梅まっさかり

わたしが少女だったとき、周りの大人たちは世の中の出来事をほとんど

把握していて、困りごとの解決法や昔からのしきたりや作法などに

精通していると勝手に思い込んでいました。

 

ある年齢になって改めて周りを見回すと・・・

あれほど大人にみえた母も姉も自分とほとんど変わらない

ということに驚きました。

 

そして・・・現在、子どもたちを筆頭に若い人々から

さまざまなことを聞かれてもさっぱり答えられない自分がいて驚くばかり。

 

知っていることのあまりの少なさに唖然としてしまう。

 

「大人」が手をさしのべる?

ちょっと待ってくれ。

大人とは誰だ。

 

上記は中島らも氏のエッセー集『砂をつかんで立ち上がれ』の一文。

 

朝日新聞の「折々のことば」で紹介されていたもの。

 

人というのは、迷い、挫け、おろおろしたあげく、

「生きるというその路上において、たった一人で

ぽつんと立ちつくしている子ども」のようなものだという。

 

だから「大人」なんて存在しない。

 

「大人」とは、その「迷い子」が何をまちがえたか、

「愚鈍と忘却と教条」でみずからを弄んだ末のその「なれの果て」

でしかない・・・と続きます。

 

たしかに・・・自分を顧みてもいっぱしの〈大人〉という鋳型に嵌めるには

あまりにも稚拙という感じがして気恥ずかしくなってしまう・・・

 

中島らも氏の戸惑う気持ちがよく理解できます。

 

1984年朝日新聞に連載されていたらも氏の「明るい悩み相談室」を通して

ファンになったらも氏の生き方に興味があって、
作品を読み漁っていた時期があります。

 

本質的には繊細な男の子、過保護に育てられたお坊ちゃまを絵に描いたような・・・
尼崎の歯科医のぼんぼん、名門・灘中学に
150人中8位の好成績で合格したのは有名な話。


灘高時代になるとバンド活動、シンナー、アルコール、鎮静剤、睡眠薬、大麻などに
耽溺、急降下の成績の末お情けで卒業。


ヒッピー、フーテンなどの名をほしいままの生活の中、大阪芸大に入学し卒業と同時に
高校時代ジャズ喫茶で知り合った美代子夫人と結婚、

長男、長女の父親となります。

よく父親になったものだなぁと思ってしまう。

 

縁故入社した会社の社員として数年働いた末、コピーライターとなったあとの
破滅的生活については『バンド・オブ・ザ・ナイト』に詳しいですが、
らも氏死後美代子夫人による『
らも―中島らもとの三十五年』にも書かれています。

 


さて、らも氏について書き出すと劇団『リリパット・アーミー』時代のわかぎゑふとの
恋愛など、とめどなくなりそうなのでこの辺で本日ご紹介のレビューに移ります。

 

あふれる家

中島さなえ氏著『あふれる家』
 

中島らもを父にもつ著者が、はじめて自身の破天荒でファンキーな「家」を舞台に、世にも奇妙な小4の夏休みを描いた書き下ろし自伝的長編(「BOOK」データベースより)

 

稲葉家は、父さんと母さんと明日実の3人家族だけど、

家にはいつも人があふれている。

誰とも知らない人があふれた部屋で両親がどこで寝ているのかもわからない。でもそれが普通だと思っている。

 

わたしは小学校に上がるまで、どこの家も満員御礼で暮らしているのだと疑っていなかった。

しかし、周りの人に話を聞いたり、テレビ番組を観たりしているうち、

どうもうちは他と違って風変わりなのかもしれないと
段々気がついてきた。
他の人の家では、よく知らない大人たちに交じって、

父さんと母さんがどこに寝ているかわからない、

などということはないのだと。

 

本書は稲葉家のひとり娘である小学4年生の明日実のひとり語りで綴られた
自伝的小説となっています。

 

もうすぐ夏休みになるというのに、父さんはいつもの放浪の旅で行方知れず、
母さん事故で足を骨折し入院してしまいます。

「ユタとハルねえがいないあいだ、明日実ちゃんをどうするのか」

「ユタ」は父さん、「ハルねえ」は母さんのニックネーム。

稲葉家に何かが起こったときは、その場にいる人たちで解決するのが
稲葉家のルールだという

バンドマンのトキオ、薬剤師のアキちゃん、自動車整備工場員のモリモさん、
考古学者の天堂さん、見知らぬ外国人たち・・・

稲葉家をたまり場として集まっているこれら風変わりな大人たちのなかで
逞しく、想像力豊かな少女に育っていく明日実のひと夏の物語。

小説としてデフォルメされているとはいえ、一時期のらも家もきっとこんなだったんだろうな、
と想像できてなんとなく切なくなってしまう。

2004年に亡くなったらも。

はしご酒の末飲食店の階段から落ちて全身と頭部を強打、脳挫傷により死亡。

らもらしい最後と思えばやはり切ない。

享年52歳、早すぎる死ではありますが、あらゆることをなにものにも縛られず、
奔放に経験してきっと本望だったと勝手に思っています。

ひとり娘・中島さなえ氏の作品のレビューがあらぬ方向へ飛んでしまいましたけど、
今日はこれにて失礼します。

 

興味ある方、らも、美代子、さなえ氏のそれぞれの作品を
手に取っていただければ、と思います。