長男作成の大量のCDが夫宛てに送られてきました。
先ごろわたしが頼んで作ってもらった世界の著名なピアニストによる〈ラ・カンパネラ〉のCDをみた夫が羨ましがって、長男に頼んでいたもの。
在宅中はずっとCDを流し続けている大の音楽好きの夫。
持っているレコードやCDジャケットの数も半端ないのですが、一枚のうちには夫的に★5つのもあれば★1つのもあるという。
できれば★5つのものを集めて聴きたいという欲の深さ。
ということで事前に夫がピックアップして送ったリストに合わせて長男が作成してくれたのがこれ。
80分CDが全部で18枚!@@!
クラシックありジャズありラテンありポップスありオペラあり民族音楽あり・・・要するに洋楽なんでもありのてんこ盛り。
結婚以来耳たこ状態で聴かされていた曲ばかり。
子どもたちも然り。
長男は編集しながら、聴きながら成長した折々を思い出して懐かしかったようです。
夫が大喜びしたのはいうまでもありません。
「擦り切れた愛。暴力の気配。果てのない仕事。そして、新たな恋。ままならない結婚生活に救いを求めてもがく男と女―。芥川賞から15年。危険で圧倒的な金原ひとみの最新長編」(「BOOK」データベースより)
著者について・・・
1983年東京生まれ
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞&第130回芥川賞受賞
2010年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞受賞
2012年パリへ移住
2012年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
2018年帰国
『蛇にピアス』というセンセーショナルなタイトル及び内容で、綿矢りさ氏の『蹴りたい背中』とともに第130回芥川賞を同時受賞されたことでも有名・・・ともに20歳という若さ。
ちなみに著者の父親は翻訳家・児童文学研究家・法政大学社会学部教授である金原瑞人氏。
岡山市出身です。
さて本書について・・・
タイトルの「アタラクシア」・・・聞きなれない単語なので調べてみました。
三省堂の大辞林によれば、古代ギリシャの哲学者エピクロスの統べる学派が幸福の必須条件として主張したもので、「幸福は快楽になるが、外的なものにとらわれず欲望を否定した内的な平静こそが最大の快楽である」というもの。
「他のものに乱されない平静な心の状態」だそうです。
本書の主な登場人物は6名。
由衣・・・元モデルで一時パリに住んでいたとき瑛人と知り合う。
瑛人・・・パリで修行ののち、東京で友人とともにフランス料理店を経営。由衣と不倫中。
英美・・・瑛人の店で働くパティシエ。そりが合わない母親、浮気性の夫、暴力的な息子と暮らし、心に爆弾を抱えている。
桂・・・由衣の夫。盗作疑惑が流れて以来、スランプに陥って書けなくなった作家。由衣に変質的に執着している。
真奈美・・・由衣の友人の編集者。アルコール依存症である作曲家の夫のDVに怯えながらストレスを浮気で晴らしている一児の母親。
枝里・・・由衣の妹で援助交際中。
6人が6人とも内面に歪なものを抱え息苦しくなるような閉塞的な日常を営んでいるという設定。
誰もがアタラクシアを求めて人間関係を構築しようとしていながら、流れは逆行していくというもの。
外見的には平穏を保っているかに見える人々の内面の歪みをこれでもかと炙り出す著者の手法には舌を巻いてしまう。
一歩踏み外せば奈落に落ちそうな危ういほど細い糸の上を微妙なバランスを取りながら生きている様子の描き方が上手い作家さんです。
登場人物のだれの生き方にも共感できない、けれどその危うさから目を離せない・・・そんな作品でした。
ラストに至るまでも危うい不均衡に収まりがつかないという感じを受けるのに、著者はそれでも飽き足らないのか、最終章で更に驚きの展開を用意しています。
「私も結婚して15年くらい。一緒にいればいるほどわかりあえなさが見えてくる。わからないのだとあきらめてしまえば、スムーズにまわっていく。
かといって、すごく共鳴する人との関係は互いに背負いすぎてつぶれがち・・・
最近はぶつかり合いや摩擦が随分減ったなあと感じます」
朝日新聞2019年6月12日版に上記の一文を掲載した著者。
自らの結婚生活に言及していらっしゃいます。
余談ですが、わたしの平平凡凡な結婚生活はこんな感じ。
あまたなる妥協・諦念・忖度を積みて共棲む歳月のあり
興味ある方はどうぞ。