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カテゴリ: 北森鴻

霊感商法、悪徳商法、開運商法・・・いろんな呼び名がありますが、先日も30代の女性がテレビで信じられない被害状況を涙ながらに訴えていらっしゃいました。



ガンを患った彼女が不安の毎日を送っていたときチラシで見たガンが完治したという記事にすがる思いで相手の言うがままにお金を払い、貯金が底をつくとクレジットカードで借金することを示唆され次々借金を重ねたというもの。



一見して何の変哲もないブレスレッドや数珠が運気がアップする特別なものとして、「これによって救われました」などの実例&顔写真付きのチラシをよく見かけますが、こんなのに騙される人がいるのかと驚くばかりの私ですが、家族はテレビなどで悪徳商法被害などのニュースが流れる度に必ず私にリンクして注意を促します。



今回も来るだろうなと思っていたら・・・果たして「お前ならすぐ信じそうだ」と夫。



過去に騙された経験があれば同じ過ちを繰り返さないように注意するというのはわかりますけど全くそのような経験もなく新興宗教にのめり込んで多額の奉納金を納めたこともないのに(-_-;)



夫を代表する家族の論理はどうやら「世の中、お母さんが考えているほど甘いモンちゃうで。お母さんのように真っ向から人を信じたらいつかは手ひどい目にあうはず」というものらしいですけど、信じた人に手ひどい裏切りを受けたこともなく、これでも人間関係は比較的良好の人生を送っているつもりです。



決して世の中甘いものだと思ってはいないんですけど、周りからみたら危なっかしいのでしょうか。



海千山千渦巻く男会社で働く娘は私のことを「世間知らずの箱入り」と指摘します。




それだけ厚い箱で守られているということなんでしょうけど私としては逆に家族を守っている感があるんですけどね。






さて本日は北森鴻氏著『螢坂』をご紹介したいと思います。



東京・三軒茶屋にひっそりと佇むバー『香菜里屋』のマスターが探偵役のシリーズ第3弾。


『花の下にて春死なむ』、『桜宵』、『螢坂』、そして『香菜里屋を知っていますか』を最後にシリーズは終わりを告げ、そしてそして産みの親・北森氏も48歳という若さで一昨年旅立たれてしまいました。


「『この街で、オレを待ってくれる人はもう誰もいない』戦場カメラマンを目指すため、恋人・奈津実と別れた螢坂。
16年ぶりに戻ってきた有坂祐二は、その近くのビアバー『香菜里屋』に立ち寄ったことで、奈津実の秘められた思いを知ることになる(表題作)。
マスター・工藤が、客にまつわる謎を解き明かす第3弾」


極上に美味しい料理と心からくつろげる雰囲気。



東京・東急田園都市線の三軒茶屋駅から路地を縫うように歩くこと5分あまり、等身大の提灯のぼってりした明かりが目印のビアバー「香菜里屋」、焼き杉造りのドアを抜けるとせいぜい10人が座れる程度のL字型カウンターと小さなテーブルが2つ、カウンターの中ではヨークシャーテリアの刺繍のついたワインレッドのエプロンをしたマスターが待っている店。



シリーズも4冊読むと目を閉じていても「香菜里屋」の内部を思い浮かべることができるし、マスター・工藤の作る極上の創作料理の匂いまで嗅げるような錯覚に陥ります。



北森氏の作品には他にいくつかのシリーズものがありますが、「香菜里屋」シリーズの大ファンだったので著者の死によってもう永遠に続編を目にすることができない寂しさをかみしめています。



このブログでも4作品取り上げていますのでよかったら読んでください。


北森作品のレビューはこちら



さて本書に戻ります。


本書には以下の5篇の短篇が収録されています。


「螢坂」「猫に恩返し」「雪待人」「双貌」「狐拳」


こうしてみるとマスター・工藤の供する心憎い酒肴の数々と同じくらい粋でステキなネーミング!




◆戦場カメラマンを目指し恋人・奈津実と別れ海外へ行っていた有坂が16年ぶりに訪れた思い出の三軒茶屋。
ふと立ち寄った香菜里屋での偶然の恋人の友人との出会いで今は亡き恋人の切ない決意を知った驚きを描いた表題作「螢坂」

恋人との別れの場だった公園に蛍が乱舞していたと話す有坂の言葉を手がかりに今回もマスター・工藤の推理が冴えています。


◆因業な親父が経営する焼き鳥屋・鳥安で漏れ聞いた迷い猫・ゴン太の話を自ら発行している小さなタウン誌に書いたジャーナリスト・仲河の元に突然舞い込んだゴン太の顕彰碑建設のための募金依頼に嵌められた感を強くした仲河でしたが、展開に次ぐ展開で物語は思いがけない方向に着地、鳥安と香菜里屋の微妙な人間関係のからみが生きている「猫に恩返し」


◆9年前三軒茶屋の駅前商店街の開発計画に最後まで反対して立ち退きを拒否した画材店・立原美昌堂の1人娘のために人生を狂わされたとするかつての商店主・南原の耳に飛び込んできた立原美昌堂閉店のうわさ。

憤る南原を前に工藤の推理が冴えるばかりか今まで謎に包まれていた工藤の私生活の一端がほんの少しだけ見え隠れする「雪待人」



他2篇も独特の情緒が流れる作品に仕上がっています。



最後に作品中に出てくる酒肴を少しピックアップしてみましょう。



夏野菜・根菜を千切りにして脂が多めのベーコンの細切りとともにさっと炒め、スープストックで仕上げた沢煮椀に似た一品を最高度数のロックスタイルビールで!


赤ワインと醤油を香草と一緒に煮詰め、焦がしネギにショウガを少々、隠し味に蜂蜜を入れたタレに包丁目を入れて油で揚げた手羽先を提供する直前に焙り、仕上げに粒胡椒を軽くまぶした一品。


殻付き牡蠣をワイン蒸しした上に熱したピーナツオイルとともに刻んだ鷹の爪を散らした一品。
賽の目切りにしたトマトと素揚げした海老とイカを実山椒のソースで和えたひと皿。


挙句は欧米で一般的なファストフードであるフィッシュ&チップスも工藤の手にかかれば味わい深い酒肴となるんですね…それぞれを生ハムで包んで揚げたフィッシュ&チップス。


きりがないのでこの辺でやめておきます。


酒も肴も申し分ないけれど、それよりも人の気持ちを柔らかくほぐしてくれる、そんな香菜里屋に行ってみたかったです、叶えられない望みですけど

北森鴻氏が48歳という若さで亡くなられましたね。

死因は心不全。


そういえば江川問題で話題になった小林繁氏の死因も心不全。


小林氏はずっと肝臓が悪かったそうですがほとんどの人の最期は心不全ということでしょうか。



北森氏は好きな作家の1人で、このブログでも数冊ご紹介していますが、もう新しい作品に接することができないと思うととても残念です。

         http://yaplog.jp/ashy_ashy/category_54/


作品の幅がとても広く、旗師・宇佐見陶子を主人公にした「冬狐堂」シリーズや、異端の民俗学者・蓮丈那智の活躍を書くシリーズ、ビアバーのマスター・工藤がミステリーに挑む「香菜里屋」シリーズなど、古美術や民族学などに対する造詣の深さは半端ではなくそれが作品に独特の深みを与えていて、シリーズ毎に熱狂的なファンが多いと聞きます。



その中でも私のお気に入りは「香菜里屋」シリーズ。


「東急田園都市線三軒茶屋駅前の商店街のアーケードをくぐって、通りを一本はずした細い路地。
道が行き詰る手前の左側に白い縦長の等身大の提灯に大らかに描かれた「香菜里屋」の屋号。
焼き杉造りのドアを開けると10人ほどが座れるL字型のカウンターと2人用の小卓が2脚。
『いらっしゃいませ』とカウンターから出迎えるのは ヨークシャーテリアが人間になったような風貌のマスター。
4種類のアルコール度数の違うビールとマスターおまかせの極上の酒の肴の数々、行き届いたサービス、そしてマスターの絶妙な謎解き」


作品上でもシリーズ4作を最後に香菜里屋が閉店してしまったのはとても残念で、ファンの間ではまたの再開店を望んでいた人も多かったと思いますが、それも叶わぬ夢となってしまいました。


架空の店でこんなに訪れてみたいと思わせた店は初めて。




というわけで本日は香菜里屋シリーズ最後の作品をご紹介して著者のご冥福をお祈りしたいと思います。


北森鴻氏著『香菜里屋を知っていますか』


2006年から2007年にかけて雑誌「IN★POCKET」に掲載された短篇に新たな書き下ろしを加えた5篇からなる短編集。


まさかご自身が寿命を知って慌しく店じまいしたのかと思わせるような作品。


ビアバー・香菜里屋の集いの客たちがそれぞれの事情で次々に去り、マスター・工藤もある理由から店を畳み姿を消してしまうという物語と並行して、あるバーマンの閉店にまつわる謎や、かつての同僚である香月大吾の事情など、著者が着々とこのシリーズ完結への準備を整えたような作品群。


それに加えて最後の小品「香菜里屋を知っていますか」では、飯島七緒や「冬狐堂」シリーズの宇佐見陶子、「雅欄堂」の越名集治、「民俗学」シリーズの蓮城那智など、他のシリーズの主人公揃い踏みで語られる「香菜里屋」という店の名前の由来や工藤と香月の過去が明かされるところ、長年の読者に対する著者の精一杯のサービスが見られてよけいに寂しさが加速されます。


登場人物たちの新たな旅立ちを予感させるような余韻を残しての心憎いラストですが、すべての謎が解決したわけではなく、このシリーズでいつも感じていた謎解きの消化しきれない読了後のもどかしさが完結編である今回もまた残されたまま。

私自身、この不消化部分を解決すべく次作品にと託していた期待感をどうしてくれるの、という感じです。



「心やさしきものが訪れるなら、そこは豊穣と幸福の源泉」


もう1度心やさしき常連が厳しい人生の途上に集って羽を休めることのできる香菜里屋のマスターの手料理を作品上でも味わいたかったです。

「昔 昔、おじいさんとおばあさんが ありました。
おじいさんは山へしば刈りに行きました。
おばあさんは川へ洗濯にいきました。
おばあさんが、川で洗濯をしていると川上から大きな桃がどんぶりこ、どんぶりこと流れてきました」

誰もが知っている童話「桃太郎」と私の住む岡山とは深いつながりがあります。


民俗学者柳田国男氏はその著書『桃太郎の誕生』で桃太郎説話の根源を遡っています。

それによると桃が流れてきた川は奈良県の大和川だそうですが、吉備の国すなわち現在の岡山に住む鬼「温羅(うら)」を退治するという命を受けた桃太郎がはるばる吉備の国に来て無事鬼を退治した功績を讃え、吉備津神社の祭神として祀ったという伝説になっているそうです。


というわけで岡山には「きびだんご」を初め、桃太郎にちなんだものがたくさんありますので、よかったら覗いてください。

       http://www.city.okayama.okayama.jp/museum/momo/menu.html

また岡山県マスコットとして2006年に誕生した「ももっち」は「桃太郎」をアレンジしたものだそうです。

全国的な話題になった彦根のキャラクター「ひこにゃん」の人気に追いついてほしいものです。



さて本日は柳田国男氏や折口信夫氏によって確立された民俗学に材をとった短編小説をご紹介したいと思います。

北森鴻氏著『写楽・考

美貌の民俗学者、蓮城那智を主人公にしたミステリーの文庫最新作です。


このところ北森ワールドに浸っています。

このブログでも3作アップしていますのでよかったら読んでくださいね。

     http://yaplog.jp/ashy_ashy/category_28/





北森氏の著書をシリーズ毎に簡単に分類してみます。

蓮丈那智シリーズ 『凶笑面』『触身仏』『写楽・考』
旗師宇佐美陶子シリーズ 『狐罠』『狐闇』『緋友禅』『瑠璃の契り』
香菜里屋シリーズ 『花の下にて春死なむ』『桜宵』『蛍坂』『香菜里屋を知っていますか』
有馬次郎シリーズ 『支那そば館の謎』『ぶぶ漬け伝説の謎』 
その他 『狂乱二十四孝』『冥府神(アヌビス)の産声』『メビウスレター』『闇色のソプラノ』『メイン・ディッシュ』『屋上物語』『パンドラ’Sボックス』『親不孝通りディテクティブ』 『孔雀狂想曲』『親不孝どうりラプソディー』など   


本書は「蓮丈那智シリーズ」第三弾、4編からなる連作短編集。

「異端の民俗学者が、日本美術史上最大の謎、『あの絵師』に挑む」


短髪、美貌の民俗学者、東敬大学助教授、学会からは異端者扱いを受けているにもかかわらず、従来の常識にとらわれない超然とした態度で常人では考えつかない発想で論文を発表し続けている蓮丈那智がその強引な行動で助手の内藤三國と佐江由美子を巻き込みながら謎を解いていきます。


★村を凶事から守る「御守り様」といわれる人形が破壊され、持ち主の当主も殺害される事件と憑代―すなわち常民の住む現世と異界である常世との境目に位置する憑依物―についての考察をした「憑代記(よりしろき)」

★細長い湖が円湖と名づけられた謎を突き止めていく過程で明らかになった現実の殺人事件を扱った「湖底祀(みなそこのまつり)」  
  
★大学院生だった那智が昔遭遇した殺人事件が時を経て解き明かされる過程で興味深い絡みをみせる保食神(うけもちのかみ)に関する考察をした「棄神祭」

★伝説の絵師であり、現在もなお謎のベールに包まれた東洲斎写楽をタイトルに冠した表題作「写楽・考」

学会誌に発表された式直男という謎の人物の書いた「仮想民俗学序説」と式氏の失踪事件に関与するはめになった那智が窮地から見事な推理で脱出する様子を描いています。

論文の中に登場する「絡繰箱」や「べるみー」というキーワードからフェルメールに行き着くプロセスが鮮やかに描かれています。

ここでは「旗師宇佐美陶子シリーズ」の陶子や「香菜里屋シリーズ」の香菜里屋とおぼしきビアバーが登場して読者を楽しませてくれます。


全体を通してオアシス的役割を果たしているのは助手の内藤三國と那智のかけあい。

「ミ・ク・ニ」と耳元で囁かれると硬直してしまう小心&自虐的な三國のユーモラスな姿に隠れファンは多いのではないでしょうか。

多彩な楽しみ方ができる短編集です。

「今、北森鴻が売れている!
ほろ苦くて美味しい、だからこそせつないミステリー!」


本日は再び北森鴻氏著、第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作『花の下にて春死なむ』をアップしたいと思います。

ご存知ビア・バー「香菜里屋」シリーズの第一弾です。


このブログでも「香菜里屋」シリーズの第二弾『桜宵』を先にご紹介していますので、著者の簡単な経歴とともに読んでくだされば嬉しいです。

         http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/248



東急田園都市線三軒茶屋駅前の商店街のアーケードをくぐって、通りを一本はずした細い路地。

道が行き詰る手前の左側に白い縦長の等身大の提灯に大らかに描かれた「香菜里屋」の屋号。

焼き杉造りのドアを開けると10人ほどが座れるL字型のカウンターと2人用の小卓が2脚。


「いらっしゃいませ」とカウンターから出迎えるのは ヨークシャーテリアが人間になったような風貌のマスター。

4種類のアルコール度数の違うビールとマスターおまかせの極上の酒の肴の数々、行き届いたサービス、そしてマスターの絶妙な謎解き。


男性でなくとも密かにキープしておきたいと思うようなとっておきの空間!



本書には西行の『山家集』からの「願はくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ」よりタイトルをとった表題作他5編が掲載されています。


★「香菜里屋」の常連である飯島七緒が所属する俳句の自由律句結社「紫雲律」の同人であり、生前1度だけ男女関係のあった年老いた俳人片岡草魚の死に関して、草魚の部屋の窓辺に咲いた季節はずれの桜を通して死の真相や草魚の過去に迫るマスターの鮮やかな推理が光る「花の下にて春死なむ」

作中に草魚作としての自由律の俳句がいくつか登場しますが、これらは自由律の俳人種田山頭火や木村緑平の句を参考に著者が作られたものだそうです。

なかなか味わい深い句なのでご紹介します。

 「臥したる吾あり窓に寒月この指とまれ」

 「咳コトリと落ちる床の諧謔味」

 「濡れ濡れとなまめかしや蕾菖蒲さま」


★離婚歴のあるサラリーマン野田から語られる駅の貸本に挟まれていた家族写真の秘密に迫る「家族写真」

★回転寿司で鮪ばかり7皿食べる男の謎にモールス暗号をとりまぜて推理する「七皿は多すぎる」

★第一話に登場する片岡草魚にまつわるもう1つの過去の秘密を描いた「肴の交わり」



全体的にマスターの推理が唐突な細やかさで読者である私の納得の部分にブレーキがかかる物語が多い、というのが正直な感想です。


読了後心に残るのはマスター工藤の創作肴の数々、ミステリーとしての物語性には少々欠けるように感じたのは私だけでしょうか。


ということで今回も創作料理レシピを挙げて締めくくりたいと思います。


ワインビネガーと昆布でしめた小鯛

三年ものの帆立を貝殻ごと酒と醤油、そして仕上げにバター少々で味付け、熱いうちにスープごと飲むおいしさ!

お客の手土産の鯖の棒鮨の酢飯からネタを剥がし、蒸した酢飯に細切りにした紅生姜と柚子、錦糸玉子を盛り付けた逸品!

四川大地震の発生から3日が過ぎました。

地下の断層が約100キロ、幅約30キロにわたって大きく動いて引き起こされたそうですが、モーメントマグニチュードが7.7、6.9だった阪神大震災の約20倍の規模だそうです。

阪神大震災の被災者である私は紙面に掲載された生き埋めの写真など見るとあまりの息苦しさに目を背けたくなってしまいます。

インターネット上の書き込みで断水するというデマが流され、成都では水の買占めに人々が殺到しているそうです。

11年前の大震災時にも、巨大余震が起こるというまことしやかな風聞が被災者である私たちを不安に陥れた経験があります。


中国政府は交通状況の悪さを理由に、外国の人的支援を受け入れていません。

日本も阪神大震災時、フランスやスイスからの救助申し出に返事が送れたためほとんどの救援隊が着いたときにはすでに3日が経過していました。

生き埋めになった人の生存率は発生後72時間を境に大幅に下がるそうです。

一刻も早く救出してほしいとあせる気持ちでいっぱいです。


そうした中、わが郷土岡山に本部を置く国際医療ボランティアAMDAがいち早く中国国内の医師、看護師ら4人のチームを派遣、医療活動を開始するそうです。

岡山の誇りAMDAがんばれ!!!



さて本日はまたまた北森鴻氏の作品です。

今回の『孔雀狂想曲』はテーマが骨董、古美術の周囲に蠢く人間の欲と策略を暴く骨董店雅蘭堂の店主・越名集治の推理が冴え渡る連作短編集です。


北森氏の経歴に関しては先日ご紹介した『桜宵』で簡単に書いていますので、よかったら読んでください。

      http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/248


舞台は東京下北沢の住宅街の路地にある開店休業状態の骨董品店・雅蘭堂。

骨董店とは名ばかりの扱っているものといえばほとんどが古道具や古民具ばかり、店主越名の開けているのか瞑っているのかわからない細い目の風貌の奥に隠れた並外れた鑑定眼と推理力が、次々舞い込む事件ともいえない厄介ごとを解決していきます。


一応ミステリーに分類されますが、通常の謎解きミステリーとしての面白さより、骨董の魑魅魍魎の世界を垣間見ることができる、そんな面白さが読者人気ランキングの上位につけている理由ではないでしょうか。


★店を訪れた老人を通して明らかになった店先に置かれたアメリカ軍兵士愛用のベトナム・ジッポーの驚くべき秘密と越名の謎解きを描いた「ベトナム ジッポー・1967」

このジッポーが縁で老人の孫娘である高校生の安積が押しかけアルバイターとなります。

世代の違う店主と安積の掛け合いの面白さも本書の魅力のひとつになっています。

★同業者から譲り受けたジャンクカメラを巡って起こった殺人事件を推理するうち、カメラに仕掛けられた謎に迫る越名を描いた「ジャンクカメラ・キッズ」

★兄収一の代理で参加した金沢での蔵開きで競り落とす予定の古九谷を巡っての悪名高い骨董商犬塚との息詰まる駆け引きを描いた「古九谷焼幻化」

★売れた鉱物標本の行方と盗難に遭ったK画伯の風景画の犯人探しの接点に立てた越名の大胆な仮説が冴える表題作「孔雀狂想曲」


「古物商に必要なのは品物の善し悪しを見分ける眼ばかりではない。
五感で捉えることのできない時代の風を読み取る勘もまた、必要な感覚器のひとつといえる」


「競り市。
そこは我々古物商の需要と供給を同時に満たす場所であり、また我々が古物商であることを忘れて、1個のコレクターの心を取り戻す場所でもある。
競りに掛ける。値を付ける。競り落とす。
際限なく繰り返される作業は理性的であると同時に感情的であるし、合理性の中に不合理の真骨頂を垣間見ることもある。
しばしば囁かれる言葉、『市には魔が潜む』とは警句などではない」


そんな競り市に群がる海千山千の古物商たちの丁々発止の現場で眠ったような目で狙った獲物を競り落とし損ねた人がいたらそれが雅蘭堂店主・越名です。


散歩の途中、雅蘭堂をひやかした後、香菜里屋でマスターお手製の肴に冷えたビールのゆっくりした1日を過ごしてみたい、私にとってささやかな夢です。

この世の存在がただの夢にすぎないのなら
どうして努力や苦労がいるのだろう
私は飲む,もう飲めなくなるまで
一日中このよき日に

もう歌えなくなったら
また眠りにつく
春は私には何の関係があるのだろう
私を酔わせたままにして欲しい


グスタフ・マーラーの交響曲「大地の歌」の中の「春に酔える者」の1節です。

CDの説明文によると李白の「春日醉起言志」がベースとなっているそうです。

また白居易は酔吟先生と呼ばれたほど酒を讃歌した詩が多く、3000首近い詩の中で900首が酒の詩だというのを何かで読んだことがあります。


白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり

人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ


上記の有名な歌の作者、日本でも酒仙の歌人と称され、酒をこよなく愛した漂泊の歌人若山牧水は1日1升以上飲む大酒豪のため肝硬変で若くして果てましたが、43年という生涯に残した7000首のうち酒を詠ったものが200首もあったそうです。


かくもこのように人間を虜にする「酒」は精神的な薬効にもなれば、依存すれば心身ともに滅びる元凶にもなることは周知の通りですね。


営業マンだった夫も接待の明け暮れの上、単身赴任の生活のツケが祟って健康を害して以来、現在は小さな小さな酒器で冷酒をほんの少しという理想的な毎日を過ごしています。


お酒飲みの家に生まれた私は幼い頃より母の作る酒の肴を見て育ち、結婚後も夫の酒の肴を作り続けたのでいまだにその習慣が抜けず、酒肴のない食卓には寂しさを感じてしまいます。

簡単な酒の肴はいくつでも頭に描けるのに、お酒抜きのご飯のおかずとなると戸惑ってしまうこともしばしばです。


さて、そんな酒飲み&ミステリー好きにとって垂涎の本をご紹介したいと思います。

北森鴻氏著『桜宵』

著者は大学卒業後、フリーランスのライターを経て
1995年『狂乱廿四孝』で鮎川哲也賞
1999年『花の下にて春しなむ』で第52回日本推理作家協会賞の短編および連作短編集賞を受賞していらっしゃいます。


受賞作『花の下にて春しなむ』はビアバー・香菜里屋シリーズの第一作として華々しくデビュー、本書『桜宵』はその第二弾、その後第三弾『蛍坂』へと続き、最後に『香菜里屋を知っていますか』でシリーズ終結となりました。

残念!!!

東急田園都市線沿線三軒茶屋の路地裏にある小さなビアバー『香菜里屋』のマスター工藤を主人公に、そこに集う客たちの持ち込んだ事件などの謎解きを絡めた人生模様を描いた連作短編集です。
このシリーズの最大の魅力は何といっても店主工藤の作る酒肴!


お客の雰囲気、会話などを通して一瞬にしてお客の求める酒肴を、それもさりげなく提供するというあうんの呼吸の離れ業には目を見張るばかり!


本来ならここで収録の短編5編の簡単な紹介をするところですが、今回はマスター工藤の作る絶品の酒肴をいくつかご紹介してレビューに代えたいと思います。


★ 度数の弱いビールで ―― エソのすり身を白菜の葉で巻き込み、ロールキャベツの要領で和風仕立てに煮込んであるらしい。 添え物が合鴨の切り身のつけ焼き。そこへとろみをつけただし汁をひたひたに掛けたもの

★ 白髪ネギとサラミの細切りをフレンチドレッシングであえたもの

★ 二番目に強い度数のビールで ―― かたく水切りをした豆腐を四ツ割にし、さらにそれぞれ二枚にスライスして、中に四種類の具…洋芥子と焼き海苔、明太子の生クリームあえ、生雲丹、生ハムとホースラディッシュを別々に挟んで揚げたもの

★ 春キャベツとアンチョビソースのパスタ・・麺を茹でるときに塩と一緒に醤油を少々

★ 度数の一番高いビールで ―― 蒸し蛤のむき身にガーリックオイルをかけたもの

★ 松茸、鱧の千切り、三つ葉のみじん切り、くずきりを混ぜ込んだ生湯葉巻き・・だし汁をゼラチンで固め、泡だて器で攪拌したヌーベを添えて


三軒茶屋の奥まった路地裏

ぽってりと等身大の白い提灯

十人ほどの客がやっと座れるL字形のカウンターと、二人用の小卓が二つ

ヨークシャーテリアの精緻な刺繍のあるワインレッドのエプロンをして、刺繍がそのまま人間になったように柔和に笑うマスター

「香菜里屋」に行って度数の一番弱いビールを飲みながらマスターの差し出す酒肴を食べながら、常連客とおしゃべりしてみたい、マスターの謎解きの腕を間近に見てみたい・・・帰ってきて「香菜里屋」!!

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