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ご訪問ありがとうございます。 「一日一生」を銘にさまざまな人生を読書というツールを通して味わっていきたいと思っています。 響きこし言葉に貼れるさみどりの付箋そよぎて林となりぬ

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カテゴリ: 池井戸潤

十六夜

今日は町の本屋の話を少し。


 20年ほど前までは地方都市にもいくつもの本屋がありました。

 

本が好きだった亡母にはお気に入りの本屋があって、女店主の方と親しくなってレジの奥の丸椅子に座ってお茶を飲みながら世間話をしていた光景が今でも鮮明に目に浮かびます。

 

わたしが大学生のとき、毎月一冊その本屋から買ってくれた漱石全集12巻は
今も唯一の本の宝として本棚に並んでいます。

 

花布(はなぎれ)ヒユウガミズキの淡き色 漱石全集書架にまどろむ

 

自分のアルバイトのお金で買った世界文學全集とか日本文学全集はとっくに処分してしまいましたが。

 

そのお馴染みだった故郷の本屋も今は消えてしまった・・・。

 

大型書店の進出に巻き込まれず生き残っている本屋はどれくらいあるのでしょうか。

 

そして時は流れて・・・今ではamazonを代表する巨大なネット書店がそれに代ろうとしています。

 

そんな中、大阪の売り場13坪の小さな本屋「隆祥館書店」が話題になっています。

 

店主は二村知子さん。

 

メディアで取り上げられたのでご存じの方も多いと思います。

 

amazonや巨大な大型書店の向こうを張って、日本でトップクラスの販売数を記録する本が
何冊もあるという。

 

惚れ込んだ作家さんに熱意を伝えるとそれに応えて多くの作家さんが来店して
読者との縁を結んでくれるという。

 

その二村さんが始めたという「1万円選書」。

 

20の質問をして一人ひとりに合った本を選んで送るという試み。 

 

娘がわたしへのプレゼントにネットで詳しく質問に答え、申し込みをしてくれたそうです。

 

半年以上前のことだそう。

 

以後待てど返信が来ない・・・きっと超多忙に紛れて忘れてしまったんだろうな・・・と娘。

 

もし多すぎて埋もれていた申し込みを見つけてくれたら嬉しいな。

 

どんな本を選んでくれるのか興味津々です。

 

アルルカン

池井戸潤氏著『アルルカンと道化師』
 

東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとに、とある案件が持ち込まれる。
大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版舎・仙波工藝社を買収したいというのだ。
大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。
有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは(「BOOK」データベースより)




「半沢直樹」シリーズ
6年ぶりの待望の最新作。

 

2004年『オレたちバブル入行組

2008年『オレたち花のバブル組』

2012年『ロスジェネの逆襲』

2014年『銀翼のイカロス』

2020年『アルルカンと道化師』


著者の作品はすべて網羅していますが、やはりいちばん血沸き肉躍るのが「半沢直樹」シリーズ!

 

わたしは観ていませんがTVドラマでも大人気を博していたようですね。

 

「基本は性善説。だがやられたら倍返しだ」

 

わたしたちも含め拍手喝采する多くの人々は、社会の一員として組織に関わっている以上
半沢直樹になりたいけれど後先を考えると勇気が出ない・・・
そんなジレンマから応援という形になっているのではないでしょうか。

 

同じ勧善懲悪でも「水戸黄門」と違うところは「半沢直樹」が上級国民ではなく
一介のサラリーマンであるということ。

 

さて本書、時系列でいうとシリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚に当たる作品
「半沢直樹」シリーズファンならお馴染みの
浅野支店長や小木曽、
そしてまだ頭取になる前の中野渡の名前もちらと出てきてファンサービスも満点

 

半沢直樹が東京中央銀行の大阪西支店の融資課長として赴任して日が浅い頃に起こった
美術出版社の買収案件に端を発する物語

 

TVでもおなじみの大和田に相当する悪代官役は業務総括部長の宝田。

今回は宝田が銀行内部に強引な根回しをして進めようとしている
M&A(企業売買)計画が軸になって物語が動いていきます。

 

その買収計画に絡んで登場するのが元ZOZOの社長・前澤友作氏を彷彿とさせる
新進
IT企業ジャッカル
の創業者・田沼時矢。

アートコレクターとしても有名な前澤氏がzozo社長時代にバスキアの絵を
123億円で落札したことは一時話題になりましたが、本書に登場する田沼時矢も
アートコレクターとして物語の核になるある画家の絵を集めているという設定。

その田沼時矢が業績低迷中の小さな美術系出版・仙波工藝社
法外な値を付けてまで買収したがっている真の理由は?


本書はその謎解きを通して銀行員・半沢の躍動が光ります。

タイトルになっている「アルルカンと道化師」は
ひとりの無名の画家が世界に認められるきっかけとなった作品。


〈アルルカン〉や〈ピエロ〉はピカソやセザンヌ、ルオーなどが好んで取り上げたモチーフのひとつ。


その魅力的なモチーフを取り上げた
2人の画家の数奇な物語ともいえるでしょう。

これ以上は本を手に取ってのお楽しみということで記しませんが、
興味ある方はぜひどうぞ!

おすすめです!

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中国地方もやっと梅雨入り・・・別に首を長くして待っていたわけではないけど。

来るべきものが来ないとなんだか落ち着かない・・・

例年より19日も遅いそうです。

それと同時に台風も上陸するおそれ!


年々異常気象が顕著になりますね。


まだ入梅前の土曜日のこと。


外出からの帰り道、すごい豪雨に遭いました。


雨になるかもしれないという予報に晴雨兼用傘を持っていたので慌てて差しましたが、横殴りの雨でほとんど役に立たず。


数分で道路が水浸し・・・家まであと400mほどなのに短靴もジーンズも滴るほど。


信号の色もわからないほどでした。


やっとたどり着いて玄関でずぶぬれの靴下を脱ごうとしてもあまりの水分にふくらんで脱げず・・・浴室に直行。


やっとシャワーを浴びてひとごこちついたころ、窓越しに見るとカラリと青空。

熱帯地方のスコールに遭ったよう。

突然の雨に全身ぬれそぼつ洗われても洗われても古ぞうきん






さて本日は池井戸潤氏著『下町ロケット ゴースト』のご紹介です。 

「宇宙から人体へ。
次なる部隊は大地。佃製作所の新たな戦いの幕が上がる。
倒産の危機や幾多の困難を、社長の佃航平や社員たちの、熱き思いと諦めない姿勢で切り抜けてきた大田区の町工場「佃製作所」。
高い技術に支えられ経営は安定していたかに思えたが、主力であるロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化、大口取引先からの非情な通告、そして、番頭・殿村の父が倒れ、一気に危機に直面する。
ある日、父の代わりに栃木で農作業する殿村のもとを訪れた佃。
その光景を眺めているうちに、佃はひとつの秘策を見出だす。
それは、意外な部品の開発だった。
ノウハウを求めて伝手を探すうち、佃はベンチャー企業にたどり着く。
彼らは佃にとって敵か味方か。
大きな挫折を味わってもなお、前に進もうとする者たちの不屈の闘志とプライドが胸を打つ!大人気シリーズ第三弾!!」


「下町ロケット」シリーズ第三弾。


宇宙科学開発機構の研究員だった佃航平が父の経営していた中小企業「佃製作所」の社長となり、社員たちと共に奮闘する物語。

時系列で表すと・・・
2010年『下町ロケット』
2015年『下町ロケット ガウディ計画』
2018年『下町ロケット ゴースト』
2018年『下町ロケット ヤタガラス』


先日逆順で第四弾『下町ロケット ヤタガラス』を読んだばかりで図書館で見つけた本書。


図書館まかせだとこんなことになってしまう(ーー;)


先にヤタガラスを読了していたので、前段階はこうだったんだ、という助けを借りて読み進めました。


本書ではトランスミッションのバルブに挑戦する佃製作所。


よりすぐれた品質を求めて社員一丸となりますが、コスト面で折り合いがつかず苦戦、しかし無事に発注元のギアゴースト社のコンペをクリア。


今回はそのギアゴースト社の窮地が主題。


ケーマシナリー社に特許侵害で巨額な支払いを求められたギアゴースト社の窮地を救うべく佃社長が奔走した結果思わぬ裏舞台が暴露されます。


ところが窮地を救われたギアゴースト社が佃製作所のライバル・ダイダロス社と契約するという非常事態になったところで唐突な終り方。


知りたければ続編でどうぞ!といわんばかりの終り方。


同じなら「ゴースト」と「ヤタガラス」を上下巻にしてほしかった。


刊行されたのも2018年の7月と9月ということから小学館の意図を感じてしまいました。

八月と九月は夫と私の誕生日が続いて家族には申し訳なくも気忙しい月。

昔から記念日のプレゼント交換が常態化していて、それが子どもたちが自立してもずっと続いている我が家。


先日は私の誕生日。

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みんなからいろんなプレゼントをもらいましたが、ビッグなプレゼントは次男が小春の顔を見せに来てくれたこと。

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久しぶりの小春との再会(^.^)

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思う存分可愛がりまくりました。


そして・・・夫と次男と3人で近くのステーキ&魚介類鉄板焼きの店で食事をしていたら・・・びっくりのサプライズ!@@!

なんと東京にいるはずの娘が小さな花束をもって突然入ってきました!

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驚いたのなんのって!!!


嬉しい予期せぬ出来事!


そして4人で帰宅したら留守番していた小春が体中踊らせてこれ以上ない喜びを表して出迎えてくれました(^.^)


この日のことは一生の思い出・・・ありがとう!






池井戸潤氏著『下町ロケット2 ガウディ計画』 


「その部品があるから救われる命がある。
ロケットから人体へ――。
佃製作所の新たな挑戦!

ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年――。
大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。
『ガウディ』と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。
しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。
日本中に夢と希望と勇気をもたらし、直木賞も受賞した前作から5年。
遂に待望の続編登場!」


遅っ!と驚いていらっしゃるだろう池井戸ファンの方・・・図書館の棚に眠っているのをやっと見つけました(――;)


2015年10月18日からTBS系の日曜劇場でもテレビドラマ化、朝日新聞にも連載されましたが、どちらもスルー、時が経過してもどうしても書籍で読みたい、ということでやっと。


下町ロケットの第二段。

前作を引き継いでのスタート。


今回の佃製作所は前作のロケットバルブの改良に加え、テーマは人工心臓と心臓の人工弁の医療用バルブの開発&製作。

素人目には似たようなモノながらまったくの別モノの人工心臓と心臓の人工弁。


この二つを同時進行で作っていくのでスタート時点で少し理解の糸が絡まりましたが、しっかり把握できた中盤あたりから面白さが加速!


ラストが予定調和の勧善懲悪と思えば、安心して読める池井戸作品。


今回も紆余曲折はありましたが、落ち着くところに落ち着いた物語運びは健在。


池井戸作品の核となっている「ものづくり」に光を当てることを疎かにしていないところが読者を惹きつける由縁であろうと思えます。

「ものづくり」と言えど、ビジネスの世界では収益あればこそのもの。


きれいごとでは渡り切れない採算性重視の経済社会で生き残るにはノルマや収益に追われるのは避けて通れない宿命と思います。


そういった中での医師・貴船や日本クラインの久坂ら登場人物たちの挫折も丁寧に描かれていてビジネス書としても秀作でした。


「どこに行っても楽なことばかりじゃない。
苦しい時が必ずある。
そんな時は、拗ねるな。
そして逃げるな。
さらに人のせいにするな。
それから-夢を持て」


難題を乗り越えた先に輝かしい未来があることは保障できないけれど、逃げなかったという納得で自分を肯定できる・・・そんなことを感じました。


読後の爽快感を味わいたい方、ぜひどうぞ!

お盆を挟んで8日間、長男一家が帰省していました。


孫のアスカは真面目にウルトラがつくくらい真面目な中学一年生になって、部活と勉強と、幼いころから習っているヒップホップ系のロッキンというダンスの3つの柱でいっぱいいっぱいの生活を続けているようです。


ロッキンの超激しい動きとはうらはらに普段は相変わらず超おっとり系の幼い感じ、あまりに生真面目で幼すぎて親が心配するほど。


クラスメイトの中には親に内緒でピアスの穴あけを自らやった子もいるそうで、差がありすぎのお年頃です。


これからどうなることやら・・・。



休みを利用して鳥取県米子市の大山の麓のホテルに宿泊。










米子はアスカのパパが小学校5年~6年までの1年半を過ごしたところです。

冬場をずっとスキーに通っていた思い出の大山。


パパは運動神経がよかったので上達が早く、市の主催のスラローム大会に出て予選通過したこともありますが、長じて言うには・・・スキーが嫌いだったそうです(――;)


喜んで滑っていたと思っていたのに・・・子ども心を理解しない親でした。


そんなこんなでアスカ中心に過ごした夏休み、こちらでも宿題中心、その間を縫って昼はスポーツセンターで卓球、夜はウノでワイワイと賑やかな日々でした。



さて久しぶりのレビューです。

池井戸潤氏著『アキラとあきら』


「零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。
生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。
逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。
ベストセラー作家・池井戸潤の幻の青春巨篇がいきなり文庫で登場! !」




最近、ハードカバーに値するような作品がいきなり文庫になることもあって (^.^)

大好きな池井戸作品なので購入。

最新作とはいえ、2006年~2009年まで「問題小説」に連載されていたものに加筆、修正したオリジナル文庫です。

2009年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞を受賞するよりも、さらに2010年『下町ロケット』で直木賞を受賞するよりも前に書かれた作品というのだから驚きます。

約700頁の長編小説、読み応えがあります。


余談ですが、先月からWOWOWプライムで毎週日曜日夜10時から「連続ドラマW アキラとあきら」として放映されています。

ふたりのアキラとあきらを向井理さんと斎藤工さんが演じています。


長い物語をはさんで冒頭とラストにある文章。

幼いころの君は、どんな音を聴いていた?
幼いころの君は、どんな匂いを嗅いでいた?

第一章、第二章は倒産した元零細工場の息子・瑛の物語。

第三章は同族企業の長を父親に持つ長男・彬の物語。

最初の章からラストまでの30年という年月においてそれぞれの環境が語られています。


父親が経営する小さな町工場が銀行の貸し剥がしによって倒産、夜逃げで母親の親戚を頼って暮らす山崎瑛と、大手同族企業の船会社の長男として生まれた階堂彬。


この2人が東大を経て産業中央銀行に就職、新人研修で歴史に残る好成績を残したことで2人の運命が交差します。


著者の作品の多くは理不尽な社会に立ち向かう主人公の物語、最終的には正義が勝つ、というスタンスが私を含めた読者に安心感を与えてくれます。


大きな修羅場をいくつか用意していながら、結局は最良の落ち着き場所に着陸するという筋立ては、反面そんなバカなと思うような設定もありますが、やはり魅力です。


「なぜ自分はここにいるのか。
なぜ自分は銀行員なのか。
なぜ人を救おうとするのか・・・
いま瑛が救おうとしているのは見知らぬ大勢の人と家族でありながら、実は瑛自身なのだ。
彼らを救うことで本当に救われるのは自分なのだ」


中堅の銀行員としての瑛の自問自答ですが、著者の描くほとんどの作品に流れているテーマ。

まだ未読の方、ぜひどうぞ!!

高梁の成羽美術館にティラノサウルスの全身骨格化石標本が来ているというので連休に帰省した娘と3人ではるばる観に行きました。

高さ4.6m、全長12mにもおよぶ大型恐竜ティラノサウルスを始め、翼竜プテラノドン、怪魚ダンクルオステウス、さらには直径2mもあるアンモナイトや世界最大の鳥類の卵エピオルニスなど約100点が展示されているそうです。

成羽は2億年以上前の植物や貝の化石が多く見つかることで知られる化石産地だそうです。

初めて知りました~。


ときどき著名な画家の作品展を観に訪れている成羽美術館。


安藤忠雄氏設計によるコンクリート打ちっぱなしの現代的な美術館です。


ところが、駐車場に着くと車が一台も見当たらず深閑としている様子にちょっといやな予感。

それにもめげず階段を上がってみると・・・休館日(ーー;)


今まで美術館などを訪れるときは必ず事前にチェックしていくのに・・・残念。


せっかく高梁まで来たので・・・ということで鮎料理専門店を調べて行ってみました。










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さて今回は池井戸潤氏著『陸王』のレビューです。 

「勝利を、信じろ。
足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。
このシューズは、私たちの魂そのものだ!埼玉県行田市にある老舗足袋業者『こはぜ屋』。
日々、資金操りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。
これまで培った足袋製造の技術を生かして、『裸足感覚』を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか?
世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足―。
従業員20名の地方零細企業が、伝統と情熱、そして仲間との強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!」


舞台は埼玉県行田市という足袋の生産では日本一の町にある四代続く老舗の足袋メーカーの「こはぜ屋」。


日本人の着物離れで足袋の需要は年々右肩下がりの中、「こはぜ屋」の四代目宮沢社長も先細りの将来を突破しようと足袋の製造ノウハウを活かしてランニングシューズの新規開発に取り組みます。


資金も人材もない、というないない尽くしの中での悪戦苦闘の過程での思わぬ人々との出会いによって活路が拓けていく様はまさに池井戸ワールド。


ハラハラドキドキながらも結果オーライの着地が用意されているという著者への信頼感から安心して読み進めることができました。


作品の主役である「こはぜ屋」にはきっと実在のモデルが・・・

調べてみると同じ行田市にある「きねや足袋」。

本書ではタイトルになっている「陸王」が「こはぜ屋」が開発したランニングシューズですが、「きねや足袋」の商品はランニング足袋「MUTEKI」。

著者は執筆にあたって「きねや足袋」を取材されたそうですが、完全なモデルというわけでもなさそうです。


町の小さな足袋屋が生き残りをかけて巨大なランニングシューズ業界に参入するという無謀な試みにはいくつもの険しい壁に立ちはだかれますが、危機一髪というときにいくつかの救いの手が差し伸べられるのは小説ならでは。


そのうちの1人がシューフィッターのカリスマといわれている村野尊彦。


彼のモデルが瀬古利彦、谷口浩美、高橋尚子、有森裕子、野口みずき、イチロー、など多くの一流アスリート、ランナーのシューズを手掛けてきたこの道40年以上のトップシューフィッター三村仁司さんといわれています。


アシックスに入社し定年退職後「M.Lab(ミムラボ)」を設立し、2010年1月には、アディダスジャパン株式会社と専属アドバイザー契約締結を発表し、ミムラボで制作されるすべての競技シューズをアディダス製品として開発中であるそうです。


本書の村野とは重なることが多々あり、この人なくしては成功には導けなかったという役どころ。


余談ですが、箱根駅伝連覇の青学の選手たちは三村さんが作ったシューズで走っているそうです。



本書はこれら登場人物の個性をあますところなく描いて充実した物語になっていますが、最後に興味を惹かれたところを2,3ご紹介したいと思います。


私の周りにはマラソンに参加している人もいないのでシューズに関してはまったく無知ですが、私が時々通っているスポーツ鍼灸のインストラクターの方からは踵から着地してつま先で蹴るというヒール着地を指導してもらったことがあります。


本書を読むまでそれが正しい走法と思っていましたが、このヒール着地走法は、一般にランナー膝と呼ばれる腸脛靭帯炎になる率が非常に高い走法である、というのを知りました。


ここからが人類の歴史・・・

猿と人が分岐したのは700万年前、それからアウストラロビテクスのような猿人が出現し、さらに240万年前になると、原人であるホモ・ハビリスが誕生。

この時代から百万年くらい前まで、同時期に何種類もの猿人と原人が共存。

エチオピクス、ロブストス、ボイセイと呼ばれる三種類のアウストラロピテクス、そしてホモ・ハビリス、ホモ・ルドルフエンシス、ホモ・エレクトス、ホモ・エルガスターという四種類の原人。

ところが共存していたこれらの猿人は滅び、五十万年前にホモ・エルガスター、三十万年前にホモ・エレクトスが絶滅してしまいます。

そしてまた新しいヒトが誕生し、ついに二十万年前私たちの直接の祖先ホモ・サピエンスがこの世に生まれます。

他にも十五万年前から三万年前までのホモ・ネアンデルターレンシス、そして三万八千年前から一万四千年前まで栄えてホモ・フロレシエンシスの二種類のヒトは、私たちと同じ空気を吸ってこの地球上に併存していたそうです。

ところがいま生き残っているのは、私たちホモ・サピエンスただ一種類のみ。

自由な呼吸法で長距離を走れるホモ・サピエンスだけが最終的に狙った獲物を追い詰め食料にありつくことができるという理由だそうです。

そのホモ・サピエンスの走法が足の中央付近で着地するミッドフット着地、あるいはもっと足の先で着地するフォアフット着地という走法だったそうです。


この走法はヒール着地走法と違って怪我や故障しにくいということで今ではほとんどの走者がフォアフットやミッドフット走法で走っているそうです。


原始にもっとも近い環境のケニア選手は自然にフォアフットやミッドフット走法だそう。


そしてそれを可能にするのが本書の核になる「陸王」というつながり。



なお今年10月期のTBS日曜劇場枠でドラマ化が決定されたそうです。

「こはぜ屋」の4代目社長・宮沢紘一を演じるのは役所広司さんだそうです。


皆さんはもう読まれたと思いますが、未読の方はドラマとともにぜひどうぞ!

高浜原発3号機が臨界に達し、発送電を開始したとのニュースがありましたね。

3号機の運転は2012年2月以来、3年11カ月ぶり。


高浜原発3,4号機については昨年4月に福井地裁の樋口裁判長が、関電が想定する基準地震動を超える地震で過酷事故に陥る危険性があるとして新規制基準を事実上否定、再稼働差し止めを命じていました。

これを受けて関電が申し立てていた異議に対し、昨年暮れに福井地裁の林潤裁判長が「安全性に欠けるとはいえない」と再稼働を即時差し止めた4月の仮処分決定を取り消したという経緯があります。


林潤裁判長は樋口元裁判長が「緩やかすぎる」と指摘し、安全性が確保されないとした新規制基準は最新の科学・技術的知識に基づいた地震対策で、安全上重要な施設には特に高度な耐震性の確保も求めた内容には合理性があるとしました。


同じ地裁でも裁判長によってこれほどの差異があることに驚きを隠せません。


更に林裁判長は大飯原発3,4号機の再稼働差し止めを求めた住民らの仮処分申請も却下。


夫の郷里である舞鶴は高浜原発から16キロの距離にあります。


両親はすでに他界し、現在は夫の次兄夫婦が住んでいますが、30キロ圏内に入る京都、滋賀両府県と8市町のうち、「再稼働容認」は京都府舞鶴市だけだそうです。


高浜町に隣接する舞鶴市は市議会も「国は将来、福島事故を教訓に脱原発へ進むよう」という注文とともに「現時点では」の条件付きで容認しました。

市域のほぼ全域が30キロ圏に入り、一部は事故時に即時避難となる5キロ圏にかかるという舞鶴。


原発関係の仕事に携わる人々にとっては痛し痒しの選択であるとは思いますが、福島の大惨事を経験してさえ、目先の利益に流れるということの悲しさをやりきれなく思います。


夫が幼年時代から泳いでいたという高浜の海。

太平洋側の海に比べ遠浅で砂の粒の細やかな高浜の海のことを夫は事あるごとに口にしていました。

その海の目の前にある高浜原発。

私も何度か目にしましたが、未来の不穏を象徴するような恐ろしさを感じています。


どうぞどうぞ事故が起きませんようにと祈らずにはいられません。






さて今回も流行遅れの作品です。

池井戸潤氏著『七つの会議』



「トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、歳上の万年係長・八角だった―。
いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?
パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。
急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。
どこにでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための戦い。
だが、そこには誰も知らない秘密があった。
筋書きのない会議がいま、始まる―。
“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル」


著者の作品はすべて網羅していますが、本書だけは未読。

他の作品と比べ地味だというレビューを目にしていたので購入はしませんでしたが、図書館の棚で見つけて手に取りました。

たしか東山紀之さん主演でドラマにもなっていましたね。


『空飛ぶタイヤ』を池井戸作品No1としている私個人の感想としては、この系列を踏襲したかなり興味深い内容でした。

『空飛ぶタイヤ』と違っているのは、本書は会社内部からの告発的な声が中心に描かれているということ。


大きな組織である会社自体が隠蔽したいダークな部分を一社員が炙り出すというもの。


幼い頃からいつも二番手を自認し、社会人になってからもほどほどのサラリーマン生活を送っていた原島が、会社の闇の部分に気づき、「知らないでいる」ことが安泰の道に繋がるという「権利」を放棄したために、本人の意図の範囲を越えて大問題へと発展する過程と、その事態収束に向けて奮闘する姿が綿密に描かれています。


現在も過去も企業の裏の部分が明るみに出るのは、ほとんどが内部告発からだといいます。


食品偽装に関しても粉飾決算に関しても、過去に暴かれて社会問題に発展した例は暇がありません。


企業コンプライアンスがこれほど叫ばれているなか、隠蔽できたらラッキーとばかりの事象は明るみにでた数をはるかに凌駕して驚くべき数字だろうと想像できます。


本書では強度偽装のネジをめぐる話でしたが、タイトルの『七つの会議』の示す「会議」が「売上げ」という企業の最大テーマを軸に重ねられていて、滑稽感が拭えない感じ。


一主婦の私は短い会社員生活しか体験していませんが、夫や子どもたちの話を通して、企業での多くの時間を様々な会議に費やしていることの愚かさを感じてしまいます。


もちろん上下の意思疎通の場を設けるというのは大切ですが、会議の大半は上位下達がほとんどと想像するに、出来合いの三文芝居のような気がしないではありません。


かなり面白い「七つの会議」でした。

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