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カテゴリ: 柚月裕子

おぼろおぼえお

はじめからなかつたものを手放したもののごとくに惜しみてゐたり


はるか昔の学生時代のこと。

 

ぼーとした学生だったので将来を見据えることなくなんとなく専攻した英語学。

 

中高教員免許はとったものの、卒業年になって自分なりに何をやりたいか

と考えたとき社会福祉士という目標が見つかりました。

 

当時社会福祉課の所長をされていた方を訪ねて相談。

 

国家試験を受けるには専門大学に行くという道を示唆してもらい、名古屋にあった
福祉大学に学士入学したいと親に伝えたところ親戚一同あげての猛反対。

 

今とちがって、女の子は適当なところに就職して
早い段階で適当な結婚をする、というのが親世代の考え方の定番。

 

学費も出さない、という強硬姿勢にあえなくダウン、という根性なしが露呈した話。

 

果たして社会福祉士になっていたとしたら・・・とよく考えますが・・・

自分のようなヘタレには続かなかったかも・・・

きっとすぐ辞めていたかもしれません。

 

社会の片隅の恵まれない人々への理不尽な環境に対する義憤が

いくら強くてもどうにもならないという現実。

 

いまならよくわかる理想と現実の大きな隔たり。

 

結果として結婚して当地を離れるまで、ある企業で特殊な業務に携わりました。

 

その仕事についてはまた機会があればこのブログに残しておきたいと思います。

 

さて本日は福祉にちなんだ物語のご紹介です。

 


パレートの誤算

柚月裕子氏著『パレートの誤算』
 

ベテランケースワーカーの山川が殺された。
新人職員の牧野聡美は彼のあとを継ぎ、生活保護受給世帯を訪問し支援を行うことに。
仕事熱心で人望も厚い山川だったが、訪問先のアパートが燃え、焼け跡から撲殺死体で発見されていた。
聡美は、受給者を訪ねるうちに山川がヤクザと不適切な関係を持っていた可能性に気付くが…。
生活保護の闇に迫る、渾身の社会派ミステリー!(「BOOK」データベースより)

 


脚光を浴びた『孤狼の血』の前哨戦のような形で雑誌連載
されていた本書。

 

至る所に『孤狼の血』への導入の跡がみられます。

 

舞台は瀬戸内海に面した人口20万人ほどの架空の港町・津川市・・・

きっと呉市。

 

『孤狼の血』の舞台も広島県呉市を連想させる呉原市。

本書に登場する強面の刑事・若林警部補もそのまま『孤狼の血』に当てはまる造形。

さて『孤狼の血』との比較はこれくらいにして、本書に移ります。

まず表題の見慣れない「パレート」・・・わたしは最初「パレード」と読み違いをして、
いつ行進が出てくるのだろうか、などと見当違いなことを
思いながら読んでいました"(-""-)"

ここに挙げられているのはヴィルフレド・パレートというイタリアの経済学者だそうです。

そのパレートの導きだした「パレートの法則」に則ってつけられたタイトル。

80対20の法則とも呼ばれていて、ある分野における全体の約8割を、
全体の一部である約2割の要素が生み出している

これは日本で度々引き合いにだされるところの「働き蟻の法則」と同じ。

ある一定数のよく働く蟻と働かない蟻のうち、働かない蟻を取り除いたところ、
よく働く蟻の中から約
2割程度の働かない蟻が出現するという。

この理論からするとその2割以外は不必要・・・社会的弱者は切り捨てるという安易な結論に
つながりやすいという警告が本書の大きなテーマの支線ともなっています。

テーマの柱は生活保護というものを表とするとその裏側にある貧困ビジネスについて。

このコロナ禍でも政府の給付金や支援金を巡り、様々な裏ビジネスが横行している

という記事を目にしている昨今。

社会的弱者と呼ばれる人々・・・それは生活保護受給者のみならず、
介護が必要な高齢者や大人の手が必要な子どもたち。

それは個人の見解によっても変わってくることを思えば、
弱者と位置付ける定義というのはとても難しいと思う。

例えば、直接社会的弱者と接触する県や市の福祉関係の職員個人の見識の相違によって
その弱者といわれる人のその後の運命が決められるかもしれない。

 

そんなことを思うと、つい運不運という思いが巡ってきて先に進めない。

 

しかし本書のように、見えないところで悩み、もがき、そして奮闘している
ケースワーカーをはじめとする方々がいらっしゃるという確信できる現実を
垣間見たりするとき、しみじみありがたいと思うのであります。

まんじゅしゃげこれこれ

拘泥を捨てむと思ふ川土手の向かうに一列赤曼珠沙華


国からある表彰をうけられた方にお祝としてお酒を送るためネット検索していたら銘酒〈而今〉に行き当たりました。

「じこん」「にこん」と二通りの読みができるという「而今」・・お酒では「じこん」。

 

ずっと前TVのドキュメンタリーで観たことがある水上勉氏のテープに遺されていたメッセージ。

 

その中にあった而今」という言葉。

 

道元禅師が中国での修行時代に悟った世界観を指すらしい

意味は「ただ、今、この一瞬」

東進ハイスクールの林修先生の「いまでしょ!」といえばわかりやすいかも知れません。

浅学ゆえに道元禅師の『正法眼蔵』など読んだこともないけれど、道元のこの言葉の由来は雑学本を通して読んだ記憶があります。

 

道元禅師が修行中、炎天下に農作業をしてい老僧に出会ったときの会話。

 

「なぜあなたがこんな辛い仕事をしているのか」との道元の問いに答えて老僧いわく「他は是我にあらず」。

 

さらに道元が「しかもなぜこのような炎天下に」と重ねて問うと、老僧は「さらにいずれの時をか待たん」と答えたという逸話

 


若い頃ならともかく残り少なくなった日々を実感するこの頃。

 

この言葉はいつも忘れないように手のひらに乗せておきたいと思う。

 


銘酒〈
而今〉のほうはネットでは多くの店舗にあったものの、夫のお祝の手紙を添えられなかったので実際の店舗を当たってみましたが残念ながら手に入らなかった。。


一度飲んでみたいお酒であります。

 

 

ウツボカズラの甘い生き 幻冬舎文庫

さて今回は
柚月裕子氏著『ウツボカズラの甘い息』を少し。 

家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまう。
無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって…。
全ては文絵の虚言か企みか?戦慄の犯罪小説

若いころは美しかった容姿も家事や子育ての生活に追われるうち、投げやりになってしまっていた文絵、

そんな文絵が懸賞で当選したディナーショーでかつての同級生・加奈子に出会ったことからある事件に巻き込まれていく過程を描いた作品。

甘言に乗せられて次第にマルチ商法まがいの詐欺に巻き込まれていく文絵サイドからの目線と、ある殺人事件を追う警察サイドの目線から交互に紡がれていく物語。

ある事故によって大切なものを一瞬にして失ってしまい、精神のバランスを崩してしまった文絵が加奈子に会って失っていた未来への希望や自信を徐々に取り戻していく過程が丹念に描かれていて一層の切なさを感じてしまう。

方や、一気にラストへとなだれ込む後半に詐欺主犯の加奈子の生き様が顕わになるが、ずっと以前読んで強い印象を残している宮部みゆき氏の『火車』を思い出してしまった。

『火車』に比べると読後のインパクトがやや薄い感じ。

 

それでもラスト近くの刑事・秦の独白は人間の真実の姿をついていて思わずうなだれてしまう。

多くのものを求めすぎていたと気づくのは、当たり前が失われたときだ。
当たり前の健康、当たり前の三度の食事、当たり前の寝床。
それまで当たり前にあると思っていたなにかが崩れ去ったとき、人は真に大切なものはなにかに気づく。


警察モノを書かせたらかなり際立った刑事を造形する著者ですが、今回の秦圭介中川菜月の刑事コンビはそれらに比べるとやはりちょっと地味ではありますが、しみじみといいコンビ。

ノンストップで読ませてしまう著者の筆力にはいつもながら感服して拙いレビューの終わりとします。

柚月ファンの方、よかったらどうぞ。

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秋空に裸婦のかたちの雲浮けりエゴン・シーレは若く逝きたり


河野太郎防衛相萩生田光一文部科学相が失言を謝罪しておられましたね。

相次ぐ失言を通して辞任に追い込まれる閣僚もいれば開き直る人もいて観ているわたしたちは今更感てんこ盛り。

大学入学共通テストに導入される英語民間検定試験についての萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言はえっていう違和感を覚えてしまいました。

 

格差社会の中で進学もままならない子どもたちがいるという想像力はあるのでしょうか。

 

英語民間検定試験を受けるだけでも金銭的に大変な家庭もあろうと思います。

 

 

この制度は先送りになりましたが、まず身の丈で受けられて平等に評価される受験のシステム作りを考えて実行してほしいと思います。

 

 

さて、失言オンパレードの麻生太郎氏が副総理時代に放たれた一言はすごかった。

憲法改正問題に関するコメントで「ワイマール憲法がナチス憲法に変わった。あの手口を学んだらどうか」というもの。

急いで撤回されましたが、聞き逃しできない文言でした。

また一時期話題になった衆議院議員・杉田水脈氏の言葉。

LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」

LGBTのカップルのみならず、大きな意味で「生産性」のないわたしたちシニア世代は生きていてすみません、としか言いようがない発言でした。

人間を製造マシンに喩えたる〈生産性〉とは貧しき言葉

 

これらは謝罪して取り消しても決して消えることのない、心に打ち込まれた楔のような言葉です。

 

 

これら深刻な失言の中で思い出したのがおもしろさ満載だった森元首相と米元大統領クリントン氏との会談での冒頭の会話。


過去にご紹介したことがあるかもしれませんが、一服のお口直しとして再現してみますね。



森氏:(How are you? と言おうとして間違えたのか) Who are you? 

クリントン氏: (一瞬間があって)
 I’m Hillary’s husband.

森氏: 
Me,too.


クリントン氏、さすがジョークで鍛えられた米国民


でも森氏はいくら体育系とはいえど How と Who の区別くらいはつくはず、これをジョークと取ればクリントン氏のジョークをはるかに凌ぐすばらしい出来栄え、座布団10枚分はあります!

 

 

 

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さて本日は柚月裕子氏著『凶犬の眼』のレビューを少し。

 

映画化「孤狼の血」シリーズ、待望の最新刊!
捜査のためなら、俺は外道にでもなる。
所轄署から田舎の駐在所に異動となった日岡秀一は、穏やかな毎日に虚しさを感じていた。                                               そんななか、懇意のヤクザから建設会社の社長だと紹介された男が、敵対する組長を暗殺して指名手配中の国光寛郎だと確信する。                     彼の身柄を拘束すれば、刑事として現場に戻れるかもしれない。           日岡が目論むなか、国光は自分が手配犯であることを認め「もう少し時間がほしい」と直訴した。                                            男気あふれる国光と接するにつれて、日岡のなかに思いもよらない考えが浮かんでいく……
警察vsヤクザの意地と誇りを賭けた、狂熱の物語







前作『孤狼の血』シリーズの第二弾。 

『孤狼の血』の刑事・大上の個性があまりに強烈だったので、ついつい比較しながら読了。

第一弾でマル暴刑事・大上の下に配属されて捜査のイロハを学んでいたひよっこの日岡が主人公。


県北の山間の駐在所に左遷され
た日岡の日常の描写から物語がスタートします

 

そこに出来るゴルフ場開発工事責任者として全国に指名手配されているヤクザの国光との邂逅によって物語が展開していくという筋立て。

 


前作の突出したキャラクター大上に代わるキャラクターとして登場した国光。

 


任侠道の世界でも突出した男気のある国光。

 


著者・柚月氏も大上に代わる国光の造形に心血を注いだといわれています。

 

前作に比べるとやや迫力的にはマイルドかもしれませんが、その国光の生き方影響を受けながらの日岡の成長ぶりもめざましく十分に第二弾の役割を果たした作品となっています。

 

日岡と国光の辺鄙な田舎町での出会いとか警察官・日岡とヤクザ・国光の兄弟盃など、構成の一部にかなりの違和感を感じましたが、この設定なくして物語の進行はないのでここは読者としては目を瞑りながら堪能しました。

 


あるインタビューで本書のテーマを尋ねられた著者はこのように答えていらっしゃいます。

 

 

『孤狼の血』のテーマは「裏の正義」でしたが、本作のテーマは?

 

柚月:「正義と仁義」でしょうか。

正義と仁義は一文字違うだけですが、意味合いは大きく異なってくる。

なにが正義で、なにが仁義か。

百人いれば百通りの正義があるし仁義もそれぞれの立場によって言い分がある。

自分なりにそのあたりを意識して書いたつもりです。

日岡もその正義と仁義の狭間で葛藤する場面が用意されています。

ある場面で国光との仁義を選んだ日岡は警察官として渡ってははいけないルビコン川をひとまたぎしたのでした。

そこのところの葛藤も大きな見せ場。

よかったらどうぞ。

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娘の帰省の折、恐竜や古墳フリークの娘と当地で開かれていた恐竜展に行ってきました。


6600万年前の白亜紀と新生代との境に多くが絶滅したといわれている恐竜たち

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2億5000万年前 爬虫類から進化した恐竜の出現。

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中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀を通して繁栄したといわれている恐竜の歴史が興味深かったです。

 

2億2500万年前、最古の哺乳類のアデロバシレウスが出現したといわれているそう。



そして約
2億年前超大陸パンゲアがローラシアとゴンドワナに分裂。


1億5000万年前始祖鳥出現

 

1億年前の恐竜の全盛時代を経て約6500万年前巨大隕石の落下によって絶滅。

 

ずっと以前マイケル・クライトン原作の第一弾『ジュラシック・パーク』を観たことがあるけど、なかなかの迫力だったのを思い出します。

 
草食、雑食、肉食恐竜が闊歩していたのを想像すると一挙に黄泉の世界に行ったような錯覚さえ覚えてしまいます。

  メタセコイアの記憶はるかに恐竜の死の哀しみのあるやもしれず

 

 

                    

                    

51RN8UyiezL._SL500_[1]さて今回は柚月裕子氏著『あしたの君へ』です。 

 

裁判所職員採用試験に合格し、家裁調査官に採用された望月大地。
だが、採用されてから任官するまでの二年間――養成課程研修のあいだ、修習生は家庭調査官補・通称“カンポちゃん”と呼ばれる。
試験に合格した二人の同期とともに、九州の県庁所在地にある福森家裁に配属された大地は、当初は関係書類の記載や整理を主に行っていたが、今回、はじめて実際の少年事件を扱うことになっていた。
窃盗を犯した少女。ストーカー事案で逮捕された高校生。一見幸せそうに見えた夫婦。親権を争う父と母のどちらに着いていっていいのかわからない少年。
心を開かない相談者たちを相手に、彼は真実に辿り着き、手を差し伸べることができるのか――
彼らの未来のため、悩み、成長する「カンポちゃん」の物語

 



本書は
69回日本推理作家協会賞を受賞して話題になった『孤狼の血のあとの第1作ということですが、『孤狼の血』とは似ても似つかぬやさしい筆致の作品になっています。

 

 
作家としてますます円熟味を増した著者、こんな作品も書けるのね、という感じのこれまでの著者の作品とは一味印象が違う筆致のもの。

 

 
〈家庭裁判所調査官補〉という職業に就いた望月大地を主人公の
5篇の連作短篇集。

 

 
家庭裁判所調査官の卵・・・通称〈かんぽちゃん〉の望月大地の成長譚。

 

 



◆窃盗で送致された17歳の鈴川友里。

家裁で面接に臨んだものの大地に心を開かず口を閉じたままの友里のかたくなな態度の背景を知ろうと調査をした大地に徐々に真実が明かされる様子を描いた「背負う者」

 

 
◆過度のストーカー行為で送致された16歳の潤。

家裁の面接ではすがすがしい優等生としての顔しか見せていない潤の背景を調べた大地につきつけられた複雑な事情を通して家族というものに思いを馳せる大地を描いた「抱かれる者」

 

 

◆ふるさとでの同窓会に参加した大地が中学時代密かに恋心を抱いていた理沙との久しぶりの邂逅で知った思いがけない理沙の現在の苦境を通して、家裁調査官という自分の仕事の大切さに気づく「縋る者」

 

 


◆見習い調査官補の大地。

修習期間の後半、少年事件から家事事件へと担当が変わっての初めての案件。

精神的な虐待を理由に離婚を訴えている妻と離婚はしたくない夫との調停に加わった大地は自分の調査を通して調停の場では見えなかった夫婦の様相を知って妻の訴えどおりに導くという過程を描いた「責める者」

 

 
◆離婚を通しての親権争いに巻き込まれた10歳の悠真の心の痛みを描いた「迷う者」

 

 


際立った事件は新聞など多くのメディアで目に触れることが多いと思いますが、家庭裁判所での調停の場での出来事を知る機会はわたしたち一般の人にはほとんどないけれど、想像すればこれほど人間という業を見せつけられる場もないでしょう。

 

 


いままでこういう舞台の小説を読んだことのないわたしにはかんぽちゃんの仕事内容は目新しくうつりましたが、事案の結果を翻させるほどの働きを見習いのかんぽちゃんが担っているのだろうか、という疑問は残りました。

 

 案件への調査方法を上司に相談しているとはいえ、ひとりの勇断で当事者の家庭や関係者のところに立ち回ったり、ましては勝敗の決め手になる証拠品を入手して調停の場に出す、なんてほんとうにあるのだろうか。

 これらの疑問はさておいて、若さと経験のなさを通して通り一遍の人生の表面しかなぞれなかったひとりの家裁調査官補が未熟ながらも素直なこころで真っ直ぐに立ち向かっていく姿を描いて秀作でした。

 

興味ある方はどうぞ。

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光の射さない穴蔵であると同時に闇を照らす灯台でもあるという、ほかに類のない場所
イギリスの作家・ヘンリー・ヒッチングズが「本屋」について言及した文章です。

人生の相談所・避難所であり、若者が背伸びする場所であり、はぐれ者を惹きつける場所、情熱を見つける場所であり、「薬局」の役目もすれば「イデオロギーの火薬庫」にもなる

と続きます。


まったくもって、、言い得て妙!

私の人生は本によってかなり潤っています。


私も夫も本好きで寝る前の読書は欠かしたことがありませんが、それぞれの分野はまったく相容れず、一冊の本を取り合ったことは思い返しても半世紀ともに過ごしていますが、まったくなし。


若い頃はともかく、気楽なエンタメに走っている私の読書を常々軽んじている夫ですが、なかなかどうして、あなたこそと私は言いたい。


世界中のスパイ小説を読破しても私のこころが読めない夫

夫の本箱に積みあがっている世界中のスパイ小説が雪崩を起しそうですけど。



この拙い読書ブログにも今まで多くの人々が立ち止まってくださっていますが、ずっと以前そんなおひとりからある本について私が書いた感想は正しくない、というようなご指摘をいただいたことがあります。


さまざまな方のご指摘はとてもありがたく受け留めて自分をふり返るための礎にしていますが、「正しくない」という言葉には違和感を覚えて反応してしまいました。


感想というのは十人十色であるのが当然で、みんな同じであるはずがありません。


ある部分は共感できてもある部分には異論がある、というのが当たり前中の当たり前。


すべてが同じなんてあり得ない・・・そんなことを思い出したのは今日のレビューのタイトルに触発されたから。


まったく異なる意味での「あり得ない」ですけど・・・ね。





柚月裕子氏著『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』



「「殺し」と「傷害」以外、引き受けます。
美貌の元弁護士が、あり得ない依頼に知略をめぐらす鮮烈ミステリー!
不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子は、IQ140 の貴山をアシスタントに、探偵エージェントを運営。
「未来が見える」という人物に経営判断を委ねる二代目社長、賭け将棋で必勝を期すヤクザ……。
明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物がらみの「あり得ない」依頼を解決に導くのだが――。
美貌の元弁護士が、知略をめぐらす鮮烈ミステリー! 『孤狼の血』、『慈雨』(日本推理作家協会賞受賞)、
『慈雨』(本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10・第1位)の著者、最新作!!」


確率的にあり得ない
合理的にあり得ない
戦術的にあり得ない
心情的にあり得ない
心理的にあり得ない

「あり得ない」という思い込みにつけ入るさまざまな犯罪。

または「あり得ない」と思われる依頼。


これらの5つの「あり得ない」ことを解決していく元弁護士・上水流亮子と助手の貴山という訳ありコンビが活躍する5篇の連作短篇集。


ある事件で嵌められて有罪判決を受け弁護士資格を剥奪された上水流亮子と、知らずにその事件に加担した東大卒IQ140の貴山がタッグを組んで上水流エージェンシーという探偵事務所を開業。


依頼人は公にできない揉め事を抱えた人たち。


5篇それぞれで成敗するのは霊媒師、詐欺師、賭け将棋の仕掛け人、上水流亮子を嵌めた首謀者、野球賭博に加担した男。


柚月氏の他作品に見られる深みのある人物描写は本書ではほとんど見られず、そのかわりといっては語弊があるかもしれませんが、奇抜かつ精巧なトリックに特化するという技法が目を惹きます。


分野を問わず、将棋の世界や野球賭博の掛率のからくりなどの精緻さがすごい。


よくここまで調べたなぁと感服してしまうほど。


5篇の解決への道筋はIQ140の貴山の鋭い頭脳にものを言わせた戦略で展開するため、この美貌の元弁護士は必要?と思うほど、貴山の活躍が際立っていてヒロインの存在価値に薄さを感じた作品でした。


シリーズ化と映像化の予感がします。

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月一で無料会場を借りておしゃべりしながら各々勝手に絵を描くという会に参加しています。


実際にはそれぞれの師の下、長年油彩画を学んでいる人たちがほとんど。


友人に誘われて気が進まないまま水彩画を習って3年の私はメンバーの中でいちばんの初心者。


各々モチーフを持ち寄って勝手にデッサンしたり、彩色したり・・・。


ざっくばらんに言うと絵はおまけの井戸端会議風。


TVや新聞、スマホを中心の時の話題で盛り上がることしきり。



井戸端会議を侮ることなかれ。


何が話題にのぼったのか忘れてしまうほどの雑多な内容の中に、キラリと光る生活の知恵がたくさん含まれていて現実にすぐ役に立つのです。


人間関係のいなし方、老いへの向かい方、夫との接し方、今日の献立、病院の選び方・・・。



月一の5時間だけでは足りず、先日は忘年会と称して某和食の店にておしゃべりの続きを。

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さて本日は柚月裕子氏著『検事の本懐』 をご紹介します。 

「12万部突破の法廷ミステリー『最後の証人』著者、最新作! 
出所したばかりの累犯者が起こした窃盗事件の真実を抉る「罪を押す」
県警上層部に渦巻く嫉妬が、連続放火事件の真相を歪める「樹を見る」
同級生を襲った現役警官による卑劣な恐喝事件に、真っ向から対峙する「恩を返す」
東京地検特捜部を舞台に、法と信義の狭間でもがく「拳を握る」
横領弁護士の汚名をきてまで、約束を守り抜いて死んだ男の真情を描く「本懐を知る」。
検事・佐方貞人の姿を描く、『このミス』大賞作家による、骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が、見事に融合した極上の連作集」


初出は2011年「別冊宝島」にて書き下ろし。


第25回山本周五郎賞候補&第15回大藪春彦賞受賞作。


本書は佐方貞人を主人公とするシリーズの第二弾。


時系列では・・・

『最後の証人』 → 『検事の本懐』 → 『検事の死命』 となっています。


ブログでは第三弾『検事の死命』をアップしていますので読んでいただけたらと思います。  


順番が逆になりましたが、第二弾の本書は5つの小品からなる連作短篇集。


「樹を見る」 「罪を押す」 「恩を返す」 「拳を握る」 「本懐を知る」



主人公は若き気鋭の検事・佐方貞人ですが、それぞれの物語の中には脇役として登場するものもあります。


身なりを構わないボサボサ頭の佐方。


しかしどんな場合も佐方なしでは物語が成り立たないほど持ち前の正義感がいぶし銀のごとく光を放っています。


けっして金ではなくあくまでもいぶし銀。



広島の地方都市出身という設定ですが、方言もリアリティがあり・・・過日読んだ『孤狼の血』でも見事な広島弁を披露していたので、著者の経歴に目を通すと岩手県ということにびっくり。


後日談ですが、著者専属の編集者が広島県庄原市出身ということで納得。



本書に収録された5話はどれも秀作ですが、特に「罪を押す」 と「本懐を知る」がすばらしい。



無口で決して見栄えしない外見からは想像できないほど強い信念の下、犯罪に立ち向かう佐方検事。


「罪をおかすのは人間、法より人間を見なければいけない」


そんな佐方ですが、ヘビースモーカーという設定が少し気になります。


今から約8年前の作品ということで、その頃は今のように喫煙者に厳しくなかったのか・・・余談ですが佐方には禁煙してほしい・・・。


それに加えて小爪を拾うようですが、折角の感動作「本懐を知る」で佐方の父がある事件に関与した罪で実刑判決を受け刑に服するシーン。


懲役二年と書かれていたり禁固刑二年と書かれていたり表記がバラバラ。


法制に関しては素人でも「懲役」と「禁固刑」とでは内容が違うのはわかるので、ここは出版社の校閲係にしっかり目を通してほしかった箇所でした。

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