまた物騒な時代が訪れたときも、何が義で何が不義なのか、子供たちは自分の頭で判断することができる」



それらのお互いの考え方の違いとともに2人の間で育った娘たちとの間に生れた齟齬など多角的に織り込みながら物語が進んでいきます。



最後の方に出てくる孫の一郎の言葉は現代に生きればこその重さでしんと胸に食い込みます。

「教育は、子どもをコントロールするためにあるんじゃない。不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力を授けるためにあるんだ」
 

猪突猛進で一時期、子どもたちの「知力」に重きを置いていた私も長い歳月を経て一郎の言葉の重要性をしっかり受け取れる今になっています。


加えて不条理な社会に立ち向かうだけではなく、逃げることもできる勇気と、さまざまな道があるのだという俯瞰力を持った力を授けたい・・・どうすればよいかは暗中模索ですが。


物語の構築の仕方がうまいなぁとしみじみ思った作品でした。

ca11ea85.jpg

タレントの堀ちえみさん。


アイドル時代には関心もなく出演ドラマを観たこともありませんでしたが、舌がん公表のニュースをネットで見てからときどき彼女のブログを訪れるようになりました。


夫が部位は異なりますが、6年前口腔内の歯骨に出来たがんを患った経験から、手術の経緯やあとのリハビリなどの困難さに思いを馳せて他人事とは思えなくなったのでした。


随分前向きで頑張り屋さん・・・考え方もしっかりしていて地に足が着いている・・・


こんな表現をしていいのかわかりませんが、華やかなタレントさんとは思えない・・・好感が持てて、日一日と快癒に向かっているのがわがことのように嬉しく応援していました。


ところが、今度は食道がん!@@!


しかも転移ではない別個のがん。


まるで夫と同じ・・・夫は胃がん→食道がん→口腔内がんという順番でしたが。


夫もそれぞれ転移ではない別個のがん・・・あとの2つが扁平上皮がん。


やはりがん体質というのがあるのでしょうか。



いまや2人に1人という確率で罹患するといわれているがん。


これを書いている私も明日のことはわかりませんが、私の周りの親しくしている友人たち・・・15人ほどの中にいまのところ1人だけ。


夫がすべての荷を負ってくれたような・・・そんなキリストのような人柄とは正反対ですけどね。


なにはともあれ、内視鏡で済むという堀ちえみさんの手術。


どうか表層だけに留まっていてくれているおとなしいがんでありますように。






さて今回は本城雅人氏著『代理人』のご紹介です。 


「敏腕代理人の裏の顔は、スキャンダル仕置人!?
選手(クライアント)の不祥事は、ヤツに任せろ。
金にこだわる姿勢から、メディアに「ゼニバ」と揶揄されるスポーツ代理人・善場圭一だが、手腕はピカイチ。
契約選手の全打席・全投球をチェックして球団との交渉に臨み、有利な条件を勝ち取っていく。そんな彼の頭脳は、様々なトラブルを引き寄せる。
暴行、女性問題、違法な賭け事etc.…
タフでクレバーな男は、いかにして問題を解決するのか!?
2017年度吉川英治文学新人賞受賞作家にして、球界の内幕を知り尽くした元新聞記者だから描ける傑作ミステリー、ここに誕生!」



元プロ野球選手にして引退後弁護士になった善場圭一ことゼニバの敏腕代理人としての活躍を描いた6篇の連作短篇集。


サンケイスポーツの記者として20年のキャリアを持つ著者のもっとも得意とする分野ープロ野球を支える人々の中から今回ピックアップしたのは球団と選手の間の交渉を一手に引き受けるネゴシエーターという職種。


「産経新聞の留学制度でニューヨークに1年半くらいいたとき、大学で代理人の授業を取りました。
そのあと日本に帰ってきたら、球界再編の問題が起きていて、選手が交渉を第三者に委託する方法を認めてほしいと主張していた。
すごく知識が広がったというか、リアルタイムで情報が入ってきたわけですよね・・・
(代理人制度というのは)アメリカ的であって、あまり日本には根づかないという感覚もあるんですけどね。
ただ、最近は賭博であったり、球界でいろいろとあるじゃないですか。
教育係というかお目付け役というか相談役というか、球界と選手の間にもう1人立つことで、選手が迷ったときに孤独から解放されるんじゃないかと思います」


こういった経過を経て、著者の頭の中にはタフでルールに厳格、そして野球界の裏も表も知り尽くした主人公が構築されたといいます。


◆第一話 標的の表裏

人気プロ野球選手・谷上が強姦容疑で逮捕された。
彼のマネージメントを担当する会社の女社長から、無実を証明して欲しいと要請された善場は!?


◆第二話 モンティホールの罠

善場が担当する久宝投手に故障が再発した。
所属球団は「リハビリを善場に任せたのが原因」と怒り、彼を訴えようとしているらしいのだが……


◆第三話 鼓動の悲鳴

入団2年目の投手が自殺し、寮長の暴力が原因と報じられた。
選手時代から寮長を慕っていた善場は違和感を覚える――。


◆第四話 禁断の恋

善場が担当するスラッガー・永淵亘輝の弟で、育成選手の光が逮捕された。
兄の代理で、善場が警察に駆けつけると……


◆第五話 秘密の金庫

スポーツキャスターの新海尊伸が参院選に立候補した。
現役時代の彼は、善場が代理人として初めて担当した選手だった。


◆第六話 サタンの代償

手塚幸人は、投手コーチから突然「今日おまえは登板できない」と告げられる。
酔って後輩に暴行を働いたと疑われているらしい……                      (実業之日本社のデータベースより)


現役野球選手の起こした女性問題や賭博、また選手につきものである怪我など、契約のネックになるさまざまな要因の裏に隠された真実を掘り出すというミステリ仕立てになっていて野球ファンである読者もそうでない読者も楽しめる作品となっています。


今が旬の作家さん・・・一度お試しあれ。

69e73bd4.jpg

先日遠出した和気のギャラリー兼お蕎麦屋さんでお蕎麦を食べながら、目の前に広がる畑を見ていると・・・


一隅にある樹木に小さな巣箱がかかっていました。


五百円玉ほどの丸い小さな穴があり、そこから忙しなくシジュウカラが出たり入ったり。


頬のあたりに白い斑紋。


喉から尾のほうにかけて黒い縦線があって、オスのほうがメスより太い、と歌会で教えてもらったけど、出入りしているのがどちらかわからない・・・



ギャラリーのオーナーによるとメスが抱卵し始めてもう一週間ほどになるということなので、餌を運んでいるのはオスだろうと想像。


抱卵期間は約2週間くらいだそう。


孵化してから16日~19日くらいで巣立つ雛。



巣立つといってもシジュウカラは巣立ち後2~4週間ほどは親鳥とともに「家族群」を作る習性があるそうです。


その後、方々の巣立ち雛たちが群を作り生活を共にしながら、春の訪れと共にそれぞれにパートナーを作って、雛を育てて・・・


自然の巡りのなかで一年を周期として黙々と営みを繋げていく・・・自然界の神秘には驚くばかりです。





さて本日は垣谷美雨氏著『子育てはもう卒業します』のレビューです。 


「息子を憧れの学校に入れるため必死なお受験ママの淳子、「堅実な職業に就いて」と娘の就活に口を出す明美、勘当同然で押し切った結婚を後悔する紫。
十代で出会った三人は故郷を離れてから数十年、様々な悩みを語り合ってきた。
就職、結婚、出産、嫁姑問題、実家との確執、子供の進路……。
時に、ふと思う。"私の人生、このまま終わるの?"
誰かのために生きてきた女性たちの新たな出発を描く成長物語」


地方から東京の大学に進学して出会った3人の女性の現在までをそれぞれの語りで描いた物語。



地方出身ということがネックになり社会に羽ばたくという夢は潰えたものの結婚という選択でなんとか東京に残って主婦として奮闘する主人公たち。


語り手が交替で変わるもののドラマ仕立てのような読みやすいエンタメ小説。


フランス人のしがない語学教師を夫に選んだばかりに九州の由緒ある旧家の父から勘当された紫。

そんな状況の突破口に、幼くして売れっ子のモデルとなった一人娘が稼いで建てた家をテレビで放映することによって父親の勘当を解こうとしたもののそんな努力も空しくますますの怒りを買ってしまい、稼ぎの少ないヒモ状態の夫をもてあまして鬱々とした日々を送っています。



3人のうちの淳子は息子2人を大学付属の中学校へ入れるための学費を浮かせる苦肉の策で夫の実家に同居し、口うるさい姑と小姑からの抑圧に耐え忍ぶ日々。



最後の明美は文系出身の自分の就職時の苦労を踏まえて、一人娘に看護学校への進学を勧めますが反発のみが返ってきて不本意な毎日。




3人のそれぞれの悩みは傍からみれば取るに足らないものと思えますが、当人にとっては立ちはだかる大きな壁のようなもの・・・経験あるあるという感じ。



個人的には夫の家族と同居しながら、2人の息子のために一致団結して落としどころにうまく収めた淳子の家庭が、ほのぼのとして理想的に思えました。

核家族ゆえのないものねだりかもしれませんが。


物語は3人が今までの生き様を込めて「子育て反省会」と称して集うところで終っています。



怒涛の子育ては終ってしまえば反省点山盛りですが、そのときそのときで精一杯の気持ちを込めて対峙してきたもの。


子どもも未熟なら若い母も未熟。


子どもたちに面と向かって謝ったことはありませんが、許されたし。

↑このページのトップヘ