VINのらんどくダイアリー

ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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カテゴリ: 芝木好子

少し寒さが薄らいだとはいえまだまだ春が遠い日々ですが、今日は東京マラソンの日。


日本の男子選手にとってロンドン五輪の出場選手選考会を兼ねているので応援にも力が入りました。


結果はケニアのマイケル・キピエゴが優勝、2位に藤原新選手という快挙。


2時間7分台は日本人選手としては5年ぶりの記録、ロンドン五輪への出場が確実になったそうです。


注目されていた公務員ランナー川内優輝選手は残念ながら14位。




最初からずっとテレビを観ていた夫との会話。


「「『皇帝』って呼ばれているエチオピアの選手の名前、何度聞いても複雑で覚えられない」と私。


「ハイレ・ゲブレシラシエだよ、ゲ・ブ・レ・シ・ラ・シ・エ!

ところで今回の東京マラソン、あの子…去年完走した…兄貴の子…何といったかな…出場していないのかな」


「英子ちゃんのこと? 今回は出場するって聞いてないけど。

それにしても複雑なゲブレシラシエの名前が間髪いれず即座に出てくるのに、たった3文字のかわいい姪の名前が出てこないというのは叔父として人の道に外れているんじゃないの?

それも阪神大震災のとき親戚縁者で唯一救出に来てくれた恩人だというのに」


「おっしゃる通りですm(__)m 英子、すまん」



というわけで夫は珍しく素直に反省していました。





さて本日は芝木好子氏著『海の匂い』のご紹介です。


「そのひとは、いつもなんの前ぶれもなしに現れた。
日灼けした顔と、大きなからだからは房総半島の潮の香りがした。
秋子は夫が戦死したあと、一人息子を育てあげ、仕事を続けてきた。
月に一度、或はふた月に一度、二人は逢瀬を楽しんだ。
そのひとと会った夜、息子に『潮風の匂いがする』と言われ、動揺する秋子。
この表題作のほか、珠玉の八篇収録」

伝統芸能などに生涯を賭ける女性とそれら芸術を通して心を通わせる男性との恋愛を独特の情感豊かな表現で描く作品に惹かれ著者に傾倒していた時期があり、ほとんどの作品を網羅していると思っていましたが本書は未読の作品でした。



芝木氏は作品にご自身を投影させて描くとき、「恭子」という人物を登場させるようですが、本書でも収録された8篇のうち「家の終わり」「異国の旅」「二つの蝶」「本郷菊坂」の4篇がそういった意味で自伝的要素の強い作品といえるでしょう。



著者は何かの媒体に短編について次のように書いていらっしゃいました。


「短編の難しさは、余分なものを捨てて人生の断面を取り出すことから始まる。
それでいて脹らみを失わずに一つの世界を描出しなければならない」



本書のそれぞれの短篇はまさに余分な飾り言葉や念の入った説明を極力廃していながら主人公の生をやわらかく浮かび上がらせる、そんな巧みさが感じられます。



8篇はそれぞれに深い余韻を残してくれる珠玉の作品ですが、ここでは「本郷菊坂」についてのレビューを少し記してみたいと思います。



この小品の舞台は関東大震災と東京空襲という2つの大災事によってかつての古きなじみの面影を失って変わりゆく東京の町並みには珍しくどちらの災事からも被災を免れてひっそりと息づいていた本郷菊坂の長屋。


その長屋に10年ほど前から住み着いた古い友人を訪ねた主人公・恭子の視線を通して、奥まった路地に密集した長屋の周辺や、床の間がある間取りにある種の心意気さえ感じられる零落した人々がひっそりと住む陋屋の様子などが滅びゆこうとする古き東京の描写とともに細かに描かれていて、モノクロのシーンを見ているよう。



その長屋の本郷菊坂町七十番地にかつて住んでいた若き樋口一葉の苦悩の生活が恭子の想像力を通してまるで現実世界のように活写されています。


巧みで魅力的な構成。


父親が亡くなったあと本郷菊坂に母妹3人で移り住んだ19歳の一葉こと夏子の貧しい長屋暮らしや通っていた中島歌子主催の「萩の舎」での人間関係、苦しい家計の助けにと小説家を志し師と仰いだ半井桃水との出会いから根のない醜聞によっての別れまでの一葉の苦悩がまるで見てきたように生き生きと描写されていて惹き込まれてしまいました。



その他の小品に登場する家族や家、そして日本という国を捨て外国の地で孤独地獄を味わいながらも毅然とした覚悟の生き方を貫く女性の確かな潔さなど、激しさなど微塵も感じさせない奥床しい筆致で描かれていてまさにいぶし銀のような小品揃いでした。


夫の知人から寄せ植え鉢をもらいました。

すてきな寄せ植えもさることながら植木鉢がなんと新聞紙でできたエコ植木鉢だというからびっくりです。


そういえばこんな形態の山野草などを植えている鉢を見たことがありますが、実際手にとって眺めるのは初めて。


材料は新聞紙とセメントと墨汁だそうです。


細かくちぎった新聞紙を2、3日水でふやかしたのち水気を絞り、セメントと墨汁を入れてよくこねて、あらかじめ作りたい形の容器にビニール袋を敷いて薄くのばした土塊を形に合わせて作り乾かすのだそうです。


植木鉢にするなら底に水抜きの穴を開けておくそうですが、いろいろな容器に応用できそうですね。


図書館で雑誌を見ていたら、同じような工程で普段使いの容器を作っている記事が載っていました。


新聞紙だけでなくチラシなど廃物を利用していてセメントなしで私にも簡単に作れそうです。


小さな手仕事は心を和ませるのに最適、1度トライしてみたいと思っています。





さて本日は芝木好子氏著『雪舞い』をご紹介したいと思います。



以前ブログ友である方が芝木好子氏の作品を集中的に読まれていることを日記に書いていらっしゃったのに影響を受けて本箱を探すと10冊以上の著書が出てきました。


ずっと昔ですが芝木氏の作品に傾倒して手当たり次第に著書に埋没していた時期があり、懐かしく思い出しながらそれらをベッドサイドに積み重ねて図書館で借りた本と交代で再読しています。



現代の作家さんの作品を通して気持ちがガサガサと騒がしくなったあとなどに芝木氏の作品を読むと、柔らかい掌で心を慰撫されるような感覚にほっとすることもしばしばです。



芝木氏の作品に登場する女性は、外見はたおやかそうでも内面に秘めた芯というものがしっかりとあり、その一途な物思いの対象が芸道であれ、慕わしい男性であれ、決して崩れないという強靭さを持っているというのが特徴です。


本書の主人公もその例に漏れず、築地の料亭“花巻”で働きながら、地唄舞いを心の支えにして生きている30歳の有紀。


妻のいる日本画家の香屋雅伸と激しく愛し合い、香屋の妻の敵意と嫉妬を全身に受けながらも50歳でガンに倒れ逝った香屋と愛を全うするという筋立て。


妻という立場は得られなかったものの、生きる支えであった舞いと香屋の両方を決して手放さなかった主人公の女性としての心栄えを描いて見事ですが、香屋の妻の目線から見れば物語の景色は180度変わってきます。


本書ではその妻が特異な嫉妬深い好まない性格として描かれています。


「画家と舞踊家の哀しくも切ない愛と女の情念を描き上げた小説」と銘打ってはいますが、そこに割り切れない違和感が生じてしまうのは否めません。


そういった小さな違和感は別として、現代の作家の忘れ去ったような美しく慎み深いせりふ回しなどの表現はまるで一服の清涼剤のように私の心に染み渡るのでした。

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